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9話

「さてと、餌の…間違えた。囮のユウキはどんな様子かなっと。遠き彼方まで我に示せ、フェルンスコープ」

「餌って酷いですが囮もどうかと思います」

「まあまあ、細かい事を気にすると小皺が増えるよ?」

「な、まだそんな年齢じゃありません!もう…ユウキ様は大丈夫ですか?」

 海中の様子を知る為に遠見の魔法を使う。カリーナちゃんから何やら物言いが入ったけれど、笑って誤魔化す。

「うわああああ、おぼ、溺れる!ケイの鬼!無事に戻れたら襲ってやる!ヒイヒイ言わせてフミより良いって言わせてやるう!」

 台詞も顔も情けないけれど元気そうだなあ。しかしまあ、横を見るのが怖いな…カリーナちゃんが生きたまま悪霊化している気がする。

「ケイさん、こちらから声を送れますか?」

「うん?出来るけれど、どうしたの?」

「理由は何でも良いじゃないですか…どうやれば良いですか?」

 こ、怖い!怒っていらっしゃる。子供みたいな年齢でも女性だなあ、なんて思いながら視線で釣り糸を示しながら言う。

「大きい声で言えば糸を介して伝えられるよ、見本を見せるね。おーい、ユウキ。慌てなくても溺れないから落ち着け!」

 ちょっと大きめの声で手元に向かって言う。

「ケイ?どこから声が聞こえるんだ。それよりも酷いじゃないか!ここは一つ誠意を見せてもらいたいな」

「誠意?具体的には、どうすれば良い?」

 お互いに話が出来るという事が何を意味するか、全く気付いていないユウキは私の誘導に引っ掛かる。

「クラーケン退治が終わったら二人で食事に行こうか。もちろん朝まで時間を開けておくように」

「誰と誰が二人で食事に行くのですか?」

 ユウキは当たり前な質問をするなよと言いたげだけれど、私の代わりにカリーナちゃんが質問した事にはまだ気付かない。バカだな。

「俺とケイに決まっているだろう?フミとは違うところを見せてやるさ」

「そうですか。フミさんに報告しておきますね。クラーケンはかなり獰猛らしいですが、頑張って下さいね?ユ・ウ・キ様」

「何でフミに報告する…あれ?…えっと…まさか、カリーナ?」

 ここで私に再びバトンタッチ。

「カリーナちゃんを任せたって自分で言ったじゃないか?知らないからな」

「う、いや、そのう」

 やれやれと思う。ユウキは少しの間ブツブツと何かを呟いていて、カリーナちゃんはテへッという感じで笑っていた。


 因みにそんなほのぼのした雰囲気を維持出来たのは、ジョニーが側で盾となって頑張ってくれていたからだった。

 何を言っているのか聞き取り困難な叫び声をあげて、私とカリーナちゃんに襲い掛かってくる半魚人は結構いた。

 全部細切れや三枚卸になっているから、私とカリーナちゃんは掠り傷さえない。

「ありがとう、ジョニー。なるべく早い段階でクラーケンが出てくるように祈って」

「大丈夫ですにゃ。大したことない連中ですにゃ」

 頼りになるわ、猫執事。そう和んだ瞬間に強烈な引きとユウキの悲鳴が聞こえた。

「で、出た!クラーケンが出た!ケイ!」

「うるさいな!聞こえているよ…予想以上に力が強い!ぐうう…」

 フェルンスコープで確認する限りではまだ触手というか、触腕で引っ張っているだけなのに船首の縁まで引きずられる。

 そして海面が近くなったという事は、半魚人達に見つかりやすくなるわけで。何だろう、群の中に何か色鮮やかな個体がいる?

