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16話

「いつ襲われるか、気が気じゃないわ」

 下手にポイズンピーコックを間近で挑発して威嚇されたせいで、シャロークはすっかり怯えていた。

「余計な事をするからだよ、もう。だからどうして私に頼るかな?歩くのに邪魔!」

 シャロークは私と腕を組んで歩いているけれど、キョロキョロしたり変に引っ張られたりして非常に歩き辛い。

 これがカリーナちゃんやミアちゃんだったら楽しいのにな。ああ、早く帰りたい。

「近くに気配はないから暫くは大丈夫だろう。王様について探すついでに発生源というか発生場所を見に行こうか?」

 旦那さんはポイズンピーコックが大量発生したという窪地を目指そうと言う。

「ギルド長殿の話によれば中腹より少し上辺りらしいので、あと二時間程度歩く必要がありますにゃ」

 ジョニーの言葉にシャロークが嫌そうな顔をする。

「ケイの高速飛行で空から行けないの?」

「言うと思ったよ。私だって楽をしたいから考えた。下から狙い撃ちされたい?」

 更に嫌そうな顔になった所に無邪気な声がする。

「意外に向こうも飛べるとか、ありそうですよね」

 全員で声の主、マロをじっと見てしまった。

「考えから外していたけれど可能性は否定出来ないよね。上からの攻撃も警戒しようか。マロ、ジョニー頼んだよ」

「分かりました、シン様。早く気付くように頑張ります」

 マロの頭を撫でてからシンちゃんが私を見る。何故か小石を投げてくるからヒョイと避けるふりをして、シャロークに当たるようにしてみた。

「ちょっと、シンちゃん?痛いじゃない」

 シャロークから文句を言われたシンちゃんは溜め息混じりに言う。

「やっぱりね。ポイズンピーコックが襲い掛かってきた時には回避が間に合わない。ケイの動きを制限しちゃうから、べったりくっつくのは止めようよ」

「あら、ごめんなさいね。怖くて、ついね」


 やっと歩き易くなった。助けてくれたからシンちゃんのそばに行って、最近試作したばかりのお菓子を口に入れてみた。

「何これ!美味しいね。もっと欲しいな?」

「秘密の農場製日本米から造った日本酒入りのキャンディだから無理。ワフソン達が居るからね」

「残念。家に帰ったらたくさん食べられるよね?」

 もちろんと答えて元の場所に戻って歩く。

「この辺りがアンガス殿に聞いた地点ですにゃ」

 ジョニーがそう言って足を止める。木が疎らになって月の光が差し込んでくる。

「手分けして窪地を探そうか、はい頑張って」

 旦那さんの合図でバラバラと散る私達。時々出てくる魔物を撃退しながら探していると、サーリアが皆を呼ぶ。

「何を見つけたの?」

「ここじゃ、この深い窪地が怪しい。あの化け物はここで生まれたのではないか?」

 サーリアが指差す先には普通のポイズンピーコックが、どれだけ頑張っても這い上がれないだろう窪地がある。

「サクッと調べて次行こうよ」

 面倒な事は早く終わらせようというシンちゃんに促されて降りてみる。

「確かにここだろうね、鮮やかな羽根がたくさん落ちている」

「一羽や二羽どころじゃないね。骨っぽい残骸も僅かに残っているもんね…やっぱり共食いしたのかな」

はああ、と溜め息を零す私にびくびくと怯えたシャロークが言ってくる。

「特に見る物が無いなら先に進みましょう。ガウディエ様の事を調べて帰りましょう?」

