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22話

「ええと、落ち着きましたか?」

「はい…ごめんなさい。ケモ耳だったので、ちょっとはしゃぎ過ぎました」

 引きつった笑顔のエンシュアさんとエンシュアさんの後ろで、隠れるようにしているアルジェントの前で旦那さんに羽交い締めにされる私。

「もう大丈夫だと思いますよ。多分」

「多分ですか。やや不安ではありますが信じましょう。では、お返事を待っています」

 エンシュアさんに見送られてお店を出る。振り回してぐったりしたサーリアは、シャロークが肩車していた。そのままダッテン伯爵のお屋敷に向かおうとしたけれど、お客様に邪魔をされる。

「おう、姉ちゃん。ちいと面貸しな!」

「貸し出しには手数料が発生するよ?」

 よくある感じで返事をしたら声を掛けてきた髭面が怒り出した。

「舐めてんのか?黙って付いて来いよ、可愛い二人が心配ならよ?」

 チッ!数日の間に何があった?カリーナちゃんは無事かな、怪我していないよね?ユウキはかなりしごく必要があるな。内心で舌打ちしながらも惚けた返事をする。

「可愛い二人ならここにいるから心当たりがないな」

 わざとマロとサーリアを見る。サーリアはぐったりしていたはずなのにいつでもいける!みたいな顔になっていた。頼もしいね。

「寝言は終わったか?そいつらも可愛いが他にもいるだろう?」

「誤魔化せないか…仕方ないな。皆、行こう」

 髭面の後を付いていくと街の外れにあるスラム街の入口へ到着した。

「さて、あんた達には悪いが武器を渡してもらおうか。魔法の鞄もだ」

 スラム街の中から数人の男達が現れて手を差し出してくる。やっぱりそうくるか。予測はしていたけれどちょっと不味いかも知れない。

「武器を取り上げるとは…無事に帰すつもりはないな?」

 オリバーさんが威圧的に言ったけれど髭面はニヤニヤするだけ。全員の武器と鞄を取り上げると付いて来いとばかりに顎をしゃくる。

「のう、ケイよ」

「なあに?」

「わらわ達は無事に帰れるかのう?心配じゃが」

 シャロークに肩車されたままでサーリアが聞いてくる。不安げな表情でペンダントを撫でていた。

「大丈夫、何とかなるよ」

「そうじゃな。ケイは女帝じゃから何とかしてくれるはずじゃ」

 ニコニコし始めるサーリアを見て男達が、女帝でも素手じゃあなとか、子供だからなとか、夢を見ていられるのも後少しとか言う。

「舐めているのはどっちかしらね…フガ、サーリアちゃん?」

「黙っておくのじゃ」

 二人の会話は小声だったから聞こえなかったらしい。


「ようこそ、人生の終着点へ。奴隷商を営んでいるバードと申します。中々に粒揃いですな…皆様を歓迎しますぞ?」

 スラム街の中心だと思う広場で豪華な服を着て、沢山のアクセサリーをつけたブタが鳴いていた。私達をねっとりとした目で見てきて気持ち悪い。

 美味しいご飯として提供される豚さんと違って見ているだけでイラッとくる。

「爺さんや、わたしゃあ最近は目と耳が悪くなってねえ。よく聞こえないんですよ」

「ほう、婆さんもか。わしも年には勝てんでのう」

「そんなことを言わないで、お爺ちゃんもお婆ちゃんも長生きしてね」

 私と旦那さんが適当な事を言って、寿命なんて無いシンちゃんが締めくくる寸劇をしてみた。

「ほ、ほほう?そうきましたか…これを見ても同じ事が言えますかな?おい、連れてこい!」

 ブタが喚くと手下の男達がカリーナちゃんを連れて、ユウキを運んできて地面へ放り投げる。

「ケイさん!助けて下さい、ユウキ様が、ユウキ様が!」

 どれだけ泣いたのか目元が赤く腫れ上がっていた。

「やかましいぞ?自分達の立場が分かっておらんな。躾をしてやろう」

 ブタが大きな宝石のついた指輪をはめたままカリーナちゃんを殴ろうとする。殺気を隠さずにぶつけてついでに威圧もしてみた。

「はっ!な、何だ?」

 振り上げた手を下ろしてキョロキョロするブタ。カリーナちゃんは無事だけれどブタの未来は確定したかな?