「イッターイ!何?私の防御力を無視するってどういう事!」

「きゃあああ!ケイさん!大丈夫ですか!」

「大丈夫だよ、多分ね。ちょっと掠っただけだよ。ジョニー、カリーナちゃんを中心に守って」

「しかし、ケイ様…その傷を無視するのは危険ですにゃ!」

 カリーナちゃんやジョニーが心配するのも一応理解出来るよ?色の違う半魚人が投げつけてきた槍が脇腹を抉ったからさ。でも釣り竿から手を離すわけにいかない。

 素早く片手だけ離してポーチから回復ポーションを取り出すか、カリーナちゃんに出してもらうかと考えた時に更に強い引きがくる。

 ユウキの騒ぎ方も激しいからチラッと見ると、本体のご登場で檻をガジガジと噛んでいた。良く考えたらグロイ映像だわ。

 痛みと出血が続くから竿を掴む手から力を抜きたいなと思うけれど、今の状況じゃどう考えても無理だよね。

 船首で的みたいになっているから半魚人達は次々と槍を投げてくるし、ジョニーもカリーナちゃんを守りながらだから叩き落とすしか出来ていない。

「何気にピンチかな?これは素直に助けを呼ぶかな…旦那さーん!怪我しちゃったから助けて!ごめんね、シン!」

「大丈夫だよ、そっち程激しくないからね。フミが走って行ったからね」

 シンちゃんの返事が終わらない内に、物凄い勢いで旦那さんが駆け寄ってきた。


「嫁さん!怪我ってどういう事?本当に怪我しているじゃないか!」

「騒がなくても良いからもっと側に来て、ジョニーはカリーナちゃんを連れて下がって」

 黙って頷くとジョニーとカリーナちゃんが離れていく。旦那さんに小声で話をする。

「旦那さん小声でお願いね。カリーナちゃんに不審に思われないようにさ」

「了解、傷はどうする?嫁さんの防御力を上回るとか、疑問があるけれど治療しよう?嫁さんのスベスベお肌に傷なんて、お父さんは認めませんよ!」

「誰がお父さんだい。何をバカな事…放置しても治るけれど、不老不死だと知られるわけにいかない。ポーチにポーションがあるから」

「ちょっとした冗談なのにな、振り掛けるから冷たいかもね」

「うっひゃ!暖めてって言えば良かった」

 旦那さんの言葉通りにちょっと冷たかった。あっという間に傷が消えていく。

「ついでに防御力を二段階位補強して。あいつらの中に別カラーの個体がいて、あっさり突破された結果があの怪我だから」

「僕の支援魔法はマロに比べると、効果が薄いけれど無いよりは良いか。別カラー?いわゆるユニーク?撃破は…まだだよね。シンの方には戻らないで援護する」

 眉をひそめた旦那さんはバン国王から貰った指輪を使って、ユウキとカリーナちゃんを除く全員に注意を促す。

 ユニークらしい個体が、一匹だけとは限らないから気をつける方が良い。

「旦那さんがサポートしてくれるからユウキの方を何とかしますか…放置はまずかったかな?」

 ユウキの様子を見ると檻の中央にしゃがみ込んでプルプルしていた。小型犬みたいだな。

「ユウキ?正気を保てている?返事しろ」

「ケ、ケイ?こいつ諦めが悪くてさ、ずっと檻を噛んでいるんだ。斬りつけても怯まないんだよ」

 それなりに頑張っていたのか。斬りつけても効果なしはよろしくないな。

「どこを斬りつけた?深さはどの程度?」

「向こうはこっちに侵入出来ないから、触腕に檻の端から剣の柄近くまで突き刺した。他には多分口だと思う部分を何度も斬りつけた」

「怖いのに頑張ったのか、戻ったらカリーナちゃんとデートに行く軍資金をあげる。それにしても口?急所の一つだね。それでも力を緩めない?」

「そうなんだ、話に聞いている内容と違う気がするぜ」

 ユウキと話しながら何かがおかしいと考える。


「ねえ、ユウキの話をどう思う?」

「フレアソード!しつこいな…え、変だと思うよ。クラーケンを操っている黒幕がいるかもね…ハッ!キリがないな」

 旦那さんは登ってくる奴に魔法を撃ち込み、近くに来た奴は杖で殴り飛ばしてと大変そうだった。

「忙しいのに話し掛けてごめんね、旦那さん。ユウキ聞こえる?一度引き上げるから」

