79 最下層
ダンジョンへ入ったパルトたち!
ダンジョン経験者のクレア先生が、今回は丁寧に?教えてくれるようです!
「お!今回はちゃんと整備されてる感じじゃん!」
辺りを見回しながら、クレアは嬉しそうに笑った。
ダンジョンの入口を抜け、そのまま地下に向かう階段を降りた先を今、わたしたちは歩いている。
思っていた以上に中が明るいのは、壁に設置された燭台と蝋燭のおかげ。
それに床は綺麗に舗装されており、まるで人工の施設を歩いていると思えるほど、平らでとても歩きやすかった。
「ダンジョンって……もっと洞窟みたいな感じだと思ってた……。」
わたしがそう溢すと、クレアは楽しそうに笑った。
「ここは大当たりかな!かなり綺麗なダンジョンだよ!前に入ったところなんて、完全に洞窟だったしね!」
「ダンジョンによって造りが違うの?」
「そうだね!真っ暗な洞窟の時もあれば、仕掛けだらけの迷路の時もある。同じダンジョンなんて1つもないんだって!」
自然発生するダンジョンは、その中身も入ってみなければわからないが、どうしても違いが出るのかは未だに解明されていない。
集まった魔力の量や質などが関係していて、そのバランスで決まるという学者もいれば、ダンジョンは生き物であり、ダンジョン自身が姿形を決めているという説を唱える学者もいる。
要するに、ダンジョンとは誰も何もわかっていない未知の領域なのである。
そして、重要なのはここからだ。
ダンジョンとは単なる宝の眠る迷宮ではない。
「早速来たね〜!」
クレアの言葉に前を向くと、視線の先にゴブリンの群れが確認できた。
その数はざっと50匹ほどいて、かなり多い。
奴らはいろんな武器を手に、こちらに向かって突進してきている。
「パルト……行くよ!」
「うん……!」
クレアの掛け声に応え、わたしは素早く跳躍し抜刀すると、襲いくるゴブリンたちを次々と斬り捨てて行く。
一文字斬り、真っ向斬り、そして連続の突き。
「アッハァ〜!まずは肩鳴らしだねぇ!!」
わたしが斬り伏せながら前進する横では、クレアが剣を振るう度、何匹ものゴブリンが吹き飛んでいた。
「とりあえず、第一陣は終わりかな?」
真紅の剣に付着した黒い血を振るいながら、クレアはそう溢したが、その顔はどこか不満げだ。
たぶん、暴れ足りないのだろうと推測できるが、それについてわたしが触れることはない。
だって……不機嫌なクレアは面倒臭いから。
「いきなり襲って来るんだね……。」
こういう時は話題を変えるが吉。
これまでの付き合いでそれを学んだわたしは、ダンジョンのベテランであるクレアに話を振った。
すると、やはりクレアは表情を一変させて笑う。
「野生の魔物はこっちの様子を窺ったりと、けっこう理性的でしょ?でも、ダンジョンの魔物って野生とは少し違っててさ。本能のままに襲ってくる感じなんだよね!」
確かにさっきのゴブリンたちは、こっちの力量なんて関係無しに飛びかかってきた。
しかも、1匹1匹が勝手に動いている感じもした。
わたしが知っている野生のゴブリンは、知恵を使って攻撃してくることが多い。
囮を使ったり、罠を仕掛けたり、数匹で連携して襲ってくる。
その辺の違いは、多少なりともわたしの中に違和感を生む。
『ダンジョンの魔物は、質より量で攻めてきます。そちらの方が十分に厄介ですので、ご注意を。』
ガイドさんには、どうやら本音がバレていたようだ。
違和感の正体は慢心。
連携しないゴブリンなんて、容易く倒せると思っていたのだ。
『ダンジョンにもクリムゾンベアや、それ以上に大型の魔物が存在します。それらが数に物を言わせて襲って来る……それを想像すれば気は抜けません。』
おっしゃる通りです。
そんな魔物たちが大勢で押しかけて来たら、たまったものではない。
わたしはガイドさんの言葉に反省させられた。
程なくして、わたしとクレアはダンジョン1階層を踏破し、2階層へと続く階段へと辿り着いた。
そこで素朴な疑問が生まれる。
「ダンジョンって、地下に向かっているの?」
階段を降りながらクレア先生にそう尋ねると、彼女はうんうんと頷いた。
「いい質問だね。パルトくん。」
顎に手を置いて、少し偉そうな雰囲気を醸し出すクレア。
まるでどこかの教授のようなその振る舞いは、彼女なりの嬉しさの表現だろうか。
鼻息荒くニヤリと笑うクレアの言葉を、わたしは静かに待った。
「基本的にダンジョンは地下へと続いているね!しかし、それは地面の下にできるダンジョンが圧倒的に多いから、そう思われがちなだけ……実際は、ダンジョンによって異なるんだよ。例えば、天空にできたダンジョンは空に向かって進むからねぇ!」
意外にわかりやすい説明。
わたしが別の意味でクレアに驚いていると、ガイドさんが説明を付け加えてくれた。
『補足しますと、ダンジョンのほとんどは異空間に生成されております。階段があるので上ったり下がったりと感じられますが、実際にはそういった定義には当てはまりません。』
ガイドさん、その話はけっこう難しいです……。
異空間ってなに……?
