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ぷっくりマンシール

作者: へますぽん
掲載日:2026/03/09

 スーパーの野菜売り場を、恵麻は流れるように進む。

 止まらない。迷わない。


 白菜は外葉の張り、キャベツは底の重さ、トマトはヘタの色。

 そして――大根。


 一瞥。


「これ」


 白く、肌理が細かく、ヒゲ根が少ない。葉の元は瑞々しく、胴は素直に太い。

 理想個体。

 恵麻はカゴに入れる。迷いはない。


 彼女は信じていた。

 この選定眼は家庭を救う、と。


 特売の豚バラ。

 脂の入り方を確認。

 ヨーグルトは賞味期限と値引率を一瞬で計算。


 買い物は戦場。

 だが恵麻には勝算がある。


 ――そのはずだった。


「うぇぇぇぇぇぇん!」


 足元から悲鳴。


 息子だ。


「どうしたの?ほら見て、ヨーグルト安かったよ?」


「いらないぃぃぃ!」


「じゃあ、こんにゃくが欲しいの?」


「ちがうぅぅ!」


 床に座り込む。

 周囲の視線が刺さる。


 恵麻は冷静に分析する。


(原因は菓子売り場だな)


 先ほど息子は確かに言った。


「ポンポンまるだしーる!」


 だから恵麻はカゴにいれたのだ。

 間違いなく。


 カゴから取り出す。


 それは――


ぷっくりマンシール


 スーパーデフォルメされた力士の立体シール。

 指で押すと、むにっと沈む。もちもち。

 弾力がある。


「ほら!ポンポン!」


「ちがうぅぅぅぅ!」


「え?」


 恵麻はパッケージを確認する。


平成人気力士シリーズ No.07


 むちむちの腹を誇る力士が、満面の笑みでポーズを取っている。


 解説が書いてある。


豆知識:

この力士は現役時代、土俵際で驚異的な粘りを見せ「人間俵」と呼ばれた。

好物はプリン。巡業では一日六個食べた記録あり。


 むに。


 恵麻は押してみる。


(たしかにもちもち触感は良い)


「違うのぉぉ!」


「えっ」


 息子は叫ぶ。


「ポンポンまるだしーる!!」


「だからポンポンだってば」


 恵麻は次のシールを見る。


昭和伝説力士シリーズ No.03


 胸板と腹が一体化した圧倒的フォルム。


トリビア:

稽古後に牛乳を一升飲み干すことで有名。

引退後、健康診断で医師が沈黙した。


 むに。


(完成度が高い)


「ぎゃああああ!」


 息子はさらに泣く。


 恵麻の脳が高速回転する。


(なぜだ)


(ぷっくり)

(ポンポン)

(腹)


 条件は一致している。


 その時、近くの主婦が小声で言った。


「それ……違うやつですよ」


「え?」


「ポンポンシールはこっち」


 指先が示す棚。


 そこは――


 空。


 ただし貼り紙。


本日入荷分完売


 そしてスマホを構える主婦たち。


 誰かが呟く。


「入荷情報、グループチャット上げた?」


「もう来てる来てる」


「急いで!」


 数名が走る。


 恵麻は理解した。


(これが……)


(ポンポンシール戦争)


 キッズ垂涎。

 主婦が監視。

 入荷即消滅。


 恵麻はカゴの中を見る。


 大根。

 完璧な豚バラ。

 値引きヨーグルト。


 そして――


 ぷっくりマン。


 むに。


 恵麻は静かに思った。


(選定眼が通じない世界もあるのか)


 息子は泣く。


 ぷっくりマンは微笑む。


トリビア:

昭和の名横綱は、稽古でタイヤを引きながら坂を登った。


 恵麻はつぶやいた。


「……この人、すごいんだけどなあ」

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