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13話

「ちょっと私達だけで話をしたいから」

 そう言って部屋の端に集まる。

「どうする?面倒だよね」

「効率的にいくなら断って討伐系を多く受ける方がお金になるね」

 あまり乗り気じゃない私と旦那さんは真面目には考えていない。

「ねえ、ジョニー。ポイズンピーコックは強敵かな?」

「我々であれば何一つ問題はないと思いますにゃ。討伐依頼ではないので無視する事も可能ですにゃ」

 何故か退治しようとするシンちゃんとジョニー。そんな中で一人目をキラキラさせてマロが言う。

「ポイズンピーコックって、あの派手な鳥ですよね?僕、羽を使った帽子が欲しいです!」

 どうして見落としていたのかな。マロの言葉に私はハッと気付く。そうだ、素材が取れるんだ。

「彼等?とのファーストインプレッションが悪かったから、思考の片隅に追いやっていたでしょう?」

「うひゃい!その通りだけれど囁くように言わないでよ!」

 旦那さんに耳元で低く囁かれて変な声を出しちゃった。確かに指摘された通り最初のやり取りで、手伝う気持ちがゼロになっていた。

 ポイズンピーコックの羽は飾りだけじゃなくて、毒耐性のエンチャントにも使える。亜種なら効果の増大が期待出来るかも知れない。

 私はゆっくりとシャロークを見るとビシッと指差した。

「あんた、鍛冶もだけれど裁縫とか得意でしょう?」

「あんたじゃなくてシャロークよ!編み物だって好きよ」

 よし!あいつにマロ用の帽子とかマントを作らせよう。内心でガッツポーズをする。お金も欲しいけれどエンチャントをした装備品も欲しい。

 何よりもマロを可愛くしたい。ついでにギルドから討伐依頼をもぎ取れば更においしい。


「あらら。ケイの目の色が変わったね」

「こうなった嫁さんは止められない」

「では必要な物を買いに行きますかにゃ」

「僕、何か間違えたのでしょうか」

 何気に皆が失礼だけれどいつもの事だし。

「ねえアンガス。彼等の依頼を受けても良いけれど、ポイズンピーコックは放置して良いかな?ギルドとして了承してくれたらエンカウント防止のアイテム使って、王様を捜してくるから」

「それはあんまりだろう?ついでに狩ってくれよ」

 最終的には狩るつもりだけれどただ働きは嫌だもんね。アンガスと見つめ合う事数秒、先に目を逸らしたのはアンガスだった。勝ったぜ!

「仕方ないな。ギルドからの緊急依頼としてポイズンピーコックを討伐してくれ。手続きはミアに頼めば良い。コアを含めて素材はギルドとお前達で半分ずつだ」

 腐っている時があってもギルド長か、素材を見逃さないとはしっかりしているな。対象の大きさを聞く限り、半分でも問題ないから良いけれどね。

「話はまとまったようだな。後は我々と皆さんの話し合いにしましょう、食事でも?」

 ワフソンがそう言うので二件の手続きだけしてギルドを後にする。心残りは少しだけしかミアちゃんをモフれなかった事。

 食堂に向かう途中にある本屋に寄って、出来上がっている原稿を渡しておく。後日売上に応じてお金をギルドの口座に入金してくれる。

「改めてよろしくお願いする。我々はガウディエ様の側近だから戦闘は任せてくれ」

「私達だけなのよ?ガウディエ様が作った武器や防具をもらえたのは。あの方に近付けるように頑張っているわ。でも毒が怖いのよね」

 立食式の食事を楽しみながら二人の話を聞く。腕が確かでも強過ぎる毒への備えは不足していたみたい。


「早速交渉に入ろうよ。準備の事を考えると時間は大切に、だよ」

 何故だかシンちゃんが仕切り始めた。何を企んでいるのかな?

