21話
「さあて、報酬を山分けしようか」
ギルドの近くにある食堂で分厚いステーキを食べながら言う。旦那さんにシンちゃん、ジョニーも似たような食事をしている。
けれどワフソンとシャロークは飲み物と軽食だけだった。
「お金がないのなら貸すよ?砂漠角ウサギのステーキ美味しいよ?肉汁たっぷりで岩塩がお薦め」
砂漠地帯で岩や石を材料に巣を作る二本角のでかいウサギ。ウサギと言いつつ馬位の大きさだから可愛い?外見に騙されて近寄ると大怪我をする。
「いや…ポイズンピーコックから始まって山狩りで疲れて、ギルドで緊張し過ぎて胃が痛いんだ」
ワフソンがぐったりしながら言う横では、シャロークが可愛くて美味しそうなケーキを食べていた。後で食べよう。
「甘味位しか無理ね。山分けって言っても私達って役に立ってないわよね?もらっても良いのかしら?」
大きくてお皿からはみ出しそうな魚の煮付けを食べていたシンちゃんが、止める間もなく本音を言ってしまう。
「これっぽっちも役立っていないけれど、報酬なしにすると僕達の評判が悪くなるんだ。だから少しは渡すよ」
「ストレートね…まあくれる物に文句は言わないわよ、素材を売ればそこそこになりそうだから。チビちゃん達はまだかしらね」
呆れ顔のシャロークに二人分の金貨を渡していると、マロとサーリアがニマニマしながら帰ってきた。
「ただいま戻りました!」
「帰ったのじゃ!」
何故にドヤ顔か?店員さんを呼んで好きな物を注文させる。
「ご機嫌だね?二人共」
「はい!素材を高く買い取ってもらえました!」
「わらわのお願いポーズが効いたからの!」
マロの事を知らない店は無いはずだから、相場以下は有り得ないだろう。サーリアが上乗せに成功した?まあ、見た目は可愛いからな。
マロがお金の入った袋を私達に配る。確かに予想よりも重いからラッキーだったなと思う。
「良くやった、沢山ご飯食べなよ」
「わあい!何にしますか、サーリアさん」
「そうじゃのう。奢りならばケイが食べているステーキが美味しそうなのじゃ。同じが良いがのう?」
「良いよ。奢りで」
上目遣いのサーリアに苦笑しながら言うとマロが元気に手を上げる。
「じゃあ、僕もそれにします!」
ワフソン達と違って嬉々として注文する二人に、店員さんが微笑ましい表情をしていた。ちなみに運ばれてきたステーキには、何故だか小さな旗が立てられていた。
お子様ランチとか無い世界ないのにな。
「大した精神力だな…そういえば確認したい事があったのだが」
ワフソンが小声で聞いてくる。首を傾げて先を促すと周りを見てから言う。
「我々はガウディエ様の捜索をしながら一緒に旅をするわけだが」
「うん、そうだね」
「今後の予定を詳しく聞いていただろうか?」
肉を口に運びながら適当に返事をしていたから固まってしまった。
「あれ?言っていない?」
「国王からの命令で旅をしている事と、シーディーアへ戻らなければいけない程度だ」
ざっくりとしか伝えていなかったらしい。
「えっとな?言った気もするけれど実は私達はね?」
表向きの理由である魔王討伐の話をして、シーディーアから船で移動予定だと言う。
「ふむ。我々はいつまで手伝えば良い?」
簡単に逃がしてもらえると考えているワフソンに、やれやれという感じでシャロークが突っ込みを入れる。
「バカね…シンちゃんの顔を見なさいよ。ガウディエ様が見つかっても開放されないと思うわよ」
シンちゃんはニマニマしているだけで無言だ。
「確かに。ガウディエ様が謝罪と賠償をするまでは無理だろうな」
ガウディエ様とやらが見つかったら色々作ってもらうつもりだから、ずっと開放されないよ?とは言わないでおく。
「何はともあれ、王城に行っているオリバー殿が戻ってきたら紹介しますにゃ」
「そうだね。その後にシーディーアへ移動予定だよ」
最後はジョニーと旦那さんがまとめてくれた。
「騎士団団長をしているオリバーだ。今はケイ殿達と、ゆ、勇者と一緒に魔王討伐に向けて旅をしている」
