6話
修正しました。
「こちらの部屋をお使い下さい。ルームメイドは必要ないとの事ですが、ご用がありましたらベルでお呼び下さい」
「ありがとうございます。連絡用のミニドラゴンが戻ってくると思いますので、捕まえたりしないようにお願いします」
「畏まりました。では失礼します」
一礼して去っていく執事を見送って鍵をかける。オリバーさんは別の部屋だから庭師が来ても問題ない。シンちゃんに頼もうとしたタイミングで壁に『窓』が現れる。
「イベントの相談があったのですが、ケイ様からのお話もありそうな雰囲気。ちょうど良かったようですね」
「どこかで見ていたとしか思えないね…それはさて置き、クラーケンの討伐を依頼されたんだよね。仕込み?」
私の質問に首を横に振るアズール。自分達で配置した記憶もないから自然発生という事になる。
「低レベルだと良いな」
「そんな夢は虚しくなるだけだよ?現実を見よう?」
叶わないと分かっている希望を口にすると、シンちゃんから突っ込みをくらう。
「言ってみただけじゃないか。仕方ないから真面目に討伐しようか、ユウキのレベルが不安だけれどね。それは後で考えるとしてアズールの用事は?」
「はい。皆で考えたのですが旅の最後は勇者対魔王になりますよね?その途中を盛り上げる為に、ケイ様かフミ様が誘拐されて洗脳されてしまうというイベントはどうでしょう」
面白そうでしょう?みたいな顔のアズールに、旦那さんが面倒な事をという声で聞く。
「イベント内容がバン国王達に伝わったら、ユウキを痛めつけられると盛り上げるだろうがな…どこでどんな風に仕掛けるつもりかな?」
「そうですね」
アズールは少し困った口調で旦那さんに返事をして考え込む。
「今の段階では勇者のレベルがお粗末です。ケイ様達を相手にすると命がないでしょうね…旅の中盤以降で各国の連携が出来るようになった頃ですね」
「私が姿を見せるのも同時期が良いと思います」
急に声を掛けられたので『窓』の方を見るとブランがいた。相変わらず執事服だ。
「久し振りだね、ブラン。魔王として姿を見せて世界を更なる恐怖に陥れるっていう事?」
質問に頷くブラン。姿を見せるのは良いけれど如何にも魔王ですという、言動をしてくれるように打ち合わせが必要かな。
同じ事を考えたのかシンちゃんが人差し指を振りながら口を出す。
「今のままじゃあダメだね。もっと雰囲気を出して魔王笑いもしないと」
「ま、魔王笑いですか?どのような笑い方でしょうか」
ブランが知っているとは思えない。そんな事を考えていたらシンちゃんが私を見ていた。うん、嫌な予感しかしない。
「きっとケイが知っているよ。多分上手だと思うな」
「やっぱりかあ!自分で教えなよ。何で私なの」
「ん?ジョニーやマロは知らないし、僕だって分からないよ。フミは魔王笑いをしている姿が想像出来ない。ケイしかいないじゃないか」
笑顔で言い切るシンちゃんにガックリと床に手をつく私。そこへブランが真面目な声で言うのだった。
「魔王笑いの手解きをお願いします、ケイ様」
何かでシンちゃんに埋め合わせを要求しようと決めた。
「ふ、ふはははは…如何でしょうか」
「魔王が遠慮してどうする。お腹に力を入れて、ワンモア!」
「ふはははは!…これなら良いですか?」
「違うな!平仮名に聞こえるからダメだね、カタカナじゃないと」
私は半泣きのブランに魔王降臨を盛り上げる練習をさせている。シンちゃんに押しつけられたけれど、やるからには頑張ろうと思っている。
ダッテン伯爵に迷惑が掛かるといけないので、旦那さんに遮音の魔法をお願い済み。人の家で騒がないのはマナーだからね。
それは建前で私達が裏で糸を引いているのを隠す為だけれど。
「上手く笑えません。ケイ様、カタカナに聞こえる見本をお願いします」
