エピローグ
エピローグ
魔女エルザの襲撃から3日たった。
町の様子は完全に元の状態に戻っている。
その夜、夕食をとった後、フィオーリアは、日課の自室や礼拝所での瞑想をせずに、珍しく庭にでてきた。
そして、オイラにまたがる。
「……ベート!」
飛翔の呪文を唱え、地を蹴り、星空の中へ飛び上がった。
こんな時間にどこへ行こうというのだろう?
フィオーリアは神殿の中庭から飛び立つと、西へ針路をとる。
右手にフィオーレ河がゆったりと流れていくのを見ながら、真っ黒な畑や森をいくつも飛び越え、いくつかの明るい町を見下ろして横切る。
ついに黒々とした何もない場所に出た。海だ。
ザザザ――
波の音が上空にいるオイラの元にまで小さく聞こえてきたが、すぐにまた聞こえなくなった。沖にでたのだ。
まだ、フィオーリアは飛び続ける。
空に星が輝いていなければ、完全に真っ黒な世界。潮の香りを含んだ風が、オイラの毛をそよがせる。
やがて、遠くから、また波の砕ける音が小さく聞こえてきた。
ザザザ――
近くに岸があるのだろうか? でも、なにも見えないが?
不意に、フィオーリアがライティングの魔法を放った。
魔法の灯りがともり、あたりを照らす。
あった!
しばらく行った先に、小さな島が見えた。
どうやら、フィオーリアの目的地はその島のようで、ゆっくりと降下を始めた。
島の上空に着くと、フィオーリアはどこからか呪符を取り出した。見たことがあるやつ。
あの魔女が襲ってきたときに、魔法生物を生み出すために使ったヤツだ!
あの時は、ひっこ抜いただけで、結局、破かなかった。でも、しかし、一体、それで何をするのだろうか?
さらに高度が下がる。
と、急に、オイラの下に、なにか強い抵抗が感じられる。
何も見えないのに、たしかにそこには、オイラの進出をそれ以上阻害するような壁がある。
一瞬、不思議に思い、すぐに気がついた。
そうか! 結界だ!
ってことは、ここはどこかの魔女の島か?
不用意によそ者が近づいたりしないように、結界を張り巡らせて、接近を拒んでいるに違いない!
と、フィオーリアが、手に持った呪符をオイラの下に貼り付ける。
って、そんなことしたら、オイラの体から、魔法生物が!?
なんて…… オイラの心配した通りにはならなかった。ただ、不思議なことに、今度は、オイラたち、何の抵抗も受けずに、島に降り立つことができた。
「ふふふ、やっぱりね。アイツの張った結界だから、アイツの魔力がこもった呪符を見分けて、通り抜けられると思ってたわ」
フィオーリアはそうつぶやいていた。
なるほど、そういうものなのか……
って、それって、ここはあの魔女の住処ってことなんじゃ!?
よりにもよって、あんな魔女の住処に侵入するなんて……
バレたら、今度こそ、消される! 殺される!
ひょ、ひょえぇぇぇぇ~~~~!!!!
オイラの心配をよそに、フィオーリアは楽しそうに辺りを見回している。
って、さっき島を確認するために灯したライティングの灯りついたままじゃないか!
消せ! 消してくれ! フィオーリアさん、お願い灯りを消して!
でも、フィオーリアは消さない。それどころか、『フフフーン、フーフー、フフフフ』なんて、ナゾの鼻歌を歌いだす始末。
――カァアアーー!!
近くでカラスの鳴き声が。
遅かった。見つかってしまった。すでに、見つかってしまっていた。
終わった…… オイラたち、死んでしまう。あははは。はぁ~。
ところが、フィオーリアはカラスの鳴き声を聞いても逃げ出そうとはせず、それどころか、わざわざ好き好んで、そのカラスの鳴いたと思しき方へ歩いていくし。
カラスがいるんなら、そこにはあの魔女がいるってことだろ!
自分から死ににいかなくても! 逃げよう、フィオーリア! まだ、若いんだから、死ぬのは早いよ! ねっ? 命は大切にしなくちゃ、ねっ?
もちろん、オイラの言うことなんか聞いちゃいなかった。
フィオーリアの姿を完全に隠すぐらい生い茂った藪を書き分け、オイラたちは進んでいく。
――カァアアーー!!
