20話
「どうして正座なのよ?何もやっていないわよ」
「何だか頭痛が…戦闘が始まった辺りから記憶が不鮮明なのだが、シャロークの言うとおり失敗はしていないと思うが?」
予想通りにワフソンとシャロークは文句を言ってくる。
「おう、おう、おう!このさく…モガガ!モガ、モガ!何で止めるの旦那さん!忘れたとは言わせねえってお約束でしょう?」
「色々引っ掛かるからね。それに嫁さんの肌を他人に披露するのは嫌だ。楽しむのは僕だけの権利だ」
「え…?やだ、もう!旦那さんたら独占欲が強いんだから!」
イチャイチャする私と旦那さんを放置して、シンちゃんが二人の前に水晶玉を置く。
「これは?我々が正座しなければいけない事と関係があるのか?」
「そうだね。口で説明するより見てもらう方が早いかな。いつまでじゃれているつもり?フミでもケイでもいいから起動させてよ」
じゃれあっていたけれど映像を見せなければと思い少しだけ魔力を流す。今現在正座させられている窪地で焚き火をする、身なりの良いドワーフを見た途端に二人に動揺が走る。
「ガウディエ様!やはりここを訪れていたのか」
「まだ安全だった頃よね?」
ワフソンとシャローク以外の全員が、やっぱりなという顔になっても気付いていない。
「問題はここからなんだよね」
やれやれという感じで肩を竦めて溜め息をつくシンちゃん。映像の方向を切り替えて音も聞こえるようにする。
「何だ?ポイズンピーコックが一羽だけでいるのは珍しいな、はぐれか?」
様子を窺うようにしている普通のポイズンピーコックに声を掛けるドワーフ。一歩だけ焚き火に近付いたポイズンピーコックは、痩せて弱々しい感じだった。
「そんなんじゃあ他の魔物に負けるぞ?よし、エサをやろう。これを食え」
そう言うと焚き火で炙っていた何かの肉を投げ与える。最初は首を傾げたり警戒していたけれど、ジリジリ近付いて肉にかぶりつくポイズンピーコック。
あっという間に食べ終わって足りないとばかりにドワーフを見る。
「まだ欲しいか。たくさん食え」
次々に肉を投げ与えていく。いくつ食べたのか分からなくなった頃に変化が始まる。
「グッ、ゲッ、ゲゲ…」
「どうした、食い過ぎで苦しいのか?」
苦しそうに呻くポイズンピーコックとちょっとだけ心配するドワーフ。
「食い過ぎなら逆さにして振ってみるか?どれ…」
何の根拠もない適当な解決法を口にしながら、ポイズンピーコックへ近付く。
「ギャゲエ!」
「うわ!何で破裂するんだ?」
背中側が裂けて息絶えるポイズンピーコック。
「死ぬような肉じゃないと思ったがな?うん?今動いたか?」
映像の中に見えるポイズンピーコックは、完全に息絶えているはずなのに裂けた背中が波打っている。
「何だ?…これは、どういう事だ!」
驚いた様子のドワーフの目の前で、死んだポイズンピーコックから二羽のポイズンピーコックが生まれる。
そして仲間の?死体を食べて息絶えると同じ様に増えた。ドワーフがただ見つめていた間にねずみ算で増えていく。
しかもただ増えるだけじゃなく体が大きくなっていくし、小さく弱そうな個体を襲って貪っている。その個体もやがてもっと大きな仲間に食べられる。
「こ…こんな現象は…聞いた事がない…最初に与えた肉が鳥系統の魔物の肉だったからか?とにかく水晶玉を回収して上からアイテムで一掃するか」
窪地を埋め尽くして溢れ出すのではないか。ポイズンピーコックはそう思える位に増えていた
「ギャゲエ!」
「ああ、何をする!」
ドワーフが手を伸ばすよりも早く、他より大きな個体が水晶玉を飲み込んだらしい。らしいというのは見える映像が赤色で塗り潰されたから。
「クソッ!水晶玉は諦めよう、とにかく退散だ」
ドワーフはどこかに逃げたようでそれ以上は言葉が記録されていない。映像はしばらくすると少しずつ暗く濁った色が混ざって、やがて真っ黒に染まっていった。
