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18話

微妙な表現がありますが、アルコールは適量にしましょう。未成年はダメ、絶対。

 旦那さんが使った魔法は持続性がある。ポイズンピーコックは息絶えた後も凍っていった。

「旦那さん、ポーションの材料はどの部分?」

 全部凍ってしまう前に必要な部分を切り取ろうと思って聞くと、凍らせた方が飛び散らないからと言われる。

 十分もすると完全に凍ったポイズンピーコック、けれど刃物で楽に切り取れる程度だ。

「あれだね、冷蔵庫でさ?同じ様な機能あったよね。お肉とか冷凍したのに包丁で切れたよね」

「それは羨ましい機能ですにゃ。再現出来ないか検討するですにゃ」

 心臓と肝臓は必ず必要で他は少しずつ切り取って欲しいと頼まれている。ジョニーと適当な話をしながら作業する事一時間で、ポーションが沢山作れる材料を確保した。

 その間にシンちゃんと旦那さんは羽根を集めている。一枚も残っていないと判断した旦那さんが私の所に来て耳元で囁く。

「やあ、旦那さんってば。皆が見てるじゃない」

「違うよ?庭師に連絡したいんだよ。そっちは帰ってからゆっくりね」

 盛大に勘違いしていた!これ以上傷口を広げないように黙っておこう。真っ赤になりつつ黙っているとブランから返事がある。

「はいブランですが、お呼びですか?」

「工場か倉庫のどちらかに運んで欲しい物があるんだ」

 どうやら旦那さんは『窓』を通して羽根と切り取った材料を、秘密の工場に移動しようという事みたい。

「今からそちらへお邪魔します」

「待っているよ、よろしく」


 旦那さんが言うとちょっと大きめの『窓』が出現してブランとアズールが来た。羽根を手に取り感心したような声でアズールが言う。

「これはまた見事ですね。呪いを掛けるにも跳ね返すにも適している素材ですね」

「あ、内臓は溶けないようにね。羽根は魔王の服に加工出来るか調べたいから、混ぜないでね」

 アズールにそれぞれ違う場所に保管してくれるように頼むと、ブランがちょっと微妙な表情になる。

「あのケイ様、魔王の服という事は私が着る服という事ですよね?」

「他に誰がいるの?」

「ブランっていう名前だけだと恐怖の対象にならないからさ?何度か姿を見せないとね!まだ試作段階だから大丈夫だよ!」

 シンちゃんに笑顔で言われて肩を落とすブランに心の中で頑張れと声援を送る。

「後ねアズールに頼みがあるんだよね。これって追加で作成出来る?」

 イヤリングをピンッと弾いて言う。

「シン様用ですか?必要ありませんよ?」

「違うよ、旦那さんにもあれば便利かなーって」

 はて?と首を傾げていたアズールは急に納得顔になった。

「ああ、そういう事ですか。仲がよろしいのですから良いではありませんか」

「何となくだよ!出来るか聞いているの!」

 これ以上言わせんな!という顔の私と、みなまで聞きませんよ?という顔のアズール。暫く見つめ合って?いた。

 何だか腹が立ってきたから魔法鞄からメイスを取り出す。

「それで?作れるのかな?」

「落ち着きましょう。シン様と同じ様な存在であるケイ様から本気で折檻されますと、私共は耐えきれずに消滅してしまいます」


 ジリジリと近付くとその分だけ下がるアズールは笑顔が引きつっている。

「本気なんて出さないよ?泣いてごめんなさいって言わせる程度だよ?」

「目が笑っていませんが…明日にでも届けますので許して下さい!」

 シンちゃんの後ろに隠れながら顔だけ出して謝ってくる。

「嫁さん、その辺にしてあげなよ。アズールも次からは気をつけるように。指輪か杖に付けられるアクセサリーにしてくれると助かる」

「もう、旦那さんは甘いんだから。仕方ないから止めておく」

 メイスを魔法鞄に片付けるとホッと安堵の溜め息をつくアズール。

「ではまた明日」

「何かあればご連絡下さい」

 そう言ってアズールとブランは帰っていく。私達は残っているポイズンピーコックを見てテンションが下がる。

「嫁さん、気持ちは分かるけれど諦めよう。このままには出来ないから何とかして後始末をしないと」

「確かにそうだよ?苦行って言ったよ?でも萎えるなあ」

 視界の端ではブツブツ文句を言う私に構わないで、ジョニーが魔法の鞄から色々と取り出していた。テーブルにイスを取り出してから鉈とハンドルがついた機械を出す。

 それからボウルにガラス棒と大ジョッキ?

