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26話

 サーリアに怪我がないなら早めに戻るかなと思ったけれど、何故かシンちゃんとジョニーがいない。まあ先に帰っちゃっても文句は言われないだろう。

「ねえ、旦那さん。先に戻る?」

「そうだね…そうしようか」

 そんな事を話していたらイヤリングがチリンッと鳴る。

「はいはーい、こちらケイでーす。どうぞ?」

「ヤッホー!シンでーす!サーリアは無事?って聞くまでもないよね。羊は確保したよ。ちょっと怪我をしていたからブラン達に処理を頼んだよ。後日こっそり届けてくれるって」

「サーリア?ちょっと落ち込んでいるけれど怪我とかはないよ。やっぱりジンギスカンかな、待ち遠しいね~。お城で待ち合わせって事で良いかな?」

「了解。ケイが飛び出していったから大丈夫だろうと思ったけれど、安心したよ…また後でね」

 シンちゃんとの待ち合わせを他の皆に伝えて、サーリアをエアバイクの後ろに乗せようとしたらちょっと不満そう。

「運転は危ないと思うよ?」

「違うのじゃ。ポヨポヨを堪能したいだけじゃ」

 私のバストはクッションじゃないよと思ったけれど、ちょっとくらいはいいかなと考える。

「落ちないようにちゃんとハンドル握るんだよ?旦那さん、帰りはゆっくり安全運転でね」

「了解。マロ、しっかり掴まれよ」

「了解です。では出発進行!」

 マロの可愛い掛け声でエアバイクを走らせる。


「お帰りなさいませ、皆様ご無事でなによりです。夕食の用意が出来ておりますので、広間へどうぞ」

 シンちゃん達はまだ戻っていないけれどブランについていく。二人はサーリアがそわそわし始めた頃にやっと戻ってきた。

「たっだいまぁっと!サーリア、ちょっとおいで」

 シンちゃんが声を掛けるとビクッとして涙目になるサーリア。私の手を握って離さないから強引に連れて行く。もしも説教なら途中で助けようと思いながら。

「動物は急に触ると危ないんだ。気をつけるんだよ?それにしても、そんなに羊が好き?」

「ごめんなさいなのじゃ…羊はフカフカでモコモコで可愛いのじゃ」

「そうか、そんなサーリアにこれをあげる。僕のお手製!大事にしてね」

 シンちゃんがニコッと笑ってどこからか丸い物体を取り出す。サーリアに差し出された物は、手のひらサイズの羊のぬいぐるみだった。

 ぬいぐるみとシンちゃんを交互に見ていたサーリアは、そっと手を伸ばしてぬいぐるみを受け取る。

「羊…可愛いのじゃ…わらわだけの羊…シンちゃん、ありがとうなのじゃ」

 さっきまでの怯えはどこへやら。ぬいぐるみに色々話し掛けたりして自分の世界に入るサーリア。

「確かに可愛いね。もしかしてさ?あの羊?」

 ニマニマしているサーリアがアルジェントに手を引かれていくのを見ながら、シンちゃんに聞いた。

「羊毛の一部を使ってね。実はね?後少し手を加えると自立式の式神に出来る特別製さ!」

「また無駄に凝り性を発揮して…サーリアに言うの?」

 ドヤッと胸を張るシンちゃんに溜め息混じりの返事を返す。

「ん?暫くは秘密さ!もっと種類を増やしてからね。さあ、ご飯にしよう?下に戻ったら秘密の飲み食いなんて、なかなか出来ないからね」

「増やすんかい!プチ動物園でも作るの?…深く考えても仕方ないか、シンちゃんだもんね。それよりも、ご飯だよね」

 細かい事は考えない、今は贅沢三昧の夕食を楽しもう。


 翌日は少し予定を変更して色々と探検したり美味しい物を食べたり、お菓子を魔法鞄にストックしたりと忙しかった。

 そして夕方になったから帰り支度を始める。行きと同じように顔を隠すのが面倒だったから、門を通らないでシーディーアに戻る事に。

 直接宿屋に行けるようにアズールに『窓』をつないでもらった。部屋にデコイしか居ない事は確認済み。

「ヤッホー!ただいま!何か変化はあった?」

