第八話「皇女殿下のやらかし」①
……日も暮れかける頃、ドブ浚いの仕事がようやっと終わったのだった!
昔だったら、階段の昇り降りでヘロヘロになってたのに、今や馬車馬のようにパワフルに動き回っても疲れ知らず。
わたしと同じくらいちっちゃい子達にキラキラした目で見られてしまったけど、ちょっと嬉しい。
思い切りズッコケて、側溝に顔からダイブしたもんで、髪の毛まで泥まみれになってたんけど……。
皆似たようなもんだったんで、街外れの川に行ってスパッと裸になって思い切り水浴びした。
フルオープンな河原で裸になるとか、さすがにちょっと恥ずかしかったけど、他の女の子達も一緒だったし、現役冒険者の女性陣がガッツリ人払いしてくれてたから、あまり気にならなかった……と言うか、新鮮な経験過ぎて、思い切りはしゃいじゃった!
ちなみに、プロシアさんとも水浴びご一緒したんだけど……プロシアさん、脱いでもすごかった……。
夕ご飯は、町外れのギルドの訓練場で大鍋をいくつも用意して、炊き出しも兼ねての大盤振る舞い。
人数は、孤児たちの弟や妹、他にもホームレスの人とかもまじって来たので、百人以上とかになってたけど。
未だに食べるのに困ってるような人は大勢いるので、そう言う人達も拒まないんだそうだ。
メニューはシチューと黒パン……なんて質素なものだけど、おかわり自由。
他にも冒険者の人達が勝手に材料持ち寄って、料理とか作ってたり、お酒持ち込んだりしてたので、ちょっとしたひらめきで、いつぞやの串焼き屋のおっちゃんに今度は本当に金貨一枚で店ごと出張してもらって、振る舞ってもらった。
案の定、速攻で材料が無くなったんだけど、有志の冒険者達が材料調達に出撃して、得体の知れないお肉を大量に持って帰ってきたので、焼肉パーティーみたいになった。
ちなみに、串焼き屋のおっちゃんはもう10回位出張してくれるそうなんで、今後の定番になりそうだった。
それに、なんだかんだでわたしは物珍しいらしく、色んな子達が入れ代わり立ち代わりやってくる。
あの時、プロシアさんから救出してくれたリッキー君って男の子は、今日一日子供たちを仕切りながら、ずっと側にいてくれて、今も近くにいるんだけど、目が合うとツイとそっぽを向かれる……。
でも、別に嫌われてるとか言う訳じゃないみたい……。
まぁ、年下の男の子で、女の子慣れしてない感じだし、ズバリ照れ隠しって奴だね!
……なんか、可愛いって思っちゃった。
14歳って言うから、わたしの方がお姉さんだしねっ!
「あら、皇女様じゃないの……お疲れさん! 聞いたよ……この串焼き肉を手配してくれたんだって? うん、美味いわこれっ! 焼き加減と塩加減が絶妙っ!」
唐突に、親しげに話しかけてきたのは耳長のエルフさん。
エルフとなると、せいぜい数人しかいないんだけど……誰だっけ?
……ギルドメンバーの経歴書を頭のなかでめくっていく。
あ、解った……この人、十傑とか言う凄腕の一人だ!