「お前の躾は後にしましょう。さて、この娘を傷付けたくなければ抵抗しないで欲しいですな」

 抵抗するなという言葉が合図なのか周りから沢山の男達が出てくる。私が目を細めた事に気付いたのは身内以外いなかった。

「シンちゃん。瞬足と脚力強化、ついでに剛腕の魔法をお願いして良いかな?」

「任せてよ!こいつらはケイとサーリアにお任せで良い?」

「それで良いのじゃが、守備力アップの加護は欲しいのう」

 私が最初に動くからよろしくとサーリアに言ってシンちゃんの魔法を待つ。

「エルフの少女と黒髪の女は良い商品になります。出来るだけ傷付けないように!少年は…わ、私の小姓にするので無傷で。ああ!早く可愛がりたい、鳴き声を聞きたい…グフフフフ」


 鳥肌ものの下品な笑い方にシンちゃんが眉をひそめている。

「マジカール、マジカール、ラブリードリームでチェンジ!」

 サーリアが私に隠れながらペンダント片手に小さく呟く。相変わらず脱力しそう。その間にシンちゃんは無言で私とサーリアに近付いて腕に触れた。

「汝が望みし力を意のままに…準備出来たよ。気持ち悪いから徹底的にやっちゃって!」

「任せて!」

「さあ、かかってこいなのじゃ!」

 魔法よりも効果のある加護にしたという事は、余程気持ち悪いという事なんだろうな。まあ気持ちは理解出来る。

 掛け声と共に一気に走り抜ける私と、取り上げたはずの武器、大鎌を構えるサーリアに男達は行動が遅れた。

 カリーナちゃんとユウキの所まで数秒で移動すると、近くにいた三人の男を殴り飛ばす。

「大丈夫?カリーナちゃん」

「はい、私は…キャアア!」

「あ、あれ?カリーナちゃん?」

 短めの悲鳴と共に気絶してしまうカリーナちゃん。おやっと思って周りを見れば殴った男達がその場に膝をついていた。但し頭部は小さなお子さんにお見せ出来ない状態で。

「感触がないと思っていたら加減をミスっていたのか。まあ気にしない。さて、ユウキは…と」

 カリーナちゃんが泣くのも理解出来ると思った。ボロ布のようなユウキは辛うじて生きているけれど、いつ心臓が止まってもおかしくない状態だ。

「カリーナちゃんを守る為に不利な条件でいたぶられたかな?なんちゃってチートだったはずだけれど。もしかすると無効化する手段があったのかな。それでも受けたのなら…そこは評価しておくよ」

 誰にも聞こえない声で呟きながら胸の谷間に隠しておいた、D級回復ポーションを取り出して振り掛ける。

 目は覚まさないけれど少し呼吸が穏やかになった。残りの治療はマロに頼む事にするから二人と戻らなければいけない。


「よくもやりやがったな!」

「生きて帰れると思うなよ!」

 少し離れた場所で呆然としていた男達が我に返って走ってくる。

「誰が待つか。二人共軽いな…よっと!」

 ユウキとカリーナちゃんを抱えて足に力を入れる。シンちゃんのおかげでいつもより高くジャンプ出来た。

「ホップ、ステップ、ジャンプ!なんてね」

「ギャ!」

「グゲェ!」

「ウギ!」

 数人の男達を飛び石代わりに踏んでいくから、あっという間に皆の所へ戻れた。踏んだ相手は首が折れたり頭が潰れたりして、静かになっている。

「マロ!ユウキの怪我を診てやって!旦那さんとシンちゃんとシャロークは防御に専念して。ジョニーとワフソンは私とサーリアが取りこぼした奴を迎撃してね」

 男達は生きて帰さないと喚いているけれど、雇い主には逆らえないのかこちらへの攻撃は単調だ。武器がなくても簡単に捕まえられる。

「何だか物足りない。素手でも楽勝だもんなあ…ハイ、サーリア。パース!」

「確かにのう。歯ごたえがないのう…アタック!」

 私がバレーボールの球のように男達を放り投げて、サーリアが大鎌でスパッと両断していく。後ろを狙う奴はシンちゃんか旦那さんに狙い撃ちされていた。

「ジョニーやワフソンの出番がないね」

「楽が出来てラッキーですにゃ」

 そんな会話が出来ちゃう。そして最初は無闇に斬りかかってきた男達も、仲間が減ると慎重に距離を取り出した。

「何をしているのですか!早く捕まえなさい!チップは沢山だしますよ!」

 ブタが喚き散らしているけれど誰も動かなくなった。死にたくないのだろうなーと思う。

「さあて、準備も出来たし…纏めていこうか。おいで、サーリア!」

 襲いかかられる、そう考えたらしく円陣を組む男達。それを無視すると側に来たサーリアを抱っこして大きく後ろへ飛ぶ。

 クエスチョンマークが頭の上に浮いているみたいな表情の男達に、ニヤリと笑ってやった。

「ピクシーズララバイ!」

 マロの魔法が男達を包む。次々と崩れ落ちてスピーとか、プスーとか寝息をたてる。


「そんなバカな、武器の類は全て取り上げたはず…何故お前達は魔法が使える!それにその大鎌は何だ!」

 私とサーリアは一人残されて喚き散らすブタに歩み寄っていく。サーリアは自分で歩いていないけれどね。

「く、来るな…来るな!化け物!」

「化け物?失礼で五月蝿いブタだなあ。レベルが高いと杖が無くても魔法は使えるんだよ。知らないの?サーリア、出番だよ」

 適当な事を言いながらサーリアを地面に降ろして見守る。ふむ、大鎌を振りかざして?

