ミルヴァとユールグの“妙に噛み合う学術議論”
学院裏庭の奥、古井戸の近く。
かつて地脈の湧点だったらしく、今も魔力の残滓が風の揺れで薄く光る、“世界の内側”が透けて見えるような場所だ。
レティシアはミルヴァを案内し、そこへユールグも半ば強引に同行してきた。
最初に口を開いたのはミルヴァだった。
彼女は井戸の縁に手を当て、目を細める。
「ほら、ここ。地脈がねじれてるのよ。
レティシアの感情が触れると特に強く――」
「――位相ずれが加速するのか」
ユールグが一拍の迷いもなく言葉を重ねる。
「興味深いな。
感情波形と精霊温度が干渉して……いや、これは前例がない」
その流れるような理解速度に、ミルヴァはぱっと顔を輝かせた。
「分かる!? そうなの! “感情が先で世界が後”じゃなくて、
同時に揺れる感じなのよ! このざわざわっていう――」
「“ざわざわ”はこの波形だな」
ユールグは観測板を傾け、ミルヴァに波形を見せる。
淡く光る折れ線が、まるで心拍のように震えていた。
「確かに形容としては妥当だ。
専門用語に置き換えると――」
「置き換えなくていいわ。そのまま“ざわざわ”で通じるから!」
二人はいつの間にか熱心な学術談義へと入り込み、
言語の壁すら存在しないかのように会話が流れていく。
レティシアは二人の間で、そっと瞬きをした。
(この二人……なぜか息が合ってる……?)
ミルヴァは理屈七割・感覚三割で世界を説明し、
ユールグは理屈百%でそれを定量化する。
なのに――なぜか会話が成立してしまう。
「ここ、脈動のタイミングがずれているだろう」
「そうそう! だから“変な感じ”がするって言ったじゃない!」
「“変な感じ”とはこのベクトルのことか……なるほど、合理的だ」
「でしょ!? 分かってくれる人、初めて!」
脇で聞いているレティシアは、完全に置いてけぼりだった。
(な、なんでミルヴァとユールグさんが、こんなに楽しそうなの……?
私、当事者のはずなのに……)
井戸の縁でふたりが世界の歪みについて盛り上がるたび、
レティシアは“自分の知らないところで世界が分析されていく”不安を抱いていく。
この小さな違和感――
そして二人の妙に良すぎる相性は、後に彼女の心を複雑に揺らす伏線となる。




