閑話② 食べ物の恨み
本日の閑話は、エルバたちの話です!
パルトとアナスタシアとの一戦から数日後。
隠れ家の1つであるアジトの部屋で、スラックは本を読んでいた。
題名は[錬金術によるスキルの構築]。
著者はノブリ=ツヴァイべロス。
200年前に生きたドワーフ族で、錬金術の第一人者として知られる人物だ。
この本はスラックのバイブルであり、心得であり、人生訓であり……聖書のような存在である。
そして、これを読むのは決まって、自分に何か課題を感じた時だった。
スラックは本の文字を目でなぞりながら、あの2人の顔を思い出していた。
エルバと同じ、兎人族のクソうさぎ。
そして、金髪のクソ槍女。
2人の顔を思い出すと、怒りが蘇ってくる。
だが、その怒りはどちらかと言えば、今は自分に向けられていた。
自分はまだまだ弱い。
錬金術も鉄鉱術も、まだまだ鍛錬が足りない。
だから、あんな雑魚どもに負けるのだ。
スラックは苛立ちから座っていた椅子を殴りつけた。
しかし、それよりも何よりもスラックを苛立たせることが起きた。
ドタバタと廊下を走って近づいてくる大きな足音を聞いた途端、スラックは近づいてくるのが誰なのかを理解する。
「スラァァァックゥゥゥ!!!!」
その声を聞いたスラックは眉を顰め、本を閉じた。
同時に激しくドアが開かれて、入ってきたのは白髪の兎人族の娘だった。
「スラァァァックゥゥゥ〜!」
「うるっせぇな!エルバ!」
「そんな怒らないでぇ〜!話を聞いてヨォ〜!」
エルバは目に涙を浮かべながらスラックに飛びついて来たが、スラックはそれを素早くかわす。
「ぎゃっ!!!」
エルバはそのまま本棚へ突っ込んで悲鳴を上げた。
「イタタタ……」
鼻をさすりながらこちらを向くエルバ。
「大丈夫か……?」
スラックがそう声をかけると、エルバは再びスラックに駆け寄った。
「チーズケーキが……チーズケーキがぁぁぁ!」
その手には小さな箱を手に持っていて、空になった中身をこちらに見せながら大泣きしているのだ。
スラックは大きなため息をついた。
「チーズケーキがなんだ!意味がわからん!」
「うぅ……チーズケーキがなくなってたんだヨォ……。せっかく、ゼルケイの街のお菓子屋さんで買って帰ってきたのに……。」
そう言って項垂れるエルバを見て、スラックはトゥウランの街から撤退した後のことを思い出した。
エルバがどうしてもと言うので、仕方なく立ち寄ったゼルケイの街。
チーズが有名だか何だが知らないが、その街でエルバはチーズケーキを買っていた。
どうやら、それのことを言っているらしい。
「あれか……しかし、何でなくなったんだ?」
「わからないヨォ〜。食べようと思って箱を開けたら、空っぽだったんだもん……。」
「……てことは、誰かに食われたんだな。」
スラックの言葉に、エルバは再び項垂れた。
「誰だよ……食べたの……」
エルバの声色が変わる。
それは怒りに満ち溢れた重たい声。
「知らねぇよ。」
「本当に……?スラックが食べたんじゃないの……?」
「俺は食べてねぇ!」
食べてないと断言すると、エルバが突然頭を上げてこちらを見る。
その眼は……マジの眼だった。
「本当に……?本当に本当に本当に本当……?」
「本当だ!俺は絶対に食わん!」
「じゃあ……誰が……?」
そんなこと知るかと言ってやりたいところだったが、今のエルバは突き放すと何をするかわからない。
本当にそんな眼をしている。
ここは一度、話を聞いてやった方が良さそうだ。
そう考えたスラックは、ブツブツと恨みの言葉を溢しているエルバに声をかけた。
「……食べそうな奴は当たってみたのか?」
「まだ……誰かわからないし……」
この組織内で、チーズケーキを食べそうな奴。
そんな奴、エルバ以外にいただろうかと頭を捻るが、ふとピンときた。
「……サヌラは……どうした?」
その言葉にエルバの耳がぴくりと動いた。
この組織でエルバ以外の唯一の女性構成員。
そして、エルバのものを勝手気ままに奪える胆力のある人物。
そんな奴、サヌラしかいないんじゃないか?
スラックはそう思ったのだ。
ゆっくり顔を上げるエルバ。
その眼には殺意がはっきりと見える。
「サァァァヌゥゥゥラァァァァァァ!!」
エルバはすぐに立ち上がり、部屋から飛び出していった。
それを見送ったスラックは椅子に腰掛けると、再びバイブルである書物を開く。
サヌラは今、いないはずだ。
別の案件で出払っているはずだから。
それを知った時、エルバはどうするだろうか。
スラックは大きなため息をつくと、開いた本の文字を目でなぞり始めていた。
食べ物の恨みって、本当に怖いですよね。
チーズケーキ、僕も好きなんですけど、エルバからは取らないようにしないとです笑
今回もご愛読いただきまして、ありがとうございました!