「お帰りなさいませ、マスター。特にありませんよ…と言いたいのですが実はですね?」

 シーディーアに残していたデコイに話を聞いたら、謎の集団は思いの外しつこいという事が判明した。

 ユウキのレベル上げに同行した時、カリーナちゃんと買い物に出かけた時、諦めの悪いダッテン伯爵に呼び出されてお屋敷で怪しい荷物を受け取った時。

 この三回は確実に尾行されていたという所まで話を聞いて、デコイを元の砂に戻して皆で話し合う。

 砂はジョニーとマロに頼んで後で近くの海岸に撒いてもらう。そのついでにダッテン伯爵からの荷物もひっそりと処分してもらうつもり。

 因みに相手が接触してくるのなら叩きのめしていいと許可を出していたけれど、観察だけに徹していたらしい。

「情報収集をして私達に対する対策を考えるつもりなのかな?」

「嫁さんのデコイにバレている時点で無駄じゃないかな?いや…デコイしか気付けなかったのか?でもまあ、ユウキには難しいか」

「嫌な感じじゃのう。尻尾を掴ませないように上手く逃げている感じじゃ」

「それはデコイが放置でいいと判断したからだと思うけれど。でもさ?ずっと見張られるのも嫌だよね。多分間違っていないと思うけれど、ネクステン王国の誰が関与しているのかだけでも調べさせようか?ブランに」

自分じゃないんかい!っというツッコミはしないで、最近になって気になった事をシンちゃんに聞いてみる。


「ねえ?関係があるような、ないような質問なんだけれどさ。庭師って五人だよね?ブラン以外で。最後の一人を見た記憶がないんだよね、その人で良いんじゃないかな?調査員はさ」

「あれ?紹介がまだだったかな…でも、実は僕も何をしているのか知らないんだよね。ねえアズール、彼は何をしているの?結局見かけなかったよね?」

 グリンっと後ろに首を動かしてシンちゃんがアズールを見て聞いた。違う角度から見たらホラー風だなと思う。

 内心でそう思っているのか笑顔が引きつっているアズールは、軽くため息をつきながら説明してくれた。

「ああ、彼…アーテルですか。実は我々庭師の中でも少し困った人物なんですよね」

「アーテル?さんは男性なの?困った人ってどういうこと」

 確か黒を表すよな?アルジェントで銀色がきたんだから、そこは金色でしょ普通?と思いながら更に質問を続ける。

 私の問いかけにアズールの眉間に皺が刻まれたけれど、そんなに問題がある人物なのかな。

「勇者君をからかったりして遊べる機会なのに、彼は畑仕事の方が良いと言って手伝ってくれないのですよ?これは大問題ですよ!」

「大問題かなあ?…もしかして、農場の管理をまとめているの?だとしたら、そっちの方が重要かな」

 アズールの主張に共感できなくて適当に流しながら、ふと思ったことを聞き返した。頷くアズールを見てちょっと困る。

「むう、困ったな。皆はさ?美味しいご飯とか甘いお菓子の供給が滞るのはどう思う?」

「嫌なのじゃ!」

「僕も美味しい物優先で!」

「農作業が好きな人に諜報員は酷じゃないかな?それとも何かで早めに出して早めに退場にしてあげる方が、結果的に全員幸せになれるかな」

 旦那さん以外は予想通りの答えだ。シンちゃんとサーリアにそうだよねと言いながら旦那さんを見つめる。

「適材適所って言いたいんだよね?ここで頑張ってもらって、後は好きなだけ農業、酪農に邁進してもらおうよ」

「その方が良いか。問題はどうやってイベントを仕上げるかだよな」

 自分達のご飯と会ったことのないアーテル君の為に、旦那さんと一緒に真剣に考え始める。良いアイデアが浮かばない私達にシンちゃんが楽しそうに言う。


「二人共真面目に考えすぎだよ。それはアレでしょう?自分は何々の中で最弱、他の奴はもっと強い!とかいうお約束だよね?それじゃあこうしよう。謎集団の中心人物を特定出来たら、その件に絡めてガードナーファイブを一人撃破!みたいな。そこで出番終了だから後は好きにしていいよってさ」

