第七話「エド暗躍、そして頼もしき仲間達」①
「珍しいじゃん……エドの旦那が俺達のとこに顔出すなんてよ……」
目ざとく俺を見かけたガキどもの取りまとめ役、Cランク冒険者リッキー少年がそんな風に話しかけてきた。
こいつも戦災孤児で、俺から財布をスリ取ろうとしやがったんで、とっ捕まえて警務隊に引き渡す代わりに飯食わせて、冒険者にならないかとスカウトしたのが、付き合いの始まりだった。
実際、狙われてるのは解ってたのに、あっさりスられてしまったのだから、俺の負けっちゃ負け。
もっともその後、延々二時間位追いかけ回して、向こうが根負けしたんだがな……根性なら、誰にも負けないってのが俺の自慢。
ともあれ、それをきっかけにコソ泥を卒業し、冒険者デビュー。
剣術の才能があったらしくメキメキ頭角を現して、今やCランクの中でも限りなくBランクに近いと評されるほどだった。
戦災孤児組の中でもちょっとしたヒーロー……なので、仕切り役には最適だった。
今回の仕切りを上手くやったら、めでたくBランク昇格資格を付与する予定だ。
けれど、あくまで昇格試験に挑戦する資格ってだけだから、実際には色々な試練に合格しないといけないんだがな。
ちなみに、ギルド女子寮の寮母を任せてるソフィアは、こいつの姉でもある……まぁ、それもあるから、絶対裏切らないヤツの一人と言えよう。
「……詳しくは言えんが、面倒な奴を預かってな……ひとまず、そいつにお前らの仕事ぶりを見せてやれ……多分、色々出しゃばったり、ワガママぶっこいたりするだろうが、対処に困ったら俺に言え……わかったな?」
皇女殿下は……今のところ、プロシアに捕まっておっぱいハグで窒息しかけてるように見えるけど……多分、大丈夫だろ。
落とされても、プロシアなら対処出来るしな。
と言うか、すでにグダングダンになってるように見えるから、手遅れかも……すげぇな……プロシア。
仮にも皇族のアイシアを撃沈するとは……。
「へへっ……と言うか、噂のお姫様だろ? 姉貴から聞いてるから、それくらい知ってるさ……偉ぶって可愛げのない奴だと思ってたのに、何だあれ? いきなり、チビどもに超懐かれてるし……俺も普通によろしくーなんて、超軽い調子で頭下げられたんだけどさ……と言うか、プロシアのあれ食らってるみたいだけど、大丈夫なのか?」
「リッキー少年、ここはひとつ素直になりたまえ……俺にもやってーって言って、代わりに食らってこいよ……」
誰が呼んだか、別名「聖女の祝福」……男女問わずやるから、ある意味凶器だ。
図体もデカくて、片手で大の男を抱えられるくらいにはパワフルな女傑なので、そのグレイツな双丘に包まれて、呼吸困難になって気絶した奴は数知れず。
役得とばかりに、だらしなくニヤついてた野郎がぐったりして動かなくなるとか、結構見ものです。
「でっ! いや、俺は……え、遠慮する……って言うか、気に入った相手に男女問わずアレ食らわすの止めて欲しいんだけどな……チビどもの教育上よろしくないぜ」
「なんだよ……リッキー少年、最初は鼻の下伸ばしながら幸せそうに気絶してたくせに……君も男の子だねぇ……」
「……か、からかわないでくださいよ……お、俺も監督の仕事があるから、もう行きますよ!」
リッキー少年が、アイシアの所に走っていって、プロシアから救出。
どうやらギリギリで意識を保てたようで、フラフラにはなってるが、割りと元気そうだった。
名残惜しそうなプロシアを残して、リッキー少年はアイシアを連れて、パタパタと視界から消えていった。
ぞろぞろとその後を追う、ガキンチョ共……どうもガキンチョ共なりに皇女様を助けようとはしてたらしい……。
けど、それを見て、なんとも安心した。
世話役を押し付けたソフィアからも話は聞いてるのだけど、アイシアは庶民だの貴族だのと、人を区別すると言う発想がそもそも無かった……。
一応、客間で寝かせるようにソフィアには言っておいたのだけど、雑魚寝部屋で他の連中と一緒に寝てたらしいし……。