上がる下がるの定義……とは?
頭が雑巾のように絞られる感覚。
でも、絞っても何も出てこないもどかしさ。
やばい……頭がショートしかけている……。
クレアは嬉しそうに説明を続けているが、わたしはそれを右から左へ流していた。
そんなことをしているうちに、わたしたちは階段を下りきっていたらしく、無事に2階層へ。
いまだに頭を捻らせていたわたしは、クレアの声で我に返った。
「パルト!オークが出たよ!」
再び視線を前に移すと、まっすぐと伸びる通路の先に、豚の顔を載せた巨体を震わせてこちらを睨むオークの群れが確認できた。
その数、約30体ほど。
「さっさと終わらせて探索するよぉ!」
「うん……」
頭を切り替えたわたしは、クレアとともにオークたちに斬りかかったのだった。
◆
パルトたちがダンジョンに挑戦し始めた頃、時を同じくしてダンジョンの下層へ挑む冒険者パーティがあった。
彼らはゼルケイの街を拠点としているCランク冒険者のパーティで、現時点で1番最下層を進んでいるパーティでもある。
「リーダー……ここ、雰囲気が違くないか?」
仲間にそう尋ねられ、このパーティのリーダーであるニルスは頷いた。
「確かにな……14階層までとは何かが違う。気を引き締めろよ。」
その言葉に仲間たちも頷いた。
現在15階層。
先ほどまでの整備された通路ではなく、ボロボロになった遺跡のような様相。
空気も少し重苦しく、出て来るモンスターもアンデット系ばかり。
仲間たちが焦る気持ちも理解できた。
だが、ニルスはあまり焦ってはいなかった。
これまでも、ダンジョンには何度か潜ったことがある。
深いところなら20階層……このダンジョンよりも深くまで潜った実績は、彼に自信をもたらしていた。
(それに……大抵こんな風に雰囲気が変わると、レアなお宝があるんだよ。)
ニルス自身は見つけたことはないが、知り合いの冒険者から聞いたことがあった。
ダンジョン内で階層の雰囲気が変わった時は、細かく探索するべし。
仰々しい部屋を見つけたなら幸運だ。
そこには必ず最高のお宝が眠っているのだ、と。
(ここはかなり期待できそうだ。)
ニルスは期待を胸に、しかし、ゆっくりと慎重に足を進めて行った。
探索が進むと、大きな扉の前に出た。
それはかなりの大きさで、見上げられるほど。
サイクロプス専用なのではないかと思えるほどに大きな扉。
だが、なぜかそこだけは蒼々と青い火が灯る2つの燭台があった。
(もしかすると……!)
ニルスは胸を躍らせた。
ここまでの道のりで、満足できる宝にはありつけていない。
だが、目の前の部屋は絶対に期待に応えてくれるはずだ。
ニルスはそう考えていた。
「よし……行くぞ。」
仲間たちの先頭に立ち、ニルスが扉の前まで進むと、大きな扉に取り付けられていた宝玉が順番に赤く光を灯す。
そして、重々しい音とともに、ゆっくりと自分から開いたのだ。
「お……おい、ニルス。なんかヤバくないか……?」
「ん?何ビビってんだよ。この先には絶対にあるぜ!すんげぇお宝がよぉ!」
不安を浮かばせる仲間たちに、ニルスは鼓舞するように笑うと、先陣を切って部屋へと足を踏み入れた。
それに続く仲間たちとともに、ゆっくりと部屋の中を進んでいくと、視線の先に台座に置かれた宝箱を発見する。
金や宝石で装飾されたその宝箱を見て、ニルスは間違いなく"当たり"だと思った。
だが……
突然、後方の扉が勢いよく轟音とともに閉まった。
「な……なんだ……!?」
「リーダー!扉が……!!」
仲間の言葉に視線を後方へ向けると、入って来た扉が閉まっている。
「しまった……!トラップルーム(罠部屋)か……!!」
ニルスはそう判断したが、それは間違っていた。
ここはトラップルームではない。
このダンジョンの本当の最下層であり、最後の部屋。
そして、このダンジョンの頂点に君臨するボスの部屋だった。
暗闇の中、部屋の隅に取り付けられていたであろう無数の燭台に、青い火がぐるりと灯る。
その明かりは、宝箱よりも奥に腰掛けていた巨大な魔物の姿を明確に映し出した。
牛の頭を携えた巨躯。
体には見ただけでも硬質さが感じられる鎧が黒く光り、その右手には巨大な戦斧が握られている。
「やばい……!!退却だ!!」
ニルスには見ただけ理解できた。
目の前の怪物は、自分たちでは倒せないと。
だが、辿り着いた入口のドアは固く閉ざされ、開くことはない。
理解できない状況に混乱するパーティメンバーたち。
だが、無慈悲な咆哮が後方から轟いた。
ダンジョンの最下層で響き渡る断末魔は、誰の耳に届くことはなかった。
最下層で蠢く牛の魔物。
ダンジョンのボスの降臨でした。
ニルス…ごめん!
今回もご愛読いただき、ありがとうございました!




