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4話

 馬車が仕上がるまで三日程はかかるというので、のんびり買い物と食べ歩きに時間を費やす。牧場主さん達にお願いして、順番に桜肉を購入出来るようにしてもらった。

「野菜も果物も買ったよね。薬も補充したから買い忘れは無いはず?」

「すみません。私が付いていくから色々と必要なんですよね?まさか女帝と一緒に買い物するとは思いませんでしたけれど」

 控え目だけれど引っかかる言い方だな、意外に図太いのかも知れないな。私は横を歩くカリーナちゃんをチラリと見る。

「一緒に来るなら女帝って呼ばないで欲しいな。皆が勝手に付けた二つ名だからね」

「分かりました。ケイ様」

「違うな~。ケイで良いよ」

 カリーナちゃんの方を見て人差し指を振る。あ、困っているね。

「呼び捨ては出来ないので、ケイさんと言う事にします」

「まあ、良いでしょう。他に欲しい物とかある?」

 盛大に首を振るカリーナちゃんは可愛い。ユウキが手を出してさえいなければ良い友達になれたかも知れないのに。

 宿屋に戻ると来客だと言われた。町長かなと思ったけれど違うみたいだ。

「お待たせして申し訳ないですね。どんなご用件でしょう?」

 部屋で待っていた覆面の人物に声を掛ける。庭師達じゃないのは分かっていた、彼等ならば姿を誤魔化す位は朝飯前だからだ。

 どうかマリナ王女じゃありませんように。内心で願いながら反応を待つ。

「込み入った話なのでケイ殿とフミ殿以外は席を外して頂きたい」

 良かった、男性の声だ。でも聞き覚えがないからバン国王やダッテン伯爵関係でもない。好きな事をしておいでと、他の皆を追い出して旦那さんと一緒に話を聞く。


「勝手を言って申し訳ない。拙者はネクステン王国の騎士団に所属している者でござる。お二人にお願いがあって待っていたでござる」

 拙者?ござる?こいつジャルミン・チュアレの人間じゃないな。そんな話し方をするのは地球から来た奴に違いない。

「変な小芝居は良いから。本名は?日本からの転生組?」

 あれ、何かへこんじゃった?面倒だから本題に入って欲しかっただけなのに。

「容赦ないですね。ええ、そうですよ!元日本人ですよ!あの話し方だと何故か女性がチヤホヤしてくれるんです。良いじゃないですか、少し位モテたいとか考えても」

「ぶっちゃけたねえ。あの言葉遣いでモテるなんて、ネクステン王国の女性って理解できないな。普通は笑うよね。で、名前は?用事は?」

「嫁さん…傷に塩どころかハバネロのペーストを塗っているよ。君も早めに白旗を上げて用事を終わらせる事だよ」

 イスから落ちそうなほどへこむお客さん。微かに涙声で話を切出してきた。

「アンダーソンが名前ですう、転生前の名前は忘れました。用件は魔王ブランという人物から、国王宛に脅迫状が届いたから助けて欲しいんです」

 世界各国を旅して回る予定だから、ネクステン王国にも立ち寄る予定はある。庭師達の演出だろうなと思ったけれど、ネクステン王国の対応に疑問がある。

「それって本当?何かの罠じゃないの?」

「疑うんですか?それとも自分が渡り人だから信用出来ないとでも?お二人だってそうでしょう?」

 そういうことじゃないんだよな。少し怒り始めるアンダーソン君にどう言えば良いのか悩む。旦那さんを見上げると肩を竦めてから代わりに聞いてくれた。

「そんなに神経質にならないで。嫁さんが聞きたいのは、そんな大事な話を一人の騎士がコッソリ持ってくるのか?ということさ」


 怒りの感情が消えて哀愁が漂い始めるアンダーソン君。何がトリガーだったのか?余りの変化に旦那さんと顔を見合わせてしまった。

「本当なら同盟国として救助要請をするのでしょうね…我が国からの書状をバン国王陛下は丸めて返してきました。短い手紙と一緒に」

 聞かない方が幸せなままでいられる気がするな。

「あれがどれだけの被害者を出したと思っている?少し位耐え抜け!…そう書かれていたと聞いています。うちの国王はシクシク泣いていました」

 王様なら理性的であって欲しいけれど、バン国王の気持ちは良く分かる。まだ何もないけれど大事なマリナ王女と、手を出された若いメイドさん全員だからな。

 遠い目をしていたらしくアンダーソン君が困っていた。

「今まで良好な関係だっただけに、王はかなりのショックを受けています。何があったのか教えて下さい。手ぶらで帰る事は出来ないので」

 キリッとした顔で私を見つめるアンダーソン君に、声を低くして念を押すように聞いた。

「話しても良いけれど大丈夫かな?聞いたら後戻り出来ないよ…本当に聞きたい?」

 アンダーソン君の喉がコクリとなる。救いを求めるように旦那さんを見たけれど、溜め息と共に首を横に振られて顔色が悪くなった。