さっきから、カラスが盛んに鳴いているのだが、だれもオイラたちを攻撃してこない。不思議だ。
と、突然、藪が途切れ、オイラたちの前に小屋が現れた。よく見てみると、屋根にカラスが止まっている。さっきから、鳴いていたのはこいつだろう。
でも、なんか様子がヘンだ。戸惑っているというか、途方に暮れているというか…… 元気がない様子だった。
フィオーリアはそんなカラスに興味も示さず、そのまま大またに小屋へ近づいていく。入り口らしきところを見つけ、勝手にズカズカと入り込んでいく。
ご主人の小屋によく似た小さな小屋。たぶん、魔女の小屋。
フィオーリアは特に気にした様子もなく、足音を殺すこともせずに、中を歩き回り、物色し始めた。まるでこそ泥。空き巣。
殺される! こんなところを見つかれば、即、問答無用だ!
ああ、神様! 短い命でしたが、それなりに楽しい一生でした。でも、もっといろんなことをしてみたかったなぁ~ こんなバカな子供の子守りなんかじゃなくて、もっと自由にのびのびと……
オイラが絶望した気分でいるにも関わらず、フィオーリアは入り口から入ってすぐの部屋をいろいろ見てまわっていた。
部屋の中は、意外に広いが、所狭しと、なんに使うのかすら見当もつかないような様々なモノが転がっている。
フィオーリアはそれらを一つ一つ手に取り、検分し、いくつかを神殿から持ってきていたズタ袋の中に放り込んでいく。
一通り、見て回ると、奥の部屋へ。
奥の部屋もさっきの部屋と似た様子。ただ違うのは……
部屋の中央、床の上に汚れた服の塊がある。
フィオーリアはその服の塊の中を覗き込むと、
「ふふふ、ずい分とナイスバディになっちゃったわね」
服に埋もれて、そいつが不満げに頬を膨らませていた。顔とのバランスがヘンなでっかい眼をして、オイラたちを見上げている。
フィオーリアは、そいつに構いもせずに、その部屋の中を見て回り、さっきの部屋と同じようにいくつかの品物をズタ袋の中へ。
それが終わると、また、服の塊のところへ戻ってきた。
「さて、めぼしいものは手に入ったし、そろそろ帰るわね。それじゃね、バイバイ」
酷薄な笑顔を見せて、手を振り、さっさとそいつから離れようとした。でも、そんなフィオーリアの袖をムギュッとつかむ手が……
「オギャー! オギャアアーー!!」
「ちょっと手を放しなさいよ!」
さらに、大きな声で泣き出す。
「オギャーー!! オギャアアアアーーーー!!!!」
「ったく!」
フィオーリアは乱暴にそいつの体を掴むと、ポイッと投げ捨てるのだった。
開いたズタ袋の口の中へ向けて……
外に出ると、小屋の屋根を振り仰ぐ。
「お前、あたしたちについておいで。ここにいても、アンタのご主人はもどってこないわよ!」
そう言いながら、オイラにまたがる。
って、え? どういうこと? あのカラスの主人ってことは、あの魔女だよね? あの魔女がもう戻ってこないって?
どこへ行ったというのだ? それに、どうして、フィオーリアはあの魔女がもうここにはいないと知っていたのだ?
と、ともかく、フィオーリアの言ったことが本当なら、オイラたち、ここにいても、あの魔女から攻撃されないってことだよね?
た、たすかったぁ~!
オイラ、とても安堵した。命拾いした。
その間に、フィオーリアが唱える飛翔の呪文、完成した。
フィオーリアを乗せたオイラの体が魔女の島から浮かび上がる。そのオイラたちの後ろをあのカラスが影のようについてきた。
「ふふふ、さあ、帰るわよ」
オイラの上から潮の匂いにまぎれて楽しげな声が降ってきた。
見上げると、普段の邪悪で陰湿な黒髪の少女には見慣れない、爽やかな笑顔を浮かべていた。
「あたしたちのいるべき場所へ! あたしたちの世界へ!」
前作の最後に年内に続編をしあげるとかなんとか、書いていたけど、結局、アップはこの時期になってしまった・・・・・・
一応、初稿はクリスマスごろにはできていたんだけどね。推敲やらなにやらで。
ともあれ、つぎの話があるとすれば、今度こそ年内に仕上げてアップしたいですね。(そこっ! 無理だろっとか言わない!)
もしよければ、感想とか、ここをこうすればいいんじゃないみたいな提案、批評なんかいただけるとうれしいですね。そして、やる気が出て、作品の完成が早くなるかも。