 ポイズンピーコックが怖くて目的の一つから逃げているな。討伐しないで帰るなんて出来ないのに。


「忘れていないかい?ギルドからの緊急依頼はポイズンピーコックを討伐する事だよ」

 腰に手を置いてダメだぞ?という顔のシンちゃん。見る人によっては黄色い悲鳴が聞けそうだな。

「わ、忘れたりしていないわよ。大丈夫よ」

 言い訳するシャロークに皆で思う、嘘つけ忘れていたくせにと。

「さて、どうする?開けた場所を探すかここで待つか。嫁さんはどっちが良い?」

「もうここで良いじゃない。色々な残骸を燃やしてやれば怒って戻ってくるよ、多分ここはベッドだと思うからさ」

 いつの間にか箒でゴミを集め始めたジョニーとマロを見て旦那さんに言う。マロがちゃっかり綺麗な羽根を集めて、魔法の鞄に入れているのが微笑ましい。

 ここで配ったポーションを全て飲むように旦那さんから指示がある。ケチっても良い結果にはならないから、皆大人しく飲んだ。

「それじゃあ派手にキャンプファイヤーといきますか。旦那さん頼むね」

「了解。ファイアボールファイヤーボール」

 小さめに調整されたファイヤーボールはゴミの山に着弾して燃え上がる。

「景気づけに歌でも歌う?」

 暗闇を照らす炎を見つめてのんびり言う私の耳には、離れた場所で怒り狂うポイズンピーコックの雄叫びが聞こえていた。

「ギゲゲゲゲェ!ギシャー!」

「おー!見事に怒っているね」

「楽しそうだね、嫁さん」

 窪地で色々なゴミに火を点けてから数十秒でポイズンピーコックが現れる。ベッドを燃やされたせいなのか凄く怒っている。

「それじゃあ各自頑張ろう!」

 シンちゃんの合図で移動する。一ヶ所に集まらないよう散開して、武器を構える私達が気に入らないみたい。

 ポイズンピーコックはこちらを睥睨してから更に雄叫びをあげた。それをきっかけに様子見しながらの狩りがスタートする。


「援護するわね。風の息吹よ!ウインドアーマー!」

 シャロークが全員に風の鎧を纏わせてくれる。効力が弱い気がするけれど無いよりはましかな。

「恨みはないが立ちはだかる壁は破壊するのみ!」

 ワフソンが体格に似合わない速さで斬りかかっている。スピードに対応出来ないのか、ポイズンピーコックは傷付いても反撃らしい反撃をしてこない。

「魔物とは勝手が違うだろう?大したことはないな!これならば我らだけで討伐出来…」

「この、馬鹿者が!」

 楽勝!みたいな事を言いながら斬りかかっていたワフソンは、何故かサーリアに弾き飛ばされていた。

「何をするのだ!連打を浴びせて弱らせる予定だった…のに…」

 文句を言うワフソンの声は小さくなっていく。さっきまで立っていた場所に鋭く太い杭が何本も生えていたから。

 サーリアはそれが分かっていたかのように別の場所へ移動している。なかなかに戦い慣れをしたエルフだな。

「調子に乗るでない小僧が!その杭を良く見よ、あやつの血で出来ておる。流れ出た己が血を操って襲い掛かってきたのじゃ」

 サーリアから小僧呼ばわりされた事よりも、大して強くないと判断したポイズンピーコックから反撃された事の方がショックだったらしい。

 次の行動が遅れたワフソンは戦線離脱の憂き目に遭う事になった。

「ギゲェ!」

 ポイズンピーコックはワフソンを尾羽根で弾き飛ばしてから、素早く近寄り思い切り踏みつけた。そして顔の近くで叫ぶとパリンッという小さい音がする。

 鎧が保たなかったのか、それとも?