「僕もケイに賛成したいね。どう見ても面倒だよ」

 シンちゃんが私の隣にきてイスをガタガタ揺らす。

「そう思うならシンちゃんが神様パワーで一撃したら?サーリアやシャローク達は眠っているよ?」

 見ているのは私達だけだから一瞬で浄化する事も可能。手間がかからないから楽だと思って聞いた。シンちゃんの反応は微妙だった。


「これを浄化するには割と力を使うよ。周りが一定期間聖域の様になるのは影響が大きいよね?後は何も残らないからギルドへの説明は?」

 そうだったなあと遠い目をする私に旦那さんが提案をしてくる。

「倒したら崩れてしまった、仕方ないから皆で浄化したって事にしなよ。羽根と内臓を少しだけ見せてどうする?と聞くんだ。扱えなくて拒否してくると思うよ」

「まあねえ、元々材料を半分持っていかれるのは嫌だったんだよ。最初はきっと大きくて綺麗な羽根だろうと思っていたし…それでいこうか」

 ジト目で旦那さんを見ていたけれど他に思い付かないから妥協する。溜息をつきながらイスに座るとガラス棒を手に取る。

「それで?これはどうする為にあるのかな。正直に言えば細切れにしてから、シンちゃんが浄化すると思っていたんだよね」

 クルクルとガラス棒を回して遊ぶ私にシンちゃんが呆れた目を向けてくる。

「ケイらしいと言えばそれまでだけれどね。少しずつ皆で浄化して無害な水にして流すか、何もしないまま溶かして飲み干すかだよ。ガラス棒は魔法が刻み込んであるから乱暴に扱わないでよ?」

 シンちゃんの言葉を適当に聞いていたせいか、ツルッと手を滑らせてしまった。テーブルの角に当たったガラス棒は砕けてしまう。

 ジョニーから小さな箒とちり取りを貸してもらって黙って掃除をする。その間に旦那さんがシンちゃんに質問をしていた。


「どっちもというか、後者は出来るだけ避けたいな。それぞれのメリットとデメリットは?」

「前者は安全で環境に優しいけれど恐ろしく時間がかかるね。頑張っても…日が昇ってお昼を越えても終わらないね。後者は早いけれど激マズだってことかな。僕達の体調とかには一切影響がないし、環境にも優しいから時間の問題だけだよ」

 嫌そうな顔でポイズンピーコックを仰ぎ見る旦那さん。それにつられて私も上を見る。不味いのは嫌だ、でも時間もかけたくない。

「どうする?旦那さん…不味い物は飲みたくない」

「泣きそうな顔にならなくても。なあシン、時間がかかるのはどうして?」

「ボウル一杯分をガラス棒で混ぜながら浄化の魔法をかける、水になったら捨てるという事を繰り返す。最初は僕が見本を見せるから同じ様にやってくれれば良いよ。でも影響がないようにしようと思うとボウル一杯ずつが限界」

 私と旦那さんは無言でテーブルの上にあるボウルを見る。直径は二十センチもないだろう小さなボウル。

「燃え尽きたぜ」

 そう言ってイスに座る私だったけれど旦那さんはタオルを投げてはくれなかった。ポンッと肩を叩いてから頭を撫でてくれる。

「苦しい時も病める時も共にあると誓ったよね、僕がなるべく沢山飲むからさ?時間節約で頑張ろうよ」

「ええ、ええ!言いましたよ、誓いましたよ?六十年以上前の事だけれどね?うう…ジョニー、せめて口直しのお菓子を用意してよ」

「色々出しておきますから…時々休憩して下さいにゃ」


 ジョニーがポイズンピーコックの身体を切り取って機械に入れる。ハンドルを回すとガリガリと音がして、下にセットされたボウルに黒いかき氷が出来る。

 あっという間に液体状になっていくから更に削る。最終的にソレをジョッキに注ぐと皆に配られた。ジョニーは耐えきれない可能性があるので数には入っていない。

 私に旦那さんにシンちゃん、三人共引きつった顔をしている。

「もう腹を括った!乾杯!」

 自棄気味に言ってジョッキを傾ける。味が分からないうちに流し込んでしまえとばかりに一気にいく。ゴッ、ゴッ、ゴッと豪快に飲み干してからテーブルにガツンとジョッキを置く。

