一話目
完全なる見切り発車&初投稿でございます。
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貞淑:女性の操がかたく、しとやかなこと。また、そのさま。
◆◇◆
ヴァイオレットは貞淑な淫魔である。
淫魔に『貞淑』などといった形容詞を使うのはちゃんちゃら可笑しなことではあるがしかし、彼女に限っては、『そういうこと』なのだ。
彼女の容姿は種族の例に漏れず、見目麗しい美少女だ。
滑らかですらりした肢体と発育の良さはそれだけで男の目を引き、長くうねる黒髪と、気だるげだがどこか妖艶に輝く紫色の瞳は同胞はもちろん、ほかの種族の心をも奪うほどの魅力があった。
この可笑しな淫魔は見た目年齢で言えば17~18の、人間で言うところの花も恥らう乙女である。
『見た目で判断、命取り』というのは魔界ではもはや常套句となって久しいのだが、それでもこの淫魔は独り立ち間もない若輩者で――そう、一人で狩りもしたことがないほどに。
通常、淫魔ともなれば独り立ちすると同時、喜び勇んで人間界へ獲物を探しに出かけるほどには欲求が強い。
それなのにヴァイオレットは、仲間たちが次々と人間界へ翼を広げていく中、こうのたまった。
「私、最初の狩りは好きな人とシたいんです!!!」
当然周りは驚き、反対した。
「淫魔が、好きな人と……だと!?」とそれはもう大変な騒ぎになった。
彼らは種族柄、性については物凄く奔放だ。それが彼らにとっての食事だからである。
人間に「お前は今までに食ったパンの数を覚えているか?」と問えば「覚えているわけがない」と返ってくるように、当然彼らも最初の狩りの記憶など遠い昔にどこかへ置き忘れてきているし、全く意味を成さないものなのだ。
心配になって食事はどうするのだと問えば、「キスで済まします!!」との威勢のいい答えが返ってきた。
もちろんキスだけでも精気を吸うことは出来る。
夢魔などはキスが食事の常套手段なのだから、間違ったことではない。
ただ、そういう行為を致す種族としては非効率極まりなく、ありえない意見だったのである。
彼女の親友兼ストーカーもどきの夢魔などは、「誰よ私のヴァイオレットに変なこと教えたのは!?」と憤慨していたし、監禁でもしてしまおうかと物騒なことを考えていたりしていた。
そういった様々な要因もあっての反対だったのだが、彼女は頑として譲らなかった。
反対されるのはわかりきっていたらしく、数日間はおとなしく魔界のアパートの自室に篭っていた。
が、何を考えてか、ある日突然彼女はすっくと立ち上がった。
それにつられて遊びに来ていた夢魔が顔を上げれば、そこには今までに見たこともない、凛々しい親友の顔があった。
あっけにとられてそのまま彼女を見つめていれば、妙に瞳をきらきらと輝かせながらばさりと黒い翼を翻し、窓からそのまま空へと舞い上がっていったのである。
『人間界で好きな人探し、してきます』
と、彼女が去った後、ひらりと落ちてきた書き置きを一つ残して。
淫魔の食事は基本的に人間の精気(生命エネルギー的な何か)です。
動植物からでも多少は摂取できるけど一番効率がいいのは人間。
主人公はおそらく勢い余った同胞から何度か襲われかけたりしてると思われます。