「聞こえているよ!でも、まだ討伐していない。レベルアップしたいんだよ」

 怖がっていた割には何やら文句が返ってくる。焦っているからだろうと思うけれど、戦況が思わしくないから無視だ。

「状況が悪いから、プランCに切り替えたいんだ」

「プランCって何だよ?チャンスのCか?」

「そう、正にそれだよ!一度引いて態勢を整えて機会を作るんだ!もう少し後で合図するからさ、それまでは頑張れ。手傷を負わせるだけでも経験値が入るから」

「分かった、千里の道もってやつだな」

 やっぱりバカだなユウキ。そう思って横を見ると旦那さんが笑いをこらえて、変な顔になっていた。

「何で笑ってんの?」

「イヤイヤ、笑うでしょう。プランCって何?いつの間にAとBが始まっていたのさ。しかもチャンスとか適当だな。話を振る嫁さんも嫁さんだけれど、乗ってくるユウキもどうなんだ」

「あの位ポジティブな方が良い時もあるよ。戦力の振り分けをどうしようかと思ったけれど、あちらさんは私かユウキをターゲットにしたみたい」

「何となく気付いていたよ。シンの声が聞こえないからね」

 旦那さんが船首に集まってくる半魚人を始末しながら、チラッと後ろを見ている。いつの間にかシンちゃんとオリバーさんが来ていた。あれ?マロがいない。

「向こうは片付いたの?マロは?」

「変なんだよ、半魚人達の行動がさ。挑発しても無視だよ?僕の心は傷付いたよ!」

「先程ケイ殿が怪我をしたと聞いた辺りから、俺達に興味をなくしたみたいだな」

「マロは船員と冒険者達を甲板の中央に集めて、防護壁で保護していますにゃ。ここよりはるかに安全そうなので、カリーナは向こうですにゃ」

 マロとカリーナちゃん以外の話をまとめると、とても厄介な気がしてきた。半魚人達は急に船にも乗組員にも構わないで、船首付近に集まっている事になる。


「クラーケンの目的は何かな?人肉を食べたいっていう理由じゃなくなっているよね」

「クラーケンがそこまで考えているとは思えないな。嫁さんが見たっていう、ユニーク半魚人が絡んでいると考える方が自然だ」

「それじゃあ、一度ユウキを戻してみますか。クラーケンは私達に比べて格下だけれど、油断禁物でね。ユウキ!今から引き上げるから衝撃に備えろ、せりゃあああ!」

「うわ、わわわ!ヒイイイイ!」

 ユウキの悲鳴を無視する、構っていられないからね。遠見の魔法を解除して力一杯釣り竿を引き寄せる。

 釣り竿がギシギシと音をたてている。グローブが擦り切れたら痛いかな、なんて考えながらリールを巻く。

 投げ込んだ時と違ってクラーケンが巻き付いているからかなりの重量だ。皆は半魚人が私に近寄らないようにガードしてくれる。

「ふぎぎ!シーサーペントの時より重い!後少し、巻けたら、一気にいくのに。糸が切れたらバン国王に材料採取してもらうんだ!国王様の水龍討伐って話題性抜群じゃない?」

「糸が切れたらユウキを助けに行くのが面倒だな」

「そんな危険な事に陛下を行かせられるか!頼む、切れないでくれ!」

 旦那さんがボソッと呟き、オリバーさんは半魚人を斬り伏せながら器用に祈っていた。

「いくよ!ラストスパートだ、そりゃああああ!」

 盛大に水飛沫を撒き散らしてクラーケンが海面に出てきた。やっとユウキを諦めたのか、檻から離れて私に攻撃を始める。

「いくら足が多くても無駄ですにゃ、牙城斬撃!」

「ケイの準備が終わるまで僕が遊んであげるよ、ポイズンアロー!」

「嫁さんに攻撃?生意気なイカだ、そんな事をさせると思うか?業火を宿す煌めきよ、クリスタルフレア!」

「雑魚の半魚人は任せろ!ケイ殿、あれはどういう魔法だ?今まで聞いた事がないから気になる」

 旦那さんの魔法に興味を持ったオリバーさんが聞いてくる。戦闘中だというのに余裕がある人だ。

「凄い大きなフレアランスの外側を、硬度強化したクリスタルで覆って撃ち込んでからバーンとね。水属性や氷属性とかで邪魔されないで、相手の体内に届かせられる魔法かな。体が大きい相手には有効だよ、素材の剥ぎ取りが出来なくなるのが難点かな」