「くあ!不味い、もう一杯!」

「まだまだ沢山ありますにゃ」

 緑色をした微妙な飲み物のCMのような言葉にジョニーが素直に次を注ぐ。

「わんこピーコックか!というか二人も飲みなさいよ!」

 据わった目で言う私に冷や汗を流す旦那さんとシンちゃん。

「はいジョニー、手拍子!シンちゃんの?ちょっと良いとこ見てみたいー!それ、一気、一気!」

「アルコールじゃないのにケイが妙なテンションだ!仕方ない僕も男の子だ。シン、いっきまーす!」

 私と同じ様に一気に飲み干したシンちゃんは、テーブルに突っ伏してピルピルしていた。

「うう、まっずう…こっちが早いと提案したのは僕だけれど…げふう…死ぬかも」

「死ぬわけがないじゃん、何言ってんの。次は旦那さんだよ?ジョニー、再び手拍子!はい、はい、はい!今日のピーコックが飲めるのは、旦那さんのおかげです!」

 ジョニーだけじゃなくてシンちゃんも手拍子に参加する。

「そこまで言わなくても飲むよ…せーの!」

 気合いを入れて飲んだ旦那さんは、シンちゃんと同じ様にテーブルと仲良くなった。不味い、兎に角不味い!それしか言葉が思い付かない。

 そこからは死んだ魚のような目で、誰も喋らなくなってひたすらジョッキを傾けていた。


「お、お前達は何をしておるのじゃ!そんな物を飲んで平気なのはおかしい!本当は何者なのじゃ!」

 何杯目か数えるのを止めた頃に悲鳴に近い詰問の声が聞こえる。びっくりして声の主を見るとこちらを指差して、怒ったような驚いたような表情のサーリアがいた。

「何で起きてんの!マロ?ちゃんと魔法かけていたの?」

「あれ?声が届く。いつの間に特製結界が消えていたんだ」

 私と旦那さんが驚きで動けないうちに、サーリアはテーブルまで来てしまう。テーブルに近付いたという事は、結界は完全に消えている。

 ポイズンピーコックは仕留めたし冷凍状態だから、結界はもう必要ないだろうとシンちゃんが解除していたらしい。

「ああ!ダメですよ、サーリアさん!」

 マロがアワアワしながら言うけれど聞いていない。ダンッと両手でテーブルを叩きながら睨んでくる。

まあ、叫んで確かめたくもなるか。

 一般人なら一口で色々なステータス異常になってしまうだろう液体を、ジョッキでがぶ飲みして平気なんだから。

「何者なのかと聞いておる、答えるのじゃ!」

「そんなに怒ると可愛い顔が台無しだよ?君こそ何者かなー?マロのピクシーズララバイから勝手に目覚めるなんてさ」

「質問を質問で返すでない!わらわはエルフじゃと知っているじゃろう」

 シンちゃんとサーリアが質問をぶつけ合うのを聞きながら、ジョッキを傾けかけて内容が気になった。私に合わせて旦那さんも手を止める。

「マロの魔法から自力でってさ?レジスト値が高いって事だよね」

「そういう事になると思うよ、普通ならね。でも何かがあると思う、とある神様とエンカウントして無事な時点でね」


 ですよねー!と考えながらサーリアとシンちゃんを見る。サーリアが何やらギャアギャア言っているけれど、シンちゃんはサーリアをじっと見つめていた。

 少しするとパチンと指を鳴らす。

「やっと分かったよ!この娘は始祖だ、一番最初のエルフ。魔力を調べるまで気付かなかった、余りにも縮んでいるんだもん」

 シンちゃんが楽しそうにこっちを見て言う。

「始祖?本当に?サイズがおかしいでしょ」

 少しでも減らそうとジョッキに口をつけながら言うと、シンちゃんは腕組みをしながら唸る。

「そこなんだよ。大人の姿のはずなんだよね。何か原因不明の理由で縮んだかな」

 記憶喪失の上にサイズダウン?そうだとすれば不運だねと思った。

「ケイがどういう感想を持ったとしても、僕が生み出した子達の一人で間違いないよ」

「シンちゃん?自分が何を喋っているか自覚ある?」

 創造主発言をするシンちゃんにサーリアは驚きで固まってしまった。ギギギイとか音がしそうな感じで私を見る。

 理解不能だから助けてという表情なのは気のせいか。

「ねえ、サーリア。確認したい事があるんだ」

「な、何じゃ?ケイらしくない言い方ではないか?」

「らしくないって私を何だと思っているのかな?まあいいや。今見ている事やこれから話す内容を、誰にも言わないって約束出来る?」

「出来なかった場合はどうなるのじゃ?」

「ほう!それ聞きたいの?」

「いや、聞かぬ。少し考えるのじゃ」

 私が真剣に聞いたせいかサーリアは暫く考え込む。答えが出るまで時間が勿体ないからと、私達はポイズンピーコックの処理に戻るのだった。

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