世間知らずなだけに、差別意識とか自分が特別な存在とか、微塵にも思ってないのだろう。
この国の皇族が皆、アイツみたいだったら……きっと、この国は随分マシになっていただろう。
実際問題、皇太子の二人はどっちも選民意識の塊で、帝国の覇権を大陸全土に轟かせる……とかそんな夢物語を真面目に言っているのだから、始末が悪い。
それを考えると、あいつを皇帝の座に付ける……実にやりがいがある仕事だった。
とにかく、あの分だとあっちは放っといていいだろう。
こっちはこっちで色々仕事があるのだ。
……本来ならば、本部の執務室で統括指揮をとりたいところなんだが……。
わざわざ現場に出張っているのは、何とも俺らしくもなかった。
……一応、俺はアイシアの保護者のようなものなのだから、あえて現場に出張って来たのだ。
一応、就任初日ですから、近くで見てないと、もう心配で心配で……。
まったくもって、俺も面倒くさいやつだと自分で思う。
「こちらリーザ……エドちゃん、定時報告してもいいかしらん?」
……Aクラス冒険者のリーザからの定時報告だった。
彼女とシュタイナにはこの付近の警戒を命じていた。
百発百中の魔導銃撃手とエルフの最高位精霊使い……ギルド十傑と呼ばれるトップクラス冒険者のうち二人を周辺警戒に投入するとか、なかなかに贅沢な布陣だった。
更に別に呼んでも居ないのにプロシア達「星光教会奉仕騎士団」のメンツも応援に来てくれていた。
……彼らは元々星光教会の独立武装組織で復興ボランティアとして派遣されてきていたのだけど、仕事が被りまくるので、冒険者登録しないかと持ちかけたらあっさり了承してくれた……いわば身内のようなものだった。
全部で20人ほどで、聖騎士だの聖術師などを多数抱える我が冒険者ギルドの中でも一大勢力でもある。
なにより騎士団長の「聖女」プロシアさんは筋金入りのお人好し。
冒険者ランクもAクラス認定、十傑の一人に名を連ね……世のため人のためを本気で実践しているので、頼まずとも何かと言うと勝手に出しゃばって来る。
大戦の時も、銃砲弾の飛び交う戦場のど真ん中で、負傷した両軍の兵士を片っ端から治療して回っていたというのだから……恐れ入る。
今もプロシアさんは、ツナギ姿で子供たちに紛れて、ドブ浚い中。
路上で生着替えとか大胆な事をしてたけど、今に始まったことじゃないから、見てみない振りをするのが、皆のお約束だ。
……と言うか、ガン見とかしてると、祝福されるので、解ってるやつはそっと目線を逸らすのがマナー。
他のメンバーも攫ったヘドロの山を荷車に積んで、街の外まで運ぶような力仕事を率先して引き受けている。
おまけに、報酬も基本受け取らずに全額寄付にまわしてしまう……全く持って頭が上がらない。
よく見ると、流れの冒険者連中も参加してる……報酬なんて気持ちくらいしか出ないのによくやると思うんだが、自主的にやってるんだから、文句は付けない。
と言うか、プロシアの世話になって命拾いしたヤツも少なくないから、こう言う機会があると皆、割りと率先して手伝ってくれる。
昔はこんな仕事やってられるかとか騒いでたモヒカンの荒くれ者達も混ざってる……こう言う善意の連鎖ってのは、見てて気持ちいいよな。
他にもCランとDランのパーティ、合計10パーティーに街路巡回警備ミッションを与えているし、リーザ達の報告によると俺と協力関係にある西方情報軍の連中も自主的に周辺警戒をしてくれているようだった。
……情報軍の方は、警戒というより何か起きることを期待してるのかもしれんが……いずれにせよ妙なのが紛れ込めば、すぐに解るだろう。
ちょっと大げさと思わなくもなかったが、アイシアの冒険者ギルドデビュー初日なのだから警戒するに越したことはない。
と言うか……それ位には何が起きるか解らない状況なのだ。
今作もなんだかんだでロリ豊作です。
なお、ギルド十傑は大人ばっかです。
十傑の元ネタは知る人ぞ知るGRのあの方々!(笑)
きっと全員上半身が微動だにしない十傑集走りくらい習得してますってば!




