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第五話「俺と皇女様の二人三脚行」②

 それにしても……アレクセイがこうもあっさりとギルドマスターの地位を譲り渡したとなると、皇帝陛下の強い要望があったのかもしれない。


 皇帝陛下の御言葉は、この国では勅命とも呼ばれ、それに逆らうとか論外なのだから仕方ない……それに皇帝陛下の若い頃の友人でもあると言う話なので、個人的な意向を受けているのかもしれない。

 

 我らが冒険者ギルドの運営資金も、少なからぬ援助を帝国から頂いているので、スポンサーの意向と言えなくもない。

 

 ……うちに常駐してる冒険者連中が西方へ入る際、チェックが厳しくなることと、西方出身の冒険者が何名か引き上げるかもしれないが、全体的には大きな問題にはならないだろう。

 

 それに、西方の情報軍には顔が利くから、便宜を図ってもらう事も出来なくもない……あまり、借りを作りたくはない相手なのだが……冒険者達に不都合を強いる訳にもいけないので、やむを得まい。

 

 西方関係のスポンサーへの影響は……あまり良い顔はされないだろうが、スポンサー連中は元々俺達冒険者ギルドへの影響力が欲しくて資金を出しているようなものなのだ。

 

 つまり、金を出す代わりに口も出す……供出する資金が多いほど、その影響力は強くなる……実に解りやすい図式だ。


 トップが気に食わないからと手を引いて、影響力まで失ってしまうのでは本末転倒……であれば、資金面はこれまで同様……むしろ、帝国からの援助金の増額、西方側のスポンサーがそれに対抗して、更なる資金増、雪だるま方式に活動資金の増額とか期待できるかもしれない……そう考えると悪くない。

 

 街に溢れる戦災孤児達を積極的に冒険者として雇い入れる……そんな事業を始めたのは俺が言い出しっぺなのだが、当然のように赤字事業と化していて、資金繰りに難儀してたのも事実なので、これは奇貨と思うべきだろう。

 

 ギルドマスターについても、アレクセイの武勇は確かに頼もしかったのだけど……皇女殿下も皇族な以上、例の守護者の力を持っているはず……。

 

 体捌きとか体つきを見る限り、どうみても戦闘経験とかなさそうだけど、皇族の持つ守護者の力とやらは、大戦の結末をみるまでもなく、はっきり言って無敵に近い……いざと言う時の備えとしては、最上級と言えるだろう。

 

 そんな風に様々な計算の末、俺も俺なりにこの人事は悪くないとの結論に達した。

 

 冒険者ギルドの他の支部から、異論はあるだろうが……元々各都市のギルドは独立性が強い。

 王族や貴族がギルドマスターを努めているケースも多いし、元商売人だの元傭兵だのと出自の怪しげなものがギルドマスターと言うところも多い。


 もちろん、元冒険者と言うパターンはもはや定番だった。

 

 どこも固定のお抱え冒険者を抱えて独自の武力を持っているし、中立と言う建前ながら、国益のために動くこともあれば、紛争に手を貸すことだって珍しくない。

 

 戦場で、冒険者同士がかち合う……なんて話も良くあること。

 

 帝国内のギルドとなると、元より完全中立なんて望めるわけがない……皇族が名目上のギルドマスターに就任した前例だってあるくらいだ……まぁ、皇族がお飾りだった時代の話ではあるけど、前例は前例だ。

 

 規定に明文化されていない以上、前例があると言うのは絶大な効力を発揮する。

 

 合同ギルド会議で吊るし上げられたら、この線で押し切るしかないが、多分押し切れるだろう……やれやれ、何で俺がこんな心配をせねばならないんだか。

 

 そんな風に一人で納得しつつ、頷いていると、アレクセイが無言で頷く。

 

 理解したか? とでも言いたげな様子だった。

 この狸オヤジ……俺の考え読んだな? その辺は全部、計算済みでの決断ってことかよ……食えないハゲだ。

 

 そして、問題の皇女様は……只今絶賛、ギルドマスター職の引き継ぎ処理中。

 

 大量の引き継ぎ事項や各種誓約文の記載された書類、資料に目を通してもらって、読みましたよと言う確認のサインをもらうと言う単純な作業なんだけどな。

 

 ちゃんと読んでるのか疑わしかったけど、どうも速読術でも身につけているらしく、忙しく目を動かして、ペラペラと捲るようにドンドン書類にサインを連ねていく。

 

 細かい規定文やら、古臭い言い回し……小難しい法律用語なんかも大量にあるはずなので、いつでも助言できるように待機しているのだが、手の勢いが全く止まらない……。

 

 時より手を止めるのだけど、資料の山から手早く目的の資料を探し当てると、これもパラパラと流し読みして、納得したようにサインの続き。

  

 ……必然的に、俺は突っ立ってるだけだ。

 

 チンチクリンとか言ってたけど訂正する……こいつ意外とどころか、めちゃくちゃ有能。


 たぶん、知識や教養に関しては、俺なんか比べ物にならないような気がする……と言うか、情報処理能力が恐ろしく高い……なんなんだこれ……。

 

 これが皇族……なのだろうか?

