花子さんは女優になりたい。
私、花子! 女の子! 将来の夢はお嫁さん!
好きな人はぁ……えーとぉ……福地蔵太くん! きゃっ! 言っちゃった! 夢中なの! 大好きなの! もし彼に壁ドンされて頭ポンポンされたら、花子、幸せで心臓止まっちゃうと思うの。でもダメ、生きなきゃ! 女は愛嬌、そして度胸! つまり強心臓ね。
ああ、どうしたら福地くんに会えるのかしら。彼の出ている番組はすべてチェックしているわ。ドラマだって番宣のためのバラエティーだって、全部。
そう、そうよ。福地くんは俳優。だったら私も女優になって共演すればいいのよ。共演をきっかけに交際なんてよくある話だわ。そうと決まったら善は急げよ! 養成所に入ってオーディションね!
オーディション当日。書類選考通過! 会場へ! きっといつも半開きの目だった写真写りに奇跡が起こったのね!
「44番! 花子です!」
「芸名?」
監督さんかしら。怖そう。
「本名です! きゃるん☆」
「……はい、じゃあ課題の演技やって」
「はい!!」
さっき渡されたの。箱を。この箱の中にはドラゴンの子供が入っていて、龍族の末裔である私は、その子が何よりも大事。その子を見つけたときの、守りたいと思ったときの感動を演技しろってことね。ガッテン承知!
「わー、すごーい、かわいい、守りたーい(棒)」
会心の出来! どうかしら?!
「あのさぁ、ナメてる?」
「はい?」
「そんなんでオーディション来られても困るんだよ! あんた全然気持ちこもってないよ! もっと心の底から叫んでみろよ! 猫かぶってんじゃねーよ! 魂が見たいんだよ! 解放しろよ! さらけ出せよ!!」
え? え? なんなの? なんで花子怒られてるの? この監督さんなんか変なスイッチ入ってるし。わかんない。全然わかんない!
「……う……う……シクシク……シクシク……」
「泣いてんじゃねーよ。どうせ嘘泣きだろ? お前にはねーのかよ、大事なもんが。守りたいもんが」
「……ある」
「あ?」
「ぶぐぢぞうだぐん!」
「は? 何言ってんだ?」
私は箱を見つめる。跪きながら。
「私は、あなたを見つけた……この永い旅路の果てに。今度は手離したりしない。私があなたを守る。私はあなたと出会うために生まれたのだから」
私は涙を流しながら箱に語りかける。場が異様な感動の空気に包まれるのを肌で感じながら。
「そうだよ、それだよ。やればできんじゃねーか」
「はい……」
「これからもがんばれよ」
「はい!」
結果。落選。
「なんやねん」
でも、そこそこ達成感はある。猫かぶってた私が、ぶりっ子の私が、演じることで感情を解放できた。さらけ出せた。
すっぴんと素の自分は見せられたもんじゃないけど、がんばっている本当の私なら彼に見せられるものではあるのかもしれない。
もう少しがんばりましょう。