各国本国へ緊急通信が送られる
王都の夜空には、古代魔導式の通信塔が複数そびえ立つ。
塔の頂に刻まれた魔法陣が淡く輝き、
外交官たちの焦りを映すように脈動を早めていた。
その光が示すのは――
“緊急通信・優先度Ⅱ”
本国の軍事報告に匹敵する規模の報告だ。
各国の使節は、ほぼ同時に文書を魔導端末へ押し込むように送信した。
淡い蒼光が走り、魔力の回線を通って情報が瞬く間に世界へ散る。
◆北方連邦・中央情報局
重厚な石造りの局舎。
極寒の空気に包まれた中で、受信室の魔導板が突然眩く光った。
オペレーター
「……王国大使館から緊急報告です!
キーワード多数――“因果の逸脱”“王太子暴走制止”“少女レティシア”……!」
上層部の席に座る局長が書面を受け取り、一読して目を細める。
局長
「……無名の少女?
王国学院で“因果逸脱”の現象中心に?」
部下
「宗教勢力も学院に投入された模様です」
局長は長い沈黙のあと、言った。
「……つまり、王国は不安定化している可能性が高い。
これは、国境政策にも影響する」
紙束の最後に刻まれたレティシアの名を、指で軽く叩く。
「この少女は誰だ?
なぜ彼女が“逸脱”の中心にいる?」
「……重要因子として再分類しますか?」
局長
「当然だ」
その声は低く、しかし部屋全体に響き渡った。
◆南方帝国・外務省・情報解析室
帝都の中央塔。
煌びやかな魔導通信室の床に黒い線が走り、
その上に魔導光の文字が次々と浮かび上がる。
解析官
「王国学院で“裁きの書き換え”が起きた……?
本気か……これは予兆では?」
皇帝直属の特務顧問が報告を奪い取るように読む。
顧問
「……レティシア。名前に覚えはないな」
「家柄は下級貴族。政治的影響力は皆無。
にもかかわらず、この事件の中心に?」
顧問の目が鋭くなる。
「――ならば、逆に危険だ。
『無名なのに事象を動かす者』ほど予測しづらい存在はない」
最後のページに書かれた一行に視線が止まる。
“学院に宗教勢力が踏み込んだ可能性あり”
顧問
「……王国は均衡を崩し始めた。
今のうちに手を打つ必要がある」
解析官
「レティシアの分類は?」
顧問
「“重要因子”。
以後、彼女に関する報告はすべて私の机に直接送れ」
◆王国を取り巻く諸国の結論
通信塔の光は消え、夜に沈む。
だが、各国の情報局はすでに決断していた。
――王国学院の少女レティシア。
この名を持つ者は、もはや無名ではない。
・因果の逸脱
・王太子の暴走制止
・宗教勢力の介入
それらが複雑に絡み合い、
彼女は見知らぬ国々の机の上で“重要因子”として印字された。
本人がまだ寮の部屋で夕食を考えている頃――
世界は、ひっそりとレティシアを中心に動き始めていた。