軽い食事の後に買い物をしてオリバーさんと待ち合わせ。ユウキを勇者と言いたくないのか、オリバーさんは舌を噛んでいた。
ワフソンとシャロークは手短に挨拶を返す。旦那さんの魔法でシーディーアへ移動すると、エンシュアさんの使いだと言う子供が走ってきた。
「お店に来て欲しいってさ。ちゃんと伝えたからね」
「ありがとう。ちょっと待って」
銅貨を一枚握らせてから、私の両手で掴めるだけのドライフルーツを袋に入れて渡す。子供は凄く嬉しそうにして走って行った。
近くにいた他の子供達と仲良く食べているのを見てから、エンシュアさんのお店へ向かう。
「こんにちは、エンシュアさんは?」
相変わらずフードを被って顔の見えない奴隷の女性に声をかける。
「皆様がお戻りになられたら案内するように言われております。勇者様が御不在のようですが、どうぞこちらへ」
透き通った水を思い浮かべるような声で話すとお店の奥へと歩いていく。後ろ姿を観察するとローブの裾から、僅かに尻尾らしきものの先端が見えた。
「この人が例の?」
「多分ね」
旦那さんとコソコソ話す。アズールが言っていた庭師の一人だろうと。
「エンシュア様、皆様がお戻りです」
「ああ、入って頂くように」
部屋の中から聞こえるエンシュアさんの声は忙しそうだった。
「呼ばれたから来たけれど出直した方が良い?」
山になっている書類に高速で判子を捺しているエンシュアさんは、私達を見てから手を止めた。
「大丈夫ですよ。クラーケンが居なくなったから船が寄港するようになったんです。その影響で物も人も動くから忙しいのです。暫くしたら落ち着きますよ」
私達と同じテーブルを挟んでソファーに座るエンシュアさんは、肩の辺りをグリグリしながら言う。お仕事大変そう。
「それなら安心だね」
「ええ、皆さんのおかげですよ。勇者殿を餌にすると聞いた時は驚きましたが、結果が良ければ民衆は受け入れます。あまり長話も何ですね、用件をお伝えしましょう」
そう言って近くに佇む女性に目を向けるエンシュアさん。話の展開は知っているけれど首を傾げる私。
「実はですね。皆さんにお願いがありまして。この娘、アルジェントをお譲りしたいなと」
「え?エンシュアさんの秘書的な人じゃないの?」
私達は驚いた振りで女性を見る。
「確かにそうですが同時に最高の商品でもありまして。まあ、本人が気に入らない客にはお帰り頂いていましたが」
「どうして急に譲ろうと思ったのかな?聞いてからじゃないと判断出来ないよね」
何となく話が長くなりそうなエンシュアさんを遮ってシンちゃんが聞いた。一瞬口を閉じたエンシュアさんは、ゴホンと咳払いで仕切り直しをする。
「実は本人が強く希望したのです。奴隷になってしまった理由に関わっていると思いますが、クラーケンを討伐した皆さんについて行きたいと懇願されました」
「希望されたのですにゃ?そういう事であれば問題は」
「但し。こちらとしても苦渋の決断なのです」
問題ないと言おうとしていたジョニーを遮って、エンシュアさんが商売人の顔になった。
「先程も言いましたが、最高の商品です。秘書としても非常に優秀なので穴は埋まらないでしょう…ですが、希望を出来るだけ叶えてやりたいのです」
それなら無料で譲ってよと内心で突っ込みを入れる。もちろん口には出さない。
「ふむふむ、お値段はどの位かな?もちろん、超!格安なんだよね?」
シンちゃんが満面の笑顔で言うとエンシュアさんの顔が引きつった。私か旦那さんと交渉するつもりだったんだろうな。目が泳いじゃっているもんね。
「は、はは…もちろんそのつもりですよ?金貨二千五百枚を二千枚でいかがでしょう」
乾いた笑いだったけれど計算はしていたらしい。何気に高いな?金貨一枚は、生前の感覚で計算すると十五万位じゃないかなと思う。
二千枚となれば宝くじ一等前後賞位になるのではないか?奴隷ってそんなに高価だったかな?買ったことないからいまいち判断に困る。