「えっと……リーザさんでしたっけ? はじめまして……ですよね?」
実際会うのは初めてなんだけど、名前は解るし、挨拶は大事大事。
「あ、ごめんねっ! 今日一日、ずっと見守ってたからすっかり気安くなっちゃったけど、考えてみれば初対面になるのね! そそ、あたしがリーザ! 名前覚えてくれてたなんて、光栄よっ! 嬉しいっ! 見ての通りエルフよ! 皇女様、エルフとかって会ったことある?」
そう言って、その長耳をむしろ誇らしそうにすっと撫でる長耳エルフのリーザさん。
そっか、影で見守っててくれたんだ……大方、お兄ちゃんの指示だろうな。
途中何回か視線感じたのは、リーザさんだったんだね。
……殺気とかそう言うのとも違ったから気になってたんだけど、納得。
ショートカットのこざっぱりとした髪型、髪の色は緑みがかった灰色で目の色は鮮やかなエメラルドグリーン。
耳飾りいっぱいで胸も立派なオトナの女性……いいなぁ! こう言うのって憧れるね。
革鎧にチェニック程度と一見軽装だけど、ところどころ銀細工で装飾された鎧の表面にはびっしりと紋様のようなエルフ文字が刻まれている。
うーん……地、水、火、風の4大元素。
魔力増強、風の結界、解毒と再生、耐刃防御に衝撃緩和……そこまでは読めた。
エルフのルーン文字は文字自体が魔力を持ってるから、文字を書き込むだけで魔術付与がかかるんだけど、文字の組み合わせ次第で色々変化するから、超難解。
さすがに、これ以上は解かんないな……たぶん、10個位の汎用魔術が刻まれていて、複数の組み合わせ発動で100通りくらいの魔術が組める……そんな感じだと思う……。
とにかく、コレでもかと言うほどに魔術が仕込まれた一品物の鎧……凄いな……コレ。
ギルド十傑……ギルドの冒険者の中でもトップ10人をそう呼んでるらしいけど。
リーザさんは、自由自在に精霊を操る凄腕の精霊術師だと言う話、こりゃ凄いな。
……魔道具とか色々独自開発したりしてるって話だから、たぶんこの鎧も自前……こんなもん作れるような魔装具職人なんて、皇都にだっていないよ……。
と言うか、エルフって、人間嫌いって聞いてたんだけど、実物はメチャクチャ気さくだった。
それに、肉とかも食べないし、お酒も飲まないって聞いてたのに、火酒とか言う濃いお酒の瓶を片手に、串焼き肉を美味しそうに食べてる……わたしの想像してたエルフ像は木っ端微塵に吹っ飛んだ。
「そ、そうですね……え、えっとエルフの方はさすがに初めてです……綺麗な水と空気がないと生きれないとか聞いたんですけど、大丈夫なんですか? それにお肉も食べれないって……」
わたしがそう言うと、目を丸くして何言ってんの? と言わんばかりの顔をされた。
まぁ、そうだよねー。
「んー、むしろそれ……誰が言ってんのか聞きたいんだけど。やっぱ、帝国の皇族様にはそんな風に伝わってるんだ……。まぁ、森に住んでる連中は環境変わるとすぐ病気になったりするけど、あたしらワタリは選ばれし者だし、普段から鍛えてるから平気! お肉も美味しいから、モリモリ食べる……火酒は強烈だけど、この味……たまらないね! 皇女様も飲むかい?」
そう言って、酒瓶を向けられる……たしかコレって、炙ると火がつくとか言う代物。
普通の人だって、こんなカパカパ飲むようなものじゃない……。
「あはは……お酒は……飲んだこと無いから、遠慮します……。けど、ごめんなさい……帝国の基礎教育読本には、そんな風に書いてあるんですよ……肌が緑で光合成で生きられる植物人間だとか」
「あ、それ……多分、樹海に住んでるドライアードと混同してる……と言うか、帝国のエルフ差別ってそんな低レベルな教育から来てるのか……何とも世知辛い話ですこと……とほほ」
うわちゃぁ……やっぱ書物で聞きかじった知識って当てにならないね……。
けど、ドライアードなんてのがいるんだ……知らなかった……やっぱ世界は未知に溢れてるんだねぇ……。
って言うか、低レベルの教育とか言われてるし……これはもう帝国自体の恥と受け取るべきだろう……ぐぬぬ。
皇女殿下……さらっとエルフのルーン文字の解析なんてやってますけど、これ普通の人には無理だったり……。
彼女は、ある意味知識チートだったりします、魔術の行使は能力の関係で一部を除いて、一切できませんけどね。(笑)