 会えなかったので帰りました。そう言ってしまおうかなと顔に書いてある。その方が幸せだぞ青年。

「き、聞きます。仕事の放置は出来ないので。教えて下さい」

 敢えて踏み込むか、真面目なのは日本人だったからだろうな。可哀想な気はするけれど何があったのか教えてあげた。


 小一時間にアンダーソン君は真っ白に燃え尽きた感じになった。何やら小さく呟きが聞こえるから耳を傾ける。

 どうやって説明しよう?もう終わりだ、同盟解消だと言っている。放心状態に見えるから手をひらひらしてみる。

 うん、反応なしだね。余りにもあれだから殴ってショックを与えるか。平手打ちの準備をしていたら、旦那さんに肩を掴まれた。

「怪我をさせるのはダメでしょう。これを試してみるのはどうかな、これ以上壊れないと思うからさ」

「これ?旦那さんも酷い事を思い付くね。まあ良いか。アンダーソン君、気持ちが穏やかになるドリンクがあるよ。グイッとどうぞ」

 バン国王から届けられていた例の薬を手渡す。もちろんラベルは剥がしてあるよ。放心状態のまま瓶を受け取る。

 アンダーソン君は疑いもしないで一気に飲み干した。死んじゃうといけないから注意深く見守っていると、一瞬ビクンとしてから目の焦点があった。

「あれ?何か少し意識がなくなった気がするんですが。どこまで話をしましたか?」

「バン国王に怒られてネクステン王国の王様が困っているから、どうしようかなって所までだよ。ちょっと時間が必要だけれど手助けに行きますって、私が手紙を書いてあげるね」

 記憶が消えているみたいなので適当に上書きしてあげる。アンダーソン君はありがとうございますと笑顔だった。

 ユウキの所行については出来るだけ、やんわりとした表現で書いたつもりだけれど、手紙を呼んだ王様は更に泣くんだろうな。

 ちゃんと仕事が出来たと嬉しそうに帰って行くアンダーソン君を、作り笑いで見送っていると旦那さんがポツリと言う。


「ちゃんと効果あったね。同じ物を作ってもらって…カリーナちゃんに試してみる?」

「同じ事思ったよ?でもさ…次のカリーナちゃんが現れるだけだよね。ユウキをどうにかしない限りは意味がないよ」

「同じ男としてどうかと思う。僕はあんな風に見境ないという事が信じられない」

 地球で生きていた時は旦那さんと十代の頃に知り合ったけれど、確かにあんな風じゃなかったな。ユウキと何が違うんだろう。

「効果の程は分からないけれど、鈴が付いている方が大人しいと思う。これ以上面倒事が増えないで欲しいよ」

「そうだね、皆を探しながら馬車の様子を見に行こうよ」

 服屋の前でカリーナちゃんを拾って、武器屋の前でシンちゃんとマロを見つける。ジョニーは金物を扱うお店にいた。

 コッソリと私とシンちゃんだけに言う。

「馬車が別れていれば秘密の料理も出来ますからにゃ。鍋やフライパンを選んでいたのですにゃ」

「やったね。桜肉のお寿司食べたい」

「ねえねえ、それはどんな食べ物なの?ケイがそんな顔をするんだから美味しいんだよね?」

 個人で好みが分かれるから少し試して大丈夫なら、沢山作ってもらおうねとシンちゃんと内緒話に花が咲く。

 トム少年のお爺さんにお願いした馬車はもう完成していた。ついでだからと私達の馬車を改造までしてくれるらしい。

 これなら明日の昼には出発出来るなと思ったのに、町長の使いが来て一日延ばされる事になった。馬牧場の皆さんがどうしてもと言うので、町長は急いで使用人を走らせたみたい。

 理由は教えてくれなかったけれど。


 出発当日は少し早く起きた。馬車を繋ぐ作業があるからだったけれど外に出て驚く。立派な馬を二頭連れたハリオさん達がいたから。

「どうしたんですか?見送りですか」

 笑顔で聞くと笑顔で返される。私の手に手綱を渡しながら、出発を延期させて申し訳ないと謝られた。

「一日位なら問題はありませんよ。ところで、この馬達は?」

「宴会だけじゃお礼にならないと思ったんです。新しい馬車を購入されていたから、馬を贈ろうって皆で決めたんです」

 嬉しくて何かがこみ上げてきそうだ。何度もお礼を言っている横で、他の牧場主さんが馬を馬車に繋いでいく。

「ちゃんと訓練されている馬達なので、カリーナでも手綱を握れますよ。本当にありがとうございました、皆さんの活躍は観光客に宣伝しておきます!」

「こっちこそ。町の宣伝をしながら旅をするね!ありがとう。何か困ったら王都のギルド長アンガスに頼んでみて」

 いつの間にか集まってきた住民に見送られて、二台の馬車でサウアの町を出発した。ちなみに新しい方はオリバーさんが御者台にいる。

 次の町は港町らしいので日数がかかるみたいだけれど、何とかなるでしょうと気ままに馬車に揺られた

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