平仮名とかカタカナとか理解出来ない、もう無理です!と顔に書いてあるブランが言うので仕方なくやってみる。
「えっと、片手は腰でもう片手は口元だったかな。軽く足を開いて胸を張って、オーホホホホ!」
「嫁さん、それはただの高笑いだ。ブランが教えて欲しいのは魔王笑いだよ」
種類を間違えたら旦那さんにダメ出しをされた。
「ちょっと別パターンなだけじゃない。では改めて…フフフフフ、フハハハハ!平伏せ人間達よ、我は魔王ブランなり!フアーハハハ!」
どうだ?と皆を見回すと何故だか微妙な顔をされる。内心間違っていたかなと焦っていると、シンちゃんに肩をポンと叩かれた。
「やっぱりさ?ケイが魔王でしたパターンが一番しっくりくると思うんだ」
「だから、その案は無理だよ?私達は正義の(笑)勇者一行なんだから。後の事も考えると乗れないな」
「えー?嵌まり役だと思うよ。仕方ないな…ブラン、頑張って練習してよ」
何故シンちゃんが残念そうなのか理解したくない。ブランはヒントが掴めたのか、一礼して『窓』に消えていった。
「ブランの方はあれで大丈夫でしょう。先程の誘拐、洗脳イベントについてですが、勇者のレベル上げが急務かと」
私の魔王笑いに苦笑する事なくアズールが話をする。そういえば考えた事がなかったけれど、ユウキのレベルを調べた方が良いのかな。
「動きが粗いし魔物によっては苦戦していたな。僕達とのレベル差がどの位なのか調べようか」
「そうですね。あまりに違うと本当に命の危機ですから。必要であればエリュトロンに頼んで、色々な場所に魔物を配置します」
「お願いする事になると思うよ、多分ね」
旦那さんとアズールが打ち合わせをしてくれるから、シンちゃんとのんびり紅茶を楽しむとしよう。流石は伯爵様、茶器だけじゃなくて茶葉も一流品だ。
「それでは戻りますが、ケイ様にこれを」
「うん?これ何、綺麗だね」
『窓』に手をかけたアズールが小箱を渡してきた。開けてみるとオパールのイヤリングが入っている。
「どこからでも庭師に連絡出来ますので活用して下さい。では失礼します」
着けてみると重さを感じないから、戦闘の邪魔になる事はなさそう。アズールの言う通り活用させてもらおう。庭師が帰ると『窓』も消えた。
「旦那さん、遮音を解除して欲しいな。ミニドラが戻って来る頃だから」
「了解。どうやらタイミングが良かったみたいだ」
旦那さんが言うように解除と同時に扉をノックされた。
「ケイ様、フミ様。連絡用ドラゴンが迷子になっておりましたので連れてまいりました」
何故迷子になる?敷地が広いからかな。そんな事を考えながら扉を開ける。
「キュイィ」
「あーはいはい。怒ってないから、泣かないの」
執事さんの腕の中で小さく鳴くミニドラに腕を出す。飛び移ってきて私を見上げるとまた鳴いた。
「ではまた後ほど、失礼します」
「分かりました…可愛いなあ、もう!」
仕事に戻る執事さんを見送って、ミニドラの喉を撫でるとクルルと鳴く。脚に付いていた小さな箱を外そうとしたら、背後に視線を感じた。
肩越しに見るとマロがハンカチを噛んで、何故か悔しそうな顔をしていた。恐らくシンちゃんが教えたんだよな?そのポーズは。
「旦那さん、この子頼むね」
「ユウキからの伝言を確認する、そうだよね?」
「うん。どこの宿に泊まっているかを見て欲しい。お願いね」
ミニドラを旦那さんに預けてマロを捕まえる。
「ヤキモチなの?マロは仲間だから格が違うよ、可愛さでもね」
「ヤキモチです。だから抱っこして下さい」
要求をストレートに伝えてくるマロを抱っこして膝に乗せる。
「ケイ様、甘やかすのは適度にして下さいにゃ」
ジョニーが小さく溜め息混じりに言うので頷いておく。その後の夕食はとても豪華で美味しかった。流石だよダッテン伯爵。
ユウキとカリーナちゃんについては早めに迎えに行くからと、ミニドラに伝言を持たせておいて就寝する。