「そうなのじゃ。先日の話で決まったではないか、ネクステン王国で騒ぎを起こすのじゃろう?好都合じゃな」

 まだ覚えていたんだね。無かったことにしたいんだけれどな…あんな中二病全開の作戦名とかはさ。逃げるのは困難だと諦めよう。

「それじゃあアズール、私達がバン国王の依頼をこなしている間に下準備よろしく。あ、それとさ…もしもの話だけれど、演出じゃなくてガチで危険かもしれない事が出て来たら即連絡して」

 自分でも気にし過ぎだなとは思ったけれど注意は必要だ。前世でもそういう勘を信じて行動して、助かった場面は何度か体験しているから。

「了解しました、私とアーテルが担当します。ネクステン王国のケモナー伯爵と関係があったという…例の弾痕があった奴隷商の件が解明していませんし、ヒイロボムの件もです。相手側に気付かれないようにします。それからこれを」

 金貨が大量に詰まった袋をジョニーに手渡して、アズールはいつもの調子ではなく真面目に話をして帰って行く。仕事はちゃんとやるんだね。

 これでシーディーアでやらなきゃいけない事は後二つか。馬車の受け取りとアルジェントを連れて行く手続き。

 もうすぐ船旅だな、船から釣りって出来るかな?なんて考えていたらサーリアのお腹が鳴った。そういえばお腹空いた。

「そろそろ夜ご飯の時間だから食堂に行こうか。明日はダッテン伯爵に出発の話をしよう」

 旦那さんの提案に全員が頷く。いつの間に帰ってきたのかと宿の女将さんが首を傾げていたけれど、チップを多めに渡したら忘れてくれた。


「馬車の改造についてなのだがな…この街に来たばかりと違って頭数が増えておるな?」

「ええ」

 ダッテン伯爵から溜め息混じりで切り出された。ワフソン達にアルジェントの事だなと思ったから、にっこりと笑って肯定する。

 そんな私に対して苦虫を噛み潰したような表情で、更に溜め息をつくダッテン伯爵。

「予測出来ぬとは言わんが…仕方ないからどちらの馬車も一回り大きな物にしておいた。片方は以前と同様に間仕切り付きだ。これ以上増員するなら新たに一台必要になると思え」

「ご厚意に感謝します。陛下からの調査依頼がありますので、準備が整い次第すぐに出航します」

「ふむ…もう行くか。前にも言ったが問題がついていくだろうが大丈夫か?」

 奴隷商絡みの事かな?そんなの心配いらないのに。どちらかと言えばシーディーアで暗躍を続けられる方が厄介だしね。

「その辺りに関しては接触があるまでは放置します。人や魔物が相手ならば何とかなりますから」

「まあ、そうだろうな。陛下の悩みを一つでも減らすよう努めよ。何かあれば連絡を入れよう…行くが良い」

 まともな連絡じゃないんだろうなと思いながら港へ移動する。エンシュアさんがアルジェントと一緒に待っているはず。

「出航の日が来てしまいましたね。魔王ブランから世界を守る勇者の旅ですからね、寂しいですが仕方ないでしょう。アルジェント、皆様のお役に立つのだぞ」

「はい…ご主人様もお元気で」

「私はもう主人ではないよ。これからはケイ殿がお前の主だ…良く働く娘ですから大切にしてやって下さい」

 エンシュアさんからアルジェントの首輪の鍵を渡してもらう。魔王ブランという不意打ちの言葉に、うっかり笑いそうで少し震えてしまった。

 金貨の詰まった袋を渡しながらだから重いからと誤魔化せそう。そしてエンシュアさんに内心で精一杯謝る。

 洗脳イベントで私とユウキが戦う時は周りから責められるだろうからね。もう全力で土下座したい位の心境だけれど笑顔で対応。

「もちろん大切にしますよ。蜜菓子やコーヒーとか色々必要になったら連絡しますね。その時はちゃんとオマケ付きにして下さいよ?それじゃあ!」

 馬車は街の住民や船乗り達からの沢山の贈り物と一緒に、既に積み込まれているらしい。後で確認しに行こう。

 甲板では先に乗り込んでいたユウキやカリーナちゃん、ワフソン達とオリバーさんが待っている。私達は見送りの皆に大きく手を振りながら乗り込む。

 大所帯になってきたけれど、これはこれで楽しいなと思う。そんな事を考えている間に真っ白な帆が張られて、船はゆっくりとシーディーアの港を出発した。

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