 

 ……こうなると、ホントに見た目通りの子供かもどうか疑わしくなってくる。

 16歳にはとても見えないんだけど、この見た目に騙されたら、絶対痛い目に合う……。


 ちなみに、ハゲについては、明日から浮浪者決定とか思ってたら、なんと皇帝陛下直々に帝都防衛師団名誉顧問の職を任命されたらしい。

 

 限りなく名誉職なのだが、男爵の爵位と代官付きで経営義務のない領地、おまけに帝都に豪邸が与えられ、本人が死ぬまで付与される貴族年金まで付いてくる……明日から皇都で遊んで暮らせることが確定したようなものだった。

 

 地位と名誉と金……どれも元戦災孤児の俺には縁のないものなんだが、そんな餌をチラつかされて、高潔さを保てないほどには、アレクセイの親父は俗物だったというわけだ。

  

 まぁ、知ってたけどな!

 

 冒険者から身を立てて、帝国有数の武人と呼ばれ、大戦でも幾多の戦いで武勲をあげた帝国軍でも知らない者はいないと言われるほどの有名人。

 

 帝国最高の武人、皇帝陛下の信任厚き武将……そんな世間の評判とは裏腹に、実態は酒好き釣りキチ、女遊びと賭け事が大好きな道楽クソオヤジだからな!


 それに俺が同じ立場だったら、即決だったろうからなぁ……。

 正直、責められん……責められんが、俺はどうなるんだ? これから。

 

 考えてみれば、この一年くらいハゲオヤジと来たら、余程の難事以外一切手も口も出さず、まるで俺がギルドマスターになったような調子だったのだが……皇女様が来なくても近いうちに引退するつもりだったのかもしれない。


 ジジイのくせに、色々と老獪だからな……まったく。

 それに……何もかも失って、生きる希望も目的も失い……死にかけてた俺を拾い上げてくれた恩人ではあるからな。


 気楽な隠居生活を送るということなら、それを見送るのも義理の息子としての役目かもしれない。

 

「……ふぅ……これで終わり? 書類のサインこんなにやったの初めてだから疲れたわ……アレクセイ殿……今日まで、ご苦労様であったな」


 山のような書類へのサインを終えた皇女様が、子供口調と偉そうな口調が入り混じったヘンテコな口調で、アレクセイへ呼びかける。

 

 実際、声の方は見た目相応の幼く可愛らしい声なので、無理すんなと言いたくなるが……一応、相応に偉い人なんだから、威厳を出してるつもりなんだろうな。

 

 なんとなくだか、むしろ好感が持てた。

 ……威厳は無いけど、これはこれで可愛いような気もするから許せる。


 それにその能力の片鱗も理解できた……俺も普段から事務仕事やってるから、その辺はよく解る。

 まぁ、俺も皇族だからと遊ばせておくつもりもないから、少しは俺の仕事も手伝ってもらうこともあるかもしれない。

 少しは俺の仕事も楽ができると思えば、大抵のことを許せる。

 

「いえいえ……我が部下共ときたら、何かと言うと引退間近の老骨をこき使うような奴らばかりでして……皇女殿下が我がギルドを引き継いでいただけるのであれば、何ら心残りもありません。後のことは、こいつがいますからな……どうか手足のごとくこき使ってやってください」


 あっさりと、最高に晴れ晴れとした笑顔と共にグッと親指を立てながら、そうのたまうアレクセイの親父。

 禿頭にランプの明かりが反射してキラリと光って、思わず吹いた。

 

 皇女様も同じものを目にしたらしく、笑いを堪えながら、何とも面白い顔をしている。

 思わず目が合ってしまって、どちらからともなく吹いた。

 

 ……ハゲオヤジ、これがワザとならある意味すげぇ……緊張感とか台無しだ。

この小説……展開は忙ず、丁寧に描写を心がけてます。

なお、まだプロローグの模様。(笑)

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