「確かにそうだな。今回我々が支払えるのは金貨五十枚だ。モント国でトップランカーである皆さんには少ないと分かっている」

「だから不足分は違う形で支払いたいわ。私を好きにしてくれて良いのよ?」

 キモッ!と思ったけれど意思の力をかき集めて平静を装う。ガチャン!と音がするのでそちらへ目を向けると、ジョニーがカップを落として割ってしまったようだった。

「も、申し訳ありませんにゃ。店主に謝って弁償してきますにゃ」

 後ろ姿を見て気付いた。気持ち悪さに耐え切れなかったんだ。尻尾が膨らんでいたからね。

「猫さんどうしたのかしらね。それで、報酬については?」

 ジョニーがカップを割ったのはあんたのせいだよ。とは言えないから適当に笑って誤魔化しながら言う。

「エンチャントは出来る?可能なら欲しい物があるんだよね」

「俺が出来るが何にどんな効果を?」

 エンチャントの技術はワフソンか。やっぱりシャロークには可愛い帽子とマントを頼もう。

「ポイズンピーコックの羽を使って帽子とマントが欲しい。毒耐性を付与した状態でね」

 私達は皆高レベルだけれど怪我をしないわけじゃない。耐久力としてはジョニーとマロは私や旦那さんよりも低い。

 ジョニーは体力と機動力でカバー出来るけれど、マロは回復職だからね。何て理由を考えるけれど、自分でも建前だって分かっているよ。

「誰の分?一人っていう事はないわよね?」

 ちょっと首を傾げてしまったけれど、シャロークが指差す方を見て納得した。シンちゃんとマロ、そしてサーリアがいたから。


「金髪の僕は何となく必要無さそうに見えるけれど、コボルトちゃんとエルフちゃんは必要よね?でも連れて行かないのなら話は違うわね」

 シャロークの話を聞きながら考える。サーリアは連れて行かないつもりだった。それを察したのかペンダントを取り出してアピールし始める。

「ちゃんと戦えるゆえ、連れて行って欲しい」

「そう言われてもなあ。既に死亡者が何人もいるって聞いたよね?ワフソン、シャローク、あんた達から見て大丈夫に見える…何かな?その驚いた顔は」

 ワフソンとシャロークからサーリアは戦力にならないと言って欲しかったのに、二人共サーリアのペンダントを見つめて固まっていた。

「えい!膝カックン!」

 いつの間にかワフソンの後ろに回り込んだシンちゃんが膝カックンをする。何故知っている?テレビを見せた覚えはないのにな。

「うわっ!」

 ワフソンは全く気付いていなかったようで、面白い位にきれいにきまっていた。

「ごめんね?急に静かになるからさ、つい出来心でやっちゃった」

「つい出来心?まあ良いわ。無視していたわけじゃないのよ。ソレに驚いていただけで」

 ワフソンに手を貸しながらシャロークが何やら言い訳をして、サーリアのペンダントを指差す。あの驚き方から考えて出所はドワーフの国かな。

 入手までの過程が非常に気になるけれど、本人が忘れてしまっているからなあ。国宝とかじゃありませんように。

「ねえ、エルフちゃん?ソレって展開出来るわよね…見せてくれない?」

「何故知っておるのじゃ?見せるのは構わんが欲しがってもあげないのじゃ。では、ゆくぞ

「ゆくぞではありませんにゃ。他のお客様に迷惑になりますからにゃ、場所を変える事を提案しますにゃ」

 タイミング良く戻ってきたジョニーが待ったをかける。誰からも文句が出なかったからさっさと店を出る。


「安全で人目がない場所って他に思い浮かばなかった。私達の家だよ」

「ケイとフミの愛の巣だね!」

 間違っていないけれど正しくもない事を言うシンちゃんにワフソンが微妙な顔だ。

「シン様、訂正ですにゃ。愛の要塞ですにゃ」

「あ、そっかあ。悪意ある相手にはそうだよね」

 今度はシャロークが眉をひそめる。

「楽しそうに言うわね。体験したいとは思えないわ。さあ見せて頂戴エルフちゃん」

「了解なのじゃ!」

 やっぱり気の抜ける掛け声でペンダントを大鎌に変形させてドヤ顔のサーリア。私達は頑張って笑いを堪えていた。

 対照的にワフソンとシャロークは、真剣な表情をしてヒソヒソと内緒話をしていた。

「ねえ、ケイ。彼等はあのペンダントについて何かを知っていると思うんだ」

「まあ見れば分かる。それで?」

「馬車を改造している事だし、一緒なら王様捜しが楽だよってさ?」

 私とシンちゃんはヒソヒソと勝手な相談をする。