「ちょっと!金貨二千枚って何よ、超ぼったくりじゃない!私達にはあまり関係ないけれど酷すぎると思うわよ」
何故かシャロークが文句を言う。黙ってはいるけれどワフソンも頷いているから、相場よりも高いのだろうなとか考える。
オリバーさんに至っては口をパカッと開けて信じられないという顔だ。対するエンシュアさんはというと、顔の前でそんな事はないとばかりに両手を振る。
「街の恩人から巻き上げるなんて考えていません。今までの購入希望者が高値を提示してきたので、その…」
エンシュアさんの言葉に内心で、そういう事情かと思った。
「まあまあ、落ち着こうよ。断ってきた人達の手前、余りにも安くすると恨まれちゃうんじゃないかな?」
シンちゃんの言葉にコクコクと頷くエンシュアさん。他の人は幾らの値を付けたんだろうか?ついでに聞いてみよう。
「今までの最高価格と、最低価格を教えてもらってもいい?」
「察していただいてありがたいです。最高は金貨五千枚、最低は金貨千五百枚でした」
落ち着こうと出された紅茶を口に含んでいたシャロークとワフソンは、吹き出さなかったけれど咽ていた。気持ちは分かるよ、五千枚は凄いもんね。
「中間ライン位から街を救ったお礼分を差し引いて…という事で決めた金額かな?」
「そうですね。本当はアルジェントの希望もあるので無償でと思いました。ですが火種にならないようにする為と、知識奴隷を新たに数人購入して仕事を分担させる必要がありますので」
穴埋めの話は本当だったのか。それにしても金貨二千枚は厳しいな、手持ちじゃ足りないからすぐに用意できる金額じゃない。とある場所まで戻るか?
アズールは何とかするみたいな事を言っていたけれど、流石にここまで高いとは思っていないだろう。どうしたものか。
金策を考えこんでいると何だかくすぐったい事に気が付く。考える事を止めて自分の体を見下ろして呆れた。
何故ってサーリアが私をくすぐっていたから。しかも胸をガッツリ掴んで、押したり引いたりするのは止めて欲しい。
オリバーさんとワフソンが真っ赤になりながらもガン見をしてくる。エンシュアさんは商売人らしくポーカーフェイス。どこを見ているか悟らせない。
シャロークはオネエだからなのか、肩を竦めて溜息をついているだけだった。サーリアの襟首を掴んで引き剥がす。
「何をしているのかな」
「ちょっと怖い顔でテーブルの上を見つめたまま微動だにしなくなるから、生きているのか確認しただけなのじゃ」
どうやら周りが見えていなかったみたい。そのままサーリアを膝の上に抱え込んで頭の上に顎を乗せる。
「ごめんなさい。お金をどうしようって考えていたら、深いところまでいっていたみたいで」
「いやいや、おかしなことではありません。いくら女帝といえども二千枚は短期間で用意できるものではないでしょう。考え込んでしまうのも当然かと」
エンシュアさんのフォローに皆が頷く。
「購入の前に色々考えたいから今日は返事しない、保留にさせて?ついでにアルジェントさんの顔見せて欲しいな」
「回答は急ぎません。皆さんの出発までに決めて下さい。アルジェント、フードを脱ぎなさい」
「はい、ご主人様」
エンシュアさんの命令に従ってフードを持ち上げてパサリと後ろへ落とす。銀色の美しい髪をした美人さんがいた。そして頭の上に三角の耳。
「うっはー!キツネだ、キツネ耳だ!見て、旦那さん!キツネ娘だよ?わー、触っていい?ねえ、触らせて!」
「うぎゅう!ケ、ケイ!苦しい、苦しいのじゃ!放して欲しいのじゃああああ!」
「落ち着け、嫁さん!いかん、悪い病気の発作が!」
大きなキツネ耳がピコピコしていた。アルジェントは獣人だとアズールから聞いていたにも関わらず、我を忘れた。
サーリアを強く抱きしめて振り回すように悶える私と、怯えてしまったのか耳が少しペタンとなるアルジェント。
苦しそうなサーリアの悲鳴が響く部屋の中は収拾までが大変だった。