「さてと、何で正座かは理解出来た?」
「な、何の事か理解出来ないわね…急にお買い物に行きたくなったから、依頼は終了で良いわ」
「そんな言い訳で逃がしてもらえると思っているの?」
「い、言いがかりじゃない?こっちにだって考えがあるわよ」
つまらない事を言い出すシャロークをじっと見つめていると、何故かサーリアが溜め息と一緒に忠告を始める。
「やれやれ…そんなに女帝の実力を見たいのか?小僧…悪い事は言わぬ、謝っておくのじゃ」
すると妙な事を言って私と目を合わせようとしないシャロークの代わりに、ワフソンが諦めた口調で言う。
「意図していなかったが異様なポイズンピーコックが発生した原因は、ガウディエ様にあるようだ…亡くなった冒険者もいるのだろう?我々はどう償えば良い?」
悲壮な表情で真面目に言われるとからかい難い。
「そのままギルド長に報告した場合は、恐らく高額な慰謝料を要求されるね。今後はドワーフの冒険者に対して、何らかのペナルティーが課せられるかも知れない…大変だよね?」
シンちゃんの言葉に更に表情が暗くなるワフソン。流石にシャロークも誤魔化せないと諦めたのか顔色が悪い。
「で、も、ね?目撃者は僕達だけなんだよね!さっきまで水晶玉が飲み込まれていたからねえ?」
首を傾げるドワーフ二人に比べて震えながら私の腕を掴んでくるエルフ。サーリアはシンちゃんに対して恐ろしいと考えている気がする。
「シンちゃんの正体は内緒だからね?」
「分かっておるのじゃ。ただ…あやつらが少し可哀想かなと思うがの。シン様は何を要求する気なんじゃろうか」
「短時間でシンちゃんの性格を理解したか。少なくとも記憶が戻るまでは私達と一緒だから、サーリアは気をつけなよ」
「うむ、注意するのじゃ」
私とサーリアが内緒話をしている間も二人をからかうシンちゃん。
「黙っている代わりにって聞こえるわね…一体どんな教育をしているのよ?」
シャロークが私に向かって言うから訂正しようと思う。
「家族として一緒にいるけれど私と旦那さんの愛の結晶じゃないからね?元々この性格だからね?迂闊な発言は寿命が縮むよ」
威圧しながら言ったのはまずかった。涙目でワフソンにしがみついちゃった。
「結局どうすれば良いのよ!何でもするわよ、はっきり言ってよ!」
よし、向こうから言わせたから要求するのだ。チラッと見るとシンちゃんがニヤリと笑う。
「じゃあ、お言葉に甘えて。僕達はバン国王からの依頼で勇者(笑)と一緒に魔王討伐の旅をしているんだ。ちょっとした用事で戻ってきたけれど、次の目的地に向かわなくちゃならない」
微妙に声が笑っていた部分があったけれどワフソン達は黙って頷く。二人の前を後ろで手を組んで行ったり来たりするシンちゃんは、神様というより悪魔に見える。
「武器の損耗が激しくてさ?メンテナンスと可能だったら強力な武器が欲しい。まだ王様を見つけていないみたいだし?あの子が持っているペンダント型の武器についても、気になっているでしょ?」
サーリアを指差すシンちゃんにつられてこっちを見る二人。サーリアがちょっと居心地悪そうにペンダントを隠す。
「だからね?僕達と一緒について来ない?武器のメンテナンスを中心に、戦闘でも手を貸して欲しいな」
「ちょっと考えさせてくれないか」
「急に決められないわよ、二人で話をさせて」
ワフソン達は少しの間ボソボソと相談していたけれど、他に何も思い付かなかったらしく結局シンちゃんの出した条件を了承した。
「ついていくけれどガウディエ様の捜索もするからな?」
「問題ないよ、早く見つかると良いね。そうすれば王様と交渉出来るからさ」
水晶玉を転がしながらワフソンに言い返すシンちゃんを、シャロークとサーリアが震えながら見ていた。