「ロハで色々作らせようよ。誘うのはポイズンピーコックを退治した後が良いよね」

「シンちゃんも悪よのう。それでいこう」

 ニヒヒと笑い合ってシンちゃんとハイタッチをしたら、旦那さんとジョニーが額に手を当てていた。何故だろう。

「エルフちゃん、それは誰からもらったのかしら?」

「さっきから失礼じゃのう。エルフちゃんではない、サーリアじゃ!誰にもらったかは分からぬ」

「ではドワーフの国に来た事はあるか?」

 質問しながらジリジリとサーリアに詰め寄るワフソンとシャローク。サーリアの顔に怯えの色が滲み始めたから助け舟を出す。


「そのペンダント?について何か知っているの?もしもそうなら、逆に教えて欲しいんだよね。サーリアは記憶喪失だから」

 サラッと告げると某有名絵画のように頬に手を当て、声にならない悲鳴をあげる二人。あ、膝から崩れ落ちた。

「て、手掛かりが得られると思ったのに」

「記憶喪失なら、ショックを与えれば良いのかしら?ケイの笑顔がとても怖いから出来ないけれど」

 大鎌をペンダントに戻したサーリアは小走りで旦那さんの後ろに隠れる。服をギュッと掴む前に立ち位置を変えた。油断禁物だな。

「怖いとか言って甘える作戦?そうは問屋が卸さないよ?あの異世界から来た神様より安全だと思うよ?」

「むう、残念じゃ。全部を覚えておるわけではないのじゃが、あそこまで暴力的な恐怖と比べると中途半端で気持ち悪いのじゃ」

「ああ、なるほどね。ちょっと!いつまで落ち込んでいるの?今すぐ買い物に行って夕方には出発するよ?」

 さっさと動けと言う私に化け物でも見る目を向ける二人。恐る恐る手を上げてワフソンが質問してきた。

「夜に山へ入る事になるが?」

「そうだよ?何か問題あるかな?」

 当たり前の事を聞くんじゃないと言う私に皆が続く。

「他の冒険者達が少ないから夜の方が行動し易い上に、強い魔物が多くて手応えがあるからな」

「魔物と勘違いして後ろからファイヤーボールとか勘弁して欲しいですからにゃ」

「僕が回復職だと知るとついでに回復して欲しいとか、本当に我が儘ですよね」

「最後の瞬間に滑り込んできて一緒に戦ったから分け前くれとか、図々しくて呆れるよね」


 今までにあった事を思い出して愚痴をこぼす私達に小さく呟くシャローク。

「妬みとかが混ざっているような気が…強くて有名なのも考え物ねえ」

 しみじみと言わないで欲しいなあ。そんな風に思ったけれど今優先するのは、準備をする事だから突っ込みは入れない。

「携帯食とかは適当に用意してね?後ねポーションについてだけれど流石にSランクとなると、私達でも大量には持っていないの。在庫が不足する場合はサーリアと一緒に隠れていてもらって、私達でポイズンピーコックを討伐するから。そこは納得してね?それじゃあ二時間後に町の入口で集合ね」

 必要な事を手短に伝えるとワフソンもシャロークも真剣な表情で頷いた。買い物に行くために町の中心部へ向かおうとする二人。

「ケイ、あの二人に付いて行っても良いかのう?」

「私達は構わないけれど?どうしたの、急に」

 サーリアが二人の買い物に付いて行きたいと言い出すので理由を聞いてみた。

「自分でも分からぬが何となくじゃ。邪魔にならないようにするから、ダメかのう?」

 上目遣いで可愛く言うけれど中身は大年増のトラブルメーカーだ。正直に言えばかなり不安だったりする。

「ちょっと目を離すと碌な事がない生き物だけれど。そこを踏まえてもらった上でどう?」

「いくら何でも酷くないかのう?わらわだって大人しくする事が出来るのじゃ」

 本当かよ?と思いながらチラッとワフソンを見る。微妙に困った顔をしている。

「良いんじゃないかしら。行きましょ、サーリアちゃん」

 シャロークがサーリアと手を繋いで歩き出してしまう後ろを、溜息をつきながら追いかけていくワフソン。

「さあて、邪魔者が皆出掛けてくれたからお茶にしようか。ジョニー、よろしくね。」

「新作スイーツの試食をお願いしますにゃ」

「やったね、楽しみだなあ」

「マロは僕と一緒にポーションとか薬を用意しよう。手伝ってくれるかい?」

「はい!最近出来たばかりの魔力回復ポーションも鞄に入れましょう」

 そんな感じで家に入る私達だった。

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