「えいっ!」

「ピギイィィィ!」

 変な悲鳴をあげて膝をつくブタ。サーリアの振り下ろした大鎌は、服だけを切り裂いて地面に突き刺さっている。

「まだ聞く事があるから最大限の手加減をしたのじゃ!」

 ドヤ顔でフンスッ!と鼻息が荒いサーリアをひょいと持ち上げて横へ移動させる。ブタが怯えきった目で見上げてくるけれど、何故だろう蹴り飛ばしたくなる。

 プニッ!を通り越してブヨン!という表現が似合う。醜い…脂肪しかなさそうな半裸のおっさんなんて見たくない。でも襲撃の理由を確認しないといけないから我慢だ。

「どうして私達を襲った?子供二人にあそこまでして」

「わ、私の店は獣人を多く扱っておりまして。一番の顧客がどうしてもアルジェントが欲しいと言うのです」

 胸元で両手を組み震える声で祈りを捧げるように言うブタ。

「へえー、そーなんだ。それで?」

「え、それで?あ、あの?」

 察しの悪いブタの目の前でサーリアから大鎌を借りる。再びドスッと地面に突き刺した。

「ヒイィ!ヒギャア!しゃべっ、しゃべります!エンシュアの店を見張らせていた者から、貴女様の所へ買われる予定と聞いたのです。留守番の小僧をいたぶってアルジェントを奪えと、お客様に言われたので実行に移しました!」

 うっかり足の皮膚を浅く切り裂いたからなのか包み隠さず話してくれる。そうだろうなと思ったけれどアルジェント絡みだった。

「売り渡すつもりだったお客ってさ、どこの誰かな?言わないと…理解出来るよね」

「そ、それはっ!信用問題になってしまうので」

「わ・か・る・よね?」

 私が大鎌に手を掛けるとブタは震えだした。暫く迷っていたみたいだけれど、命が惜しいのか顧客情報を襲えてくれる。


「ね、ネクステンのケモ・ナー・デラスキー伯爵様です。今までにも獣人の奴隷ばかりお買い上げ頂きました」

「ほう、ネクステンは海の向こうにある国だよね?あ、だからシーディーアに拠点があるのか。船を使う為にか、成程」

「どうか、命だけはお助けを!」

「殺るつもりだったけれど命だけは残してあげる。これ以上は奴隷商として仕事出来ないように手を回すけれどね」

 いつの間にか取り上げられていた魔法鞄を持って旦那さんが近くに来る。寝ている奴らから取り戻したんだろうな。

 鞄を漁って強力な眠りのポーションを取り出す。何をされるのかびくびくするブタにぶつけた。一週間は目が覚めないかも知れない。

「エンシュアさんとダッテン伯爵に頼んで処罰してもらおうか」

「そうだね。処分しちゃってもいいかなって思ったけれど、経験値が手に入るわけでもないしね。気分が悪くなるだけだからここまでにする」

 後で警備隊に連絡しようと思いながらサーリアを連れて、旦那さんと一緒にシンちゃんの所に戻る。

「ごめんね、面倒になったから止めちゃった。徹底的にやった方が良かった?」

「舌なめずりしながら僕を見た時はキモッて思ったけれど、売り渡し先を吐いてくれたから差し引きゼロにしておくよ。バン国王の用事が終わったら行くんでしょ?ネクステン」

 ブタを視界に入れないように私に纏わりつくシンちゃん。

「行くよ。倍返しどころか毟れる物が無くなるまでやってやろうと思っているしね。それに勇者の旅の筋書きとしては悪くないでしょ?丁度ユウキがボコられたからさ」

 マロとカリーナちゃんに付き添われて、即席の簡易担架で運ばれていくユウキを見る。担架を運んでくれるのはシャロークとワフソンだ。

 オリバーさんは二人の荷物を持ってくれていた。良い人だよな。

「まずは医者に行ってユウキを入院?させて、それからにしよう」

 皆が頷いてくれたからスラムを後にした。

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