 私が説明した直後にフレアランスが炸裂したみたいで、クラーケンは体の上半分が焦げて大きな風穴が開いていた。イカ焼きの匂いがする。


「醤油で二度焼きしたら食えるかな?」

 そんな事をのたまうユウキを檻から出して戦闘に参加させる。

「海産物の食あたりは怖いらしいぞ。止めはやらせてあげるから、暫くは半魚人で経験値稼ぎなよ」

 よく食べる気になるなと思いながら釣り竿とグローブを片付けて、お気に入りの日本刀を魔法鞄から取り出す。

「食べる予定は一切ないけれど、イカソーメンになるが良いよ。空月奥義、蓮華の舞!」

 クラーケンの体や足、うねる触腕を足場にして切り刻んでいく。鳴き声なのか命令なのか分からないけれど、クラーケンの声が響く。

「半魚人達に自分を守らせる作戦?その前に仕留める!」

 群がってきた半魚人もまとめてスライスしていく。あっという間にスリムボディになったクラーケンは、痙攣するだけで動かなくなった。

「ユウキ、こっちにおいで。勿体ないけれどコアを破壊して止めにしなよ」

「良いのか?大きなコアは良い金になるんじゃないのか?」

「話によると一匹だけじゃないみたいだからね。最後の二匹くらいはコアを残すつもり」

 ダッテン伯爵やエンシュアさんの話だと、クラーケンは数匹居るらしいから効率も考えないといけない。

「分かった、それじゃあ遠慮なく。くらえ、エアスマッシュ!」

 ユウキがそれなりに威力のある風属性の技を放つ。人間の体くらいあるコアが粉々に砕けて消えていく。

「やった、やったぞ。クラーケンを倒したんだ!これでシーディーアは安全になるんだよな」

「ロウリィーングゥ、ソバットゥ!迂闊にラードフラグをたておって!この未熟者め、これからが本番だ!」

「グハッ!何するんだよ、ケイ!」

 おバカな発言をしたユウキに軽く制裁という名目の回し蹴りを加える。

「ケイが言ったけれどクラーケンは複数確認されているんだよ?遊んでいる隙はないよ?…というか、ユウキ君を敵認定したみたいだね。ファイトだよ」

 私に蹴り飛ばされて樽の山に埋もれていたユウキをシンちゃんが笑っていたけれど、新手のクラーケンを数体見つけて戦闘態勢に戻る。


 仲間を倒された事に怒ったのかユウキを集中して攻撃し始めた。放置するとユウキが死ぬ可能性があるだけじゃなくて、船が危なくなるんだよね。

 だから全員で一気に片付けていく事にした。ユウキも多少はレベルアップするだろう。

「いい加減疲れてきたな。半魚人は残っているというか、少しも減った気がしないがクラーケンは打ち止めじゃないか?」

 二時間位過ぎた頃、最初に比べて動きが鈍くなったオリバーさんが愚痴を言う。

「そう言われるとそんな気がするね。ジョニー、時間経過は?」

「そうですにゃ、かれこれ三十分はクラーケンを見ていませんにゃ。打ち止めと考えても良いかと思いますにゃ、シン様」

 ジョニーがシンちゃんにサラリと答える。ちゃんと時間を計ってくれていたらしい。ジョニーの言葉を聞いたユウキが甲板に座り込む。

「もう動きたくない…クラーケンが居なくなったのに半魚人は増えたって、おかしいだろう」

「泣き言を言うな。これをあげるから、もう少し気合いを入れていけ。オリバーさんにも渡してね」

 私はユウキの方を見ないで回復ポーションを二本投げる。自分用にはチョコとコーヒーをコラボさせたお菓子を出して口に放り込む。

 ジョニーお手製の秘密の携帯食だけれど普段のおやつにもお勧め。甘さ控え目でコーヒーの苦みも楽しめる一品。

 ちょっと幸せとか思っていたら旦那さんとシンちゃんが素早く近寄ってきて、ポーチからお菓子を強奪していく。

「ちょっと!それ私のおやつなのに!」

