とんでもにゃい聖女様
日に日に増えてくる魔物に、人々は頭を抱えていた。
近年では、商人の往来が減ってきている。
何とか自国で生産ができている我が国はマシだが、自給率の低い国は大打撃を受けている。
魔物の増加と狂化のせいで、支援物資を送るのにも命懸けだ。
前回の聖女様が亡くなってから30年。
次の聖女様の知らせが、今までこんなに期間が空いたことがなかった。
いくら待っても、神の啓示が降りてこない。
聖玉が光らないのだ。
世界はこんなにも聖女様を求めているのに、何故降臨なされないのか。
もしや人間の行いが、神の怒りを買ったのではとの噂が流れる始末。
教皇が光らない聖玉を見て、深くため息をついた。
踵を返そうとしたその時、眩い光が奥の間を照らした。
ついに、聖女様が降臨なられたのだ。
探さなければ。
聖女様を悪意が襲う前に、探して保護しなければ。
希望があれば、家族も大聖堂で保護するのもやぶさかではない。
教皇が興奮気味に扉を開け放ち、大聖堂中に響きそうな声で命じた。
「皆のもの!聖女様が降臨された!国中の赤子から、聖女様を探し出すのだーー!!!」
わぁぁぁぁぁーーー!!!
まずは王都から、そして地方へ捜索の手を広げる。
大聖堂が一時人手不足になる程、聖女探しのために人手を割いた。
それから一年が過ぎた。
今だに聖女様は見つかっていない。
手掛かりすら、発見できない状況だ。
教皇をはじめ、聖職者や聖騎士たち、が自分の不甲斐なさに項垂れている。
もしや赤子を隠しているのか?
それとも、村とも言えない辺鄙なところで生まれたのか?
頭を抱えながら、様々な考えを巡らせる。
だがいくら考えても、探しに行っても、全て空振り。
聖女様降臨が誤報だったのではと、疑うものさえ出てくる始末。
けれど、それはない。
確実に聖女様は、降臨されている。
何故なら、魔物の発生がやや落ち込んでいるからだ。
魔物の強さも、以前より弱くなったと言う手応えがあった。
だから、確実に聖女様はいるはずなのだ。
本当に、どこにいらっしゃるのですか?聖女様……
誰もがそう、願っている。
教皇をはじめ、聖職者たちの空気が沈んでいるので、大聖堂内の空気も重苦しいものとなっている。
そのうちキノコでも生えそうな勢いだった。
――――――
一匹の黒猫が、路地裏を我が物顔で優雅に歩く。
それも当然だ。
この黒猫は、王都の全猫のボスだからだ。
まだ若いので下剋上を狙う連中もいるが、どれほど不意打ちだろうが、一度も負けたことがない。
それどころか、怪我をしたことすらないほど強いのだ。
強い猫はモテる。
もちろん、この黒猫も例外ではない。
王都中のメス猫が夢中になっているのだが、残念なことに、この黒猫もメスなのだ。
メスからはモテるが、オスからはモテない。
ちょっぴり悲しい黒猫なのであった。
オスからはモテないが、舎弟を希望するオスは後を経たない。
舎弟ランキング戦を開催するほど、慕われている。
でも欲しいのは交尾相手であって、舎弟ではないのだが。
今日の黒猫の目的地は、路地裏のアジトではない。
表にある、人々が行き交う広場の噴水前だ。
黒猫は人間たちにも人気がある。
人間にもモテモテなのだ。
だが欲しいのは……以下略。
噴水の縁に座って待っていれば、黒猫に気がついた人間から近づいてきてくれる。
だが、一つ間違ってはいけないことがある。
黒猫は人間に媚を売っているのではない。
仕事をして、その対価として食べ物を貰っているのだ。
要はギブアンドテイクなのだ。
人間も嬉しい、黒猫も嬉しいwin-winの関係ができている。
さて、人間たちが集まってきた。
噴水の縁に座る黒猫の前に、いつの間にか行列ができていた。
さぁて、仕事の時間だニャ。
尻尾を一振り。
あら不思議。
右手にあった火傷が消えていく。
「あぁ、ありがとうございます!おネコ様!」
「ウニャ(くるしゅうない)」
肉球を額にポン。
あら不思議。
風邪で高熱だった子どもの体温が、元の体温に戻っていく。
「ネコ様ありがとう!」
「ニャア(当然だ)」
そうして長い列が途切れるまで、尻尾フリフリと肉球ポンポンは続いた。
「えぇぇぇぇぇ……マジか……」
黒猫の高性能な耳に、人間の男の声が聞こえた。
――――――
聖女捜索隊の1人であるリアムは、今回の遠征も空振りになったことに、落ち込んでいた。
皆んなが期待して送り出してくれているのに、毎回落胆させる報告しかできていない。
不甲斐ないばかりで、申し訳なくなる。
落ち込んだ気分を変えようと、王都の中を散歩していると、妙にソワソワして何処かに向かっている住人を見かけた。
他にも、怪我で動けない者や、病気で動かしてはいけないだろう者を背負った住民たちが、揃って何処かに向かっている。
ついつい気になって、リアムは後を追ってみた。
ついたのは、中央広場だった。
広場に来た者たちは、噴水前にずらりと並んでいる。
異様な光景だった。
その光景を観察していると、怪我をした者の怪我が治って元気に帰る姿や、病気だった者が元気にはしゃいだ姿で帰っていくのが見えた。
異様どころではない。
もしや、聖女様では?
そう思ったリアムは、最後まで見守ることにした。
最後の1人が帰り、ようやく長い列がなくなった時、そこにいたのは一匹の黒猫。
見たものが信じられない。
でも、これは現実だ。
いやいや、でも……
「えぇぇぇぇぇ……マジか……」
思わず言葉が漏れる。
顔を引き攣らせて黒猫を見ると、目があった。
見られてる。
すごい見られてる。
「ニャーーン!」
黒猫が大きく一声鳴くと、路地の隙間や屋根、至る所から猫たちが集合した。
そして戦利品であろう魚や肉、パンなどを分け合って食べていた。
何あれ、優しい……
ちょっとほっこりする光景を、思わず微笑みながら見守ってしまった。
パンくずすら残さず綺麗に食べ切った猫たちは、それぞれ広場を後にした。
残ったのは、例の黒猫だけ。
その黒猫が、優雅に歩いてこちらにやってきた。
リアムの手前でお座りすると……
『にゃにか、ようかにゃ?』
「うおっ!?しゃ、喋ったぁ!?」
『念話だにゃ。そんにゃことも、知らにゃーのか?』
「あ、失礼しました。」
『で、にゃんにゃ?』
可愛い……じゃない!
「えーっと、つかぬことをお聞きしますが、おネコ様の年齢は?」
『レディに、年齢を聞くものじゃにゃーのだが。にゃーは一歳にゃ。』
「やっぱりー!?見つけたー!?たぶん!」
『うるさいにゃ。』
「すみません。あの、ぜひ一緒に来ていただきたいところが……」
『どこにゃ?』
「大聖堂です。」
『あの金ピカにゃーね。いいにゃよ。特別に抱っこさせてやるにゃ。光栄に思うにゃよ。』
「はい。では、失礼します。」
『にゃかにゃか、うまいにゃね。』
「ありがとうございます!」
そうしてリアムは、推定聖女な黒猫を抱っこして、大聖堂に戻ったのだった。
短めの連載にするつもり




