調査官の目的が明確に――“レティシア観測”
講義の終盤。
ゼフィル教授が締めの図式を書き終え、
チョークを置いた――まさにその瞬間だった。
硬質な椅子のきしむ音。
静かに、しかし異様に目立つ動作で、
あの調査官が立ち上がった。
灰色の外套がゆっくりと波打ち、
金属の祈祷章が“コツ”と乾いた音を立てる。
調査官
「……本日の観察対象は、得られました。」
教室の空気が一度すっと引いたあと、
爆発するようにざわめいた。
調査官は視線をわずかに動かし――
ピタリ、とレティシアを射抜く。
調査官
「特に――レティシア様。」
――心臓が、落ちた。
レティシア(健次郎)
(……やばい、やばいやばいやばい……!!
こいつら、俺を“本命”として見てる……!)
動揺が波紋のように席へ広がる。
**
ゼフィル
「おい!」
声は低い怒気を含み、
教室の温度がさらに下がった。
だが調査官は微動だにせず、
聖務院特有のあの淡々とした響きの声で続けた。
調査官
「後日、改めて聖務院として正式な照会を出します。」
「あなたの存在は――
“事象評価対象”
となり得ますので。」
その言葉は神託のように静かだが、
内容は刃物より鋭かった。
レティシア(健次郎)
(事象……評価……?
俺、事件でも奇跡でもなく、
観察対象に格上げされたってこと!?)
背中に冷たいものが走る。
**
教室のあちこちで、
派閥に属する学生たちが誰かと短く目配せを交わした。
・学院派 → 「……聖務院が本気か?」
・聖務院派 → 「やはり神意だ……!」
・貴族派 → 「これは……利用できるのでは?」
・政治派 → 「最悪だ。報告案件だ……」
視線が渦を巻き、中心はすべてレティシア。
ゼフィルが一歩踏み出す。
だが調査官はそれに背を向け、
祈りのように一礼して退出した。
扉が閉まり――
残された静寂は、もはや講義室のものではなかった。
**“前哨戦の火種”**が、確かに点いた。
レティシア(健次郎)心の声
(……終わった。完全に終わった。
俺、今日から“神意の現象”扱い……?
いや意味わかんない……人間だぞ……?
中身オッサンなんだけど……?)
しかしこの瞬間から、
学院と聖務院の対立は不可避の段階へと滑り込んでいく。
そしてその中心にいるレティシアは――
一歩も動いていないのに、物語を動かす存在として扱われ始めた。




