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伝説のレフリー津久田健次郎、悪役令嬢に転生す。  作者: 南蛇井


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北方連邦・中央評議会の異常値検出

北方連邦――その中心都市にそびえる精霊観測局は、

季節風の音さえ吸い込むような静謐を宿していた。


その巨大な水晶塔の内部で、警告音が低く鳴った。


観測官の青年は、半透明の板に映る波形を二度、三度と確認し、

眉をひそめた。自然変動なら緩やかに揺らぐはずの精霊流が、

一点だけ針のように跳ね上がっている。


観測官

「……数値が不自然です。季節でも地脈の流れでも説明がつきません。

 この急上昇は、まるで――」


扉が重く開き、議員のひとりが姿を見せる。


議員

「“誰かが”精霊流に干渉した、ということか?」


観測官

「断定はできませんが、自然現象ではあり得ません。

 乱れの中心は……王国学院の周辺と出ています」


議員たちは顔を見合わせた。

北方連邦は政治色より“学術的な危機”を優先する国だ。

精霊流の異常は、場合によっては大陸規模の災禍に転じる。


議員

「学院で何かが起きたか……?」


観測官

「詳細は不明ですが、このまま放置すれば、

 連邦境内にまで波紋が広がる可能性があります」


その時、議事室の最奥――

柔らかな雪明かりのような白髪を持つ評議会議長が口を開いた。


議長

「ユールグ・ヴァン・フロストを派遣しなさい」


空気がわずかに震えた。

彼の名を出す時、いつも人々は息を潜める。


観測官

「……彼を、ですか?」


議長

「精霊観測者として最も精度の高い“眼”を持つ男だ。

 必要なのは、政治ではなく事実だ。

 王国学院の周囲で何が起きているのか――正確に知る必要がある」


観測官は無言で頷いた。

議員たちは即座に各部署へ命令を飛ばし始める。


議長は、遠い王国方面の地図に視線を落とす。


議長

「……さあ、“静かな使者”を送ろう。

 あの男なら、誤差ひとつ見逃さぬはずだ」


その言葉とともに、北方連邦の空気が

じわりと緊張を帯び始めた。


そして――

世界の流れを読むために、ひとりの観測者が静かに動き出す。


次の続き(ユールグ登場シーン、小説化)も作成できます。


北方連邦・精霊観測局本部。

山脈に穿たれた要塞都市の、そのさらに奥――天井まで届く巨大な水晶塔が、鈍い光を脈打たせていた。


塔に触れている魔導計の針が、ゆっくりと、しかし確実に振れ幅を広げていく。


観測官の男は、資料台から顔を上げた。


「……数値が不自然です」


隣の補佐官が目を瞬かせる。


「季節変動の誤差では?」


観測官は首を振り、淡々と水晶塔の光と針の動きを追った。


「いいえ。自然現象なら、もっと段階的に波形が乱れます。

 これは……一点を中心に、上下が跳ねている」


彼は別の水晶盤に手をかざし、地図上に映し出される光点を拡大する。

大陸の線が浮かび、その一角――王国方面に、小さな光が点滅していた。


補佐官

「局地的……?」


観測官

「はい。地脈が震えているわけではない。

 “上から”叩かれたような乱れ方をしています」


彼は言葉を選びつつ、口にした。


「まるで――」


「“誰かが”精霊流に干渉した?」


背後から重い声が落ちる。


振り返れば、そこには暗色の外套を纏った数人の影。

中央評議会の議員たちが、観測室へと降りてきていた。


観測官は慌てて姿勢を正す。


「……可能性は、否定できません。

 現時点の解析では、乱れの中心は――こちらです」


別の水晶板に触れると、王国領の地図が拡大される。

街道、城塞、川の流れ。その中で、ひときわ強く光る小さな点。


観測官

「王国首都近郊。魔法学院……と思われる地点です」


議員たちは顔を見合わせた。


「王国学院か。魔法師が集まる場所だ」


「儀式か、実験の暴走か、それとも……」


観測室の奥から、杖の音を響かせて歩み寄る老人がいた。

連邦の中央評議会議長にして、精霊理論の第一人者でもある男――その瞳は、年齢を感じさせない鋭さで水晶塔を見上げている。


議長

「規模は?」


観測官

「現時点では限定的です。

 ただ、原因が不明のまま拡大すれば……地脈の流れが連鎖的に乱れる危険があります。

 最悪、大陸全土の気候に影響が出る可能性も」


室内の空気が、わずかに重くなる。


連邦は他国よりも、精霊と自然現象の関係を重んじる国だ。

政治的利得より先に、“世界そのものへの影響”を恐れる。


議員の一人が、低く問う。


「王国に正式な照会を行うべきか?」


別の議員が首を振る。


「原因が分からぬうちに騒げば、

 “王国の研究に対する干渉”と受け取られよう。外交問題になる」


議長はしばし黙し、水晶塔の脈動をじっと眺めていた。


脈打つ光が、一瞬だけ強くなり、また落ち着く。

まるで、何かがこちらへ手を伸ばし、すぐに引っ込めたような波形。


議長

「……直接、見る必要があるな」


彼はゆっくりと振り返り、評議会の面々を見渡した。


「ユールグ・ヴァン・フロストに通達を。

 王国学院方面の精霊流異常を観測させろ」


名前が出た瞬間、数人がわずかに眉を上げる。


「“北の氷眼”を、ですか」


「あの男を動かすということは――」


議長

「観測者として、最も精度の高い眼を持つ。

 政治交渉には不向きだが、今必要なのは言葉より“事実”だ」


短くそう告げると、議長は決定を下すように杖で床を一度叩いた。


「記録をすべてユールグに送れ。

 精霊流の波形、時間ごとの変化、王国学院周辺の地脈図もだ。

 ――“静かな使者”として、彼を王国へ」


観測官の喉が、ごくりと鳴る。


(静かな使者――)


その言葉は、連邦において特別な意味を持つ。

剣も旗も持たない。ただ世界の歪みを測りに行く者。

だが、ときに戦争より重い報告をもたらす、冷たい天秤。


観測官

「……了解しました。すぐに準備を」


水晶塔は相変わらず、静かに脈動している。

だが、その光はどこか落ち着きなく瞬き――遠く離れた王国学院の方角を、確かに指し示していた。


こうして、誰にも知られぬまま。

王国へ向かう一人の観測者の旅路が、静かに始まる。

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