「まぐ、むぐ、非常事態は終わっていないから仕方ないよ」

「嫁さんだけ良い物食べて、ずるい…メインのお客様がご到着だ」

 今度からはもっと沢山作ってもらおうと心のメモに書き込んで船首へ目を向ける。

「出たな?ユニーク。さっきのお礼をしよう…覚悟しろ」

 私の脇腹を抉ってくれた半魚人らしき個体が立っていた。近くで見ると七色に光る鱗が気持ち悪いな。

『グ…ググブ…ダ、ズゲ、テ…ワラ、チガウ…グブ、ヤツガ、クル』

「生意気にも喋りますにゃ…さっきケイ様に傷を負わせた個体と同じか不明ですが、討伐しておく方が良いと思いますにゃ」

 大剣を構えてジョニーが前に出ると、半魚人は慌てふためいて数歩下がった。

「水の中で喋っているみたいに聞こえるけれど、助けて、違うって聞こえたな。どういう事だ?」

 ユウキが首を傾げているけれど、私は構っている余裕がなくなった。かなりの威圧感を感じて周りを見回す。

 何も居ない?ユニーク半魚人が原因じゃないのはすぐに分かった。カタカタ震えてしゃがみ込んでいたから。


 海にいる半魚人達からの攻撃はなくなっていた。代わりに何かを謳うような言葉というか、音が広がり始める。嫌な汗が出そう。

「嫁さん、これは色々まずいよ…まさかがあり得るね」

「やめようよ、そういう事言うの。そもそも世界が違うのに何故居るのさ?」

 威圧感の発生源について旦那さんと話していると、シンちゃんが真面目な感じで言ってくる。

「僕達は耐えられると思うけれど、他の皆は無理じゃない?対策を考えて即実行しないと、廃人が量産される未来が確定するよ」

「ちょっと見るくらいなら大丈夫…いや、無理だよね。既に呻き声をあげている船員とかいるみたいだね」

 威圧感だけで悶絶だと御尊顔を拝見するのは、恐らく耐えられないだろうなあ。因みにシンちゃんが言う僕達の中に、オリバーさんとユウキは含まれていないと思う。

 今のところ何とか正気みたいだから向こうに避難してもらって、直視しなければ大丈夫だろう。マロ抜きでやるのはかなりの戦力ダウンになるけれど仕方ない。

「旦那さん、オリバーさんとユウキを向こうへ」

「了解、ついでにマロにはとっておきのポーションセットを渡して来るよ」

 旦那さんがそう言いながら、二人を連れて行くのを確認して指輪を使う。

「マロ、マロ。聞こえる!非常連絡なの!」

「はい、こちらマロです。嫌な感じがしているから何かあると思っていました。僕は皆さんを保護する役目ですね?」

「威圧感に負けないように遮断系の魔法と、強力な睡眠の魔法をかけて鎮静化してね」

「ケイ様達の支援はどうしましょう」

「ポーション類で何とかする。目標は犠牲者ゼロ!頼んだからね」

「任されました、怪我に気をつけて下さい!」

 心話機能を切ってポーションの在庫を確認する。回復と状態異常防止が人数分ある。なるべく攻撃を回避して、ポーションの有効時間内に決着しないといけない。

 旦那さんが戻って来るとマロの声が響く。

「邪悪な思念を跳ね返せ、ミラージュドーム!揺り篭の幼子に健やかな眠りを、ピクシーズララバイ!」

 これであっちは多分大丈夫かな。手早く異常防止のポーションを配って飲み干す。苦いから嫌いなのにな。

「そこの半魚人、余計な動きをしたら容赦しないからな。皆、散開して。何か来る!」

 私の合図で全員が武器を構え直した直後に、海面が大きくうねってクラーケンよりも、大きな何かが上昇してくる。

 船が派手に揺れるから先制攻撃を仕掛ける事が出来ない。海に落ちないように注意しながら、ソレが現れるのを見ているだけで精一杯だった。

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