「グウッ!何のこれしき!グアアア、よせ、止めろ!止めてくれえええ!」

 そのまま丸かじりコースかと思ったけれど、ポイズンピーコックはじっとワフソンを見ているだけだ。何もされていないのに止めろと騒ぐワフソン。

 これは最初からレジストに失敗していたか、向こうが上回って抜けられたかのどちらかだ。


「ちょっとあんた、相棒を放しなさいよ!アイスブリット!」

「わらわもおるぞ?両断してくれよう!ハアアッ!」

 シャロークが氷の塊をいくつか撃つのに合わせてサーリアが斬りかかる。ポイズンピーコックは、どちらも受けたくなかったのかワフソンから離れた。

 けれどサーリアが二人の為なのかポイズンピーコックに対して、追い払うようにして斬りつけた。返り血を浴びないように避ける辺りが上手いなチビエルフ。

「ギシャー!ギゲゲェ」

「フフン!痛かろう?次はもっと痛いのじゃ」

「ギゲゲェ、グゲゲゲゲ…」

 サーリアの大鎌を警戒しているみたいだけれど、何が起こるかは予測出来ない。場所的に私が一番近いから一応フォローに入る。

「危ないから注意してよ?」

「ケイが一緒なら安心なのじゃ」

 そんな事を話す私達の後ろではシャロークがワフソンを介抱しようとしている。

「ワフソン!大丈夫?」

「く、来るな、来るな、くるなあああ!」

「どうしたの!落ち着きなさいよ、ねえ」

「イヤだあああ、止めろおお!」

 シャロークをポイズンピーコックだと勘違いしているのか、更に恐慌状態に陥るワフソン。食べられている幻覚でも見ているのかな?

「本当にどうしちゃったのよ」

 シャロークの困惑した声にチラッと見ると、ワフソンの身体はポイズンピーコックの血で真っ黒になっている。

 踏みつけられた時に付着したか。血を媒介にして呪いを叩き込んだとしたら、レジスト出来なかったのも理解出来る。

「のんびり出来ないみたいだから、早めに白黒つけようよ。マロを向かわせるよ!」

 シンちゃんの指示でマロがこっちに回り込んで来る。

「ギイ、シャー!」

「わあっ!危ない鳥さんです。ケイ様の所に行きたいから邪魔しないで下さい」

 本能的に危険だと理解しているのか、マロに真っ黒な液体を吐きかけるポイズンピーコック。消化液か血液かどっちだろう。マロは上手く避けていた。


「普通に斬り付けると被害が拡大しそうだな。ねえ旦那さん聞こえる?」

「氷と炎、どっちが良い?」

「話早くて助かる、流石マイダーリン。炎でお願いね!」

 切れ味重視で日本刀を構えて旦那さんにお願いをしたら、即座に理解してくれて火属性を付与してくれた。

「これで斬れば返り血は殆ど無いでしょ、さあいっくぞー!」

 マロと入れ違うようにしてポイズンピーコックに向かって走った。向かってくる私を見て一瞬だけビクッとなったけれど、大量の羽を飛ばしてくる。

「当たってあげない、空月螺旋の型!」

 下から斬り上げるようにして羽を散らす。渦巻き状に立ち上る炎に焼かれて殆どが落ちた。少しだけ後ろに抜けたけれど、マロが作り出した結界に阻まれている。

「グギギィ、ギイイイイィ…シャゲェ!」

 羽は効かないと理解したのか、さっきマロに浴びせようとした真っ黒な液体を私に向かって吐いてくる。

「おっと、危ないねえ!おや、消化液の方か…結構強酸とみた」

 避けた場所の地面がブスブスと音を立てている。染み込みながら土や石を溶かしているみたい。

「森が汚染されるのは見ていて気分が悪くなるのじゃ、早く仕留めようぞ」

 サーリアが鼻息荒く怒っていた。多分エルフだからだろうなと思う。

「とにかく少しでも良いから削っていこう。マロとシャロークは動かないようにして、ワフソンが正気に戻るよう頑張れ」

 マロにそう伝えて呪文の詠唱に入る旦那さん。無詠唱でいけるけれど人目があると大変だな。

「シンちゃん!サーリアに頑丈な風系の防御をお願いね。ジョニーは旦那さんとシンちゃんのフォローを中心に!」

「了解ですにゃ」

 役割分担が終わったのでサーリアに笑いかけてから、ポイズンピーコックを解体する為に足を踏み出す。

「さあ、バラそうか」

「わらわの鎌でスライスしてやるのじゃ」

 殺る気一杯で横に着いてくるサーリアだった。

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