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第五話「俺と皇女様の二人三脚行」①

 青天の霹靂へきれきって言葉を知ってるだろうか?

 

 青く晴れた空の下、いきなり雷に打たれるとかそんな意味の言葉だ。

 

 何代目かの皇帝陛下がそんな死に方をしたという事で、ちょっとした故事になってる。

 人生何が起こるかわからないから、常日頃から何があっても驚かないように、心構えだけは忘れるな……そんなところだ。

 

 ……チラリと、いつもなら威厳あふれる鬼瓦のような面構えの禿げたギルマスが座っていた執務机の方へ視線を送る。

 そこに座っているのは、ハゲではなく身長130cm弱のチンチクリンのチビ……長く黒い髪と金色の瞳が嫌が応にでも目を引く。

 

 チビ娘……いやそんな呼び方は不敬である……ここは皇女殿下と呼ばねばなるまい。

 

 備え付けの椅子だと、机から顔が出るだけだったと言う残念な事実が判明したので、何も言わず向かいの料理屋からカウンター用の座面がやたら高い椅子を半ば強奪して来た。

 

 自分が小さいことは、本人も解っていたようで、別に気を悪くする訳でもなく黙ってご利用いただけた。

 と言うか、大変満足いただけたようだった……もうこの椅子は皇女殿下専用椅子として買い取ることにしよう。

 時々、家族連れの子供用に使われているのも見かけるのだが、それは秘密とするのが誰にとっても幸せな気がする。


 いずれにせよ、皇女殿下の機嫌を損ねることもなく、実に迅速な対応が出来た。

 俺、ナイス……あと、女将さんすんません。

 

 そして、今現在……時刻はとっくに日も暮れた夜の20時頃。


 いつもなら定時の17時に上がって、酒場で一杯のエールと夕食を食べながら、後ろ暗い連中と後ろ暗いやり取りをする……そんないわば裏稼業に勤しむ時間帯だ。

 

 たまに、残業で書類と戦ってる事もあるが……俺は極力残業とかしない主義だ。

 自分の仕事が片付いたら、余計な仕事が増える前に撤収する……その為なら窓から退出することだってある。

  

 まぁ、今日に限っては、帰れる状況でもないので甘んじて受けよう……。

 

 さて、皇女様の右隣には、借りてきた猫のように無言で恭しく片膝を付く元ギルドマスターのアレクセイ。

 

 そして左側には、コーヒーの入ったポットを抱えて所在なげに突っ立ってる俺がいる。

 

 ちなみに、皇女様がその小さな両手で抱えたカップから幸せそうにチビチビ飲んでいるのは、コーヒーに大量のミルクと砂糖をブチ込んだコーヒーの香りのする何かだ。

 

 少なくとも俺は角砂糖をとろみが付くほど放り込んだ飲み物をコーヒーとか認めない。

 

 最初、ブラックをそのまま飲もうとしたのだけど、一口飲んでこの世の終わりのような顔をしたと思ったら、大量のミルクと砂糖をブチ込んだ……舌に関しては見た目通りのお子様舌らしい。

 

 この一生懸命、書類を眺めながらサインを繰り返しているチンチクリンの名は「アイリュシア・ファロ・ザカリテウス」

 

 このザカリテウス帝国と同じ名を持つ皇族の一人……皇女様なのである。

 

 本来、帝都で浮世離れした生活を送っているはずの雲の上の人であり、前大戦で帝国軍を打ち破り、帝国本土へなだれ込んだ共和国の誇る大戦車隊を打ち破った、皇帝陛下の実の娘のひとり。

 

 外洋の覇者であり先進技術大国……ルシャナ共和国がビビって大陸から手を引いて、引き篭もってしまったほどの恐怖と破壊を振りまいた……それが皇帝陛下の為した偉業。


 ……皇帝陛下の人知を超えた力の前に、大陸を二分した大戦は強制終了したのだ。

 

 そして、彼女もその皇帝陛下と同じ力を有すると言われる皇族の一人。

 それほどの強者が目の前にいるのだが……噂に聞いていたバケモノ共とはどうしてもイメージが重ならない。

 

 そしてなにより、この御方は、今日俺の職場たる冒険者ギルドへ唐突にやってきて、前任者より新ギルドマスター就任を高々と宣言されたばかりだった。

 

 当の元ギルドマスターとなってしまったアレクセイは何やら含みのある様子だったが。

 ナンバーツーたるこの俺は、何も聞いてなかった。

 

 と言うか……この皇女様……病弱だったのに、皇位継承権第三位とかなって……帝国によるグランドリア接収計画とかの一環でここに来るって噂じゃなかったのか?