「恐ろしい子ね…」
「そなた達も災難じゃな…しかし主が悪いから仕方ないのじゃ、挫けずに頑張るのじゃ」
「それを言われると痛いわね」
肩を落とすシャロークをサーリアが慰めていた。ふと思ったけれどシンちゃんって本当は邪神かな?でもまあ、面白ければ良いか。
「話がまとまったのなら町へ戻ろう。ギルドへ討伐報告をしないといけないし、使ったアイテムの補充もしたいからな」
旦那さんに促されて窪地を後にしたけれど、麓までは歩いて戻りたいと頼んだ。欲しかった素材が手に入らなかったから魔物を狩って売らないとね。
お金はどれだけあっても困らないし、マロを可愛くする計画のついでにサーリアも飾ってみたくなったんだよね。
中身はロリババアでちょっとエロフ?かもだけれど見た目は可愛いからね。疲れているとか、もう嫌だなんて反対されるかな?と思ったけれど皆賛成してくれた。
自分で狩った獲物は自由にしていいと言ったからだけれどね。サーリアとマロは私と組む事にしたらしい。
旦那さんはシンちゃんとジョニー、ワフソン達は二人でとなった。お互い離れ過ぎないように注意して山を下りる。
ポイズンピーコックがいなくなったからか、大人しくしていた魔物達が襲いかかってくる。いい金額になりそうだなって思いながら、帰りのハイキングを楽しんだ。
「何て物を持ち帰ってくるんだよ!中途半端なレベルの奴だと障気に負けるぞ!」
要らない素材や肉を売ってきてねとマロとサーリアをお遣いに行かせて、ギルドへ報告に来たのにアンガスは眉根に皺を刻んでそう言った。
「何ってポイズンピーコックの羽根とか骨とか?」
「そういう事が言いてえんじゃねえよ。ギルド内を汚染してくれるな!」
「ギルドとして討伐を依頼したよね?討伐証明が必要かなって思ったのに…要らないならこっちで処分するけれど?」
「大丈夫ならそっちで何とかしてくれ。それでどうだった?」
アンガスは額に脂汗を浮かべて聞いてくる。私は魔法鞄に羽根とその他を片付けているから、旦那さんが事情を説明してくれた。
「そうか。原因不明だがギルドの調査時よりも成長して変異していたと…災害級になりかけていたのか。発生原因も謎のままだし、山で食べる魔物がいなくなったら危なかったな」
「お二人はどうされたのです?大丈夫ですか?体調が優れませんか?」
アンガスの話を聞きながらビクビクしているワフソン達に、ミアちゃんが首を傾げる。バレないから平静を保てって言ったのになあ。
「い、いや…大丈夫だ。ありがとう」
ワフソンが微妙な返事を返すけれど、そんな風だとアンガスにツッコミ食らうぞ?
「どうした?ドワーフの兄さんよ…まさか?」
もう完全にバレた!みたいな顔色のワフソンとシャローク。助け舟が必要かなと考えて、話題を変えようとしたけれど杞憂に終わる。
「ポイズンピーコックの強力な呪いが残っているんじゃないか?神殿にも伝手はあるから紹介するぞ。無理はダメだからよ」
一時危なかった事を話したから勘違いしてくれたみたい。ワフソンはホッとしながら自分で行くと言った。
「まあ、それなら良いがな。さてと、ケイ達には報酬を渡さないとな。ミア、持ってこい」
「了解です!にゃ…ケイさん、離してくれないと取りに行けないです」
「えー!ミアでリフレッシュしていたのにな。でも報酬は欲しいからな」
渋々ミアちゃんを解放するとアンガスが溜め息をつく。
「相変わらずだな、うちの受付嬢は渡さねえぞ?まあ今回は助かったぜ、他に適任者が思い付かなかったからな」
「どうしても私達しか無理っていう時はバン国王に相談して。連絡用キメラがいるから」
「量産されていないから高価だと聞いているが…まあ困った時は頼らせてもらうぜ」
ミヤちゃんから報酬を受け取った私達はギルドを後にした。