 

 それがなんで、中立の冒険者ギルドのギルドマスターに収まっちゃったの? 継承権第三位とかそんなのがギルドマスターとかいいの?


 ……大問題なんじゃないのか? これ。

 

 などと色々思うところはあるのだけど、アレクセイのハゲオヤジは俺に一切の説明無し。

 

 このギルドのナンバーツーたる俺がこんな有様では、他の連中にとってはもっと解らん……と言うわけで、まさに寝耳に水の話だった。

 

 つまり、慌てたところで何もかももう遅い……。

 

 階下では、さっそく事務方や冒険者たちが集まって大騒ぎしてるようだった……。

 

 この執務室の扉の前にも、何人か耳聡い奴が集まって聞き耳を立ててたのだけど、まとめてお引き取りを願った。

 

 とりあえず、手の開いているAランク以上の冒険者を全員ギルド本部にて臨戦態勢で待機させ、適時各々の判断で各員へ指示出しするように命じておいた。

 

 なにせ、現状このギルドはトップ不在、ナンバーツーも執務室で事実上の拘束中……何かデカい事件でも起きても、すぐに対応できない。

 

 ……皇女様の件は……まぁ、隠すような話でもないし、そもそも堂々とギルドの受付に来て名乗りを上げたそうなので、一気に噂になったらしい……たぶん、もう説明不要だと思う。

 

 Cランク以下の冒険者達は、夜警任務や遠征任務をあてがってる連中以外、一旦宿舎に帰って、追って沙汰があるまで待機するよう命じている。

 

 仕事明けの酒場で一杯とかは、今夜に限っては遠慮していただいている。

  

 EやらFランクのド初心者やスラムの戦災孤児連中には、明日はいつもどおり街のゴミ拾いとドブ浚いでもやらせる予定なので、何も知らせてない。

 

 子供もド初心者冒険者も夜はさっさと寝てくれ。

 

 こう言う上層部が機能麻痺するような非常事態時の対応マニュアルも、予め俺が作っておいたので、具体的な指示と言っても、シシリアおばさん達、事務方にマニュアルの通し番号を指定するだけで終わってる。

 

 ……俺の有能っぷりに、事務員連中はしきりに感心していたので、明日からはサボりとか多目に見てくれると嬉しい。

 

 と言うか、アレクセイのハゲオヤジが何かと言うと雲隠れしやがるから、本来ギルドマスターがこなすべき業務の大半を俺が全部こなしていたのだ。

 

 真面目にやってたら過労死しかねないから、大量のマニュアルを整備して、俺が居なくとも問題ない……つまり、適度にサボれる環境を作っているのだ。


 ……俺の名誉のために言っておくが、俺のサボりはサボりではない……適度に休むのも仕事のうちなのだ。

 徴兵され送り込まれた戦場で俺が学んだ生き残るコツのひとつがそれだった。

 

 人間……24時間なんて戦えませんから! ……それに100%以上の力なんて出せません!

 だからこそ、基本は6ー8割くらいの手抜き運転で、いざと言う時に100%の力が発揮できるように備える。


 それが賢い人間の仕事の仕方ってもんだ。

 

 ちなみに、前任者が後任のギルドマスター就任の宣言をした時点で、ハゲオヤジは自動的にクビとなる。

 ……このハゲマスターは、自らの首を掻っ切って、ただのハゲになった……そういう訳だ。


 俺も自分で何言ってるか解かんねーあたり、だいぶ混乱しているらしい。


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