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76 カネガ邸宅へ行こう

ミケルたちの話を聞き、パルトたちは子爵家へ向かうことに。


カネガとはいったいどんな奴なんでしょうか!

ミケルたちが住むスラム街は、ゼルケイの街の中心から西側にある。


そこから北東側へと歩いていくと、山並みに沿って並ぶ建物がいくつか見えてくる。


その様相は、今わたしたちがいるエリアの建物と比べると豪勢な造りで、それらの1番上ある1番派手な建物こそ、この街を管理する子爵カネガ=サンタクの邸宅であった。



遠くからでもわかる私欲を尽くした装いには、心の底から反吐が出た。


もちろん、ミケルたちから話を聞いているため、先入観もかなり持っているが、おそらくわたしの直感は正しいはずだ。


建物を見る度に苛立ちと舌打ちが止まらなかった。



そんな奴の下へ向かっている理由はもちろん、この街に発生したダンジョンへの挑戦。


その申請を行うために、カネガの邸宅へ向かっているわけだが、そこには敵情視察の意味合いもあった。


ミケルたちの仇……と言うわけではないが、弱き者から搾取する奴がわたしはどうしても許せない。


どうしても、そういう奴にはミッドウェルの影が重なってしまうからだ。


奴は今どこで何をしているのか。


考え出したらキリがないので、あいつの顔はすぐに頭から消した。




「そういえば……ひとつ疑問がある……」



わたしが唐突にそう告げると、クレアが不思議そうにこちらを見た。



「疑問って……?」



問いかけるクレアに、視線を向ける。



「ミケルたちの事情はよくわかった。わかったんだけど……なんでタマルは、あんなところで変な男たちに追われてたのかな。」



クレアもそれは考えていたらしく、「だよね〜。」と頷いている。



ミケルからはいろいろな話を聞いたけど、その話の中にタマルがなぜ追われていたのかについての説明はなかった。


そこからわかることは、1つだけしかない。



『タマルはその件について、姉には言っていないと思われます。』



そういうことになる。


でも、なぜ隠しているんだろうか。


単に、姉を心配させたくないからという理由かもしれないけれど、何かが引っ掛かる。


タマルを追っていた男たちも、初めは奴隷商の末端構成員かなと思っていた。


しかし、クレアが無力化した後に調べたら、ただの盗賊だった。


確かに盗賊も人身売買を行うことはあるが、あんな人里近くで足がつくようなことをするだろうか。



『可能性は、低いと思われます。』



……だよね。


タマルがあんなところにいた理由も、盗賊に追われていた理由も、今はまったくわからない。


でも、また襲われることがあるかもしれないし、タマルのことは少し気にかけてあげた方がいいかもしれない。


そんなことを考えていたら、子爵家の領地に進むための門の前に辿り着いていた。



門兵が立つ仰々しいその門の横に、掲示板が立てられている。


わたしはそれに近づき、内容を確認した。



[この先、サンタク家領地。入領希望者は門兵に5,000フィル支払うこと。]



わたしはそれを見て絶句した。



敷地に入るだけで、1人5,000フィル!?


肉串が50本は買える……!!



言葉にならない喪失感の後に、怒りが込み上げてきた。


隣では、クレアが同じように殺気立っている。


そんなわたしたちの怒りの炎に油を注ぐように、門兵から声がかかる。



「そこの2人!用があるなら入領料金5,000フィルだ!」



この言葉を聞いたクレアの殺気が、さらに大きくなる。


だが、自分よりも冷静さを欠いた者が横にいると、人は意外にも冷静になれるものだ。


わたしは怒れるクレアを諭して、2人分10,000フィルを門兵に支払った。


ここで問題を起こすわけにはいかなかったからだ。


門兵の男はお金を受け取ると鼻を鳴らし、進めと言わんばかりに顎で門を指す。


その態度に怒りを再燃させるクレアを何とか引き摺って、わたしたちは広い敷地を通り抜け、カネガの邸宅前までたどり着いた。




「すでに何人かいるね……。」



邸宅前では、同じようにダンジョンへ挑戦しようと集まった冒険者らしき者たちが列を作っている。


その列の先頭では、執事らしき男とメイドたちが受付を行なっているようだ。


わたしはクレアとともに列の最後部に並び、順番を待つことにした。


程なくして、自分たちの番を迎える。



「本日のご用件は?」


「え……っと……ダンジョン探索で……」



執事の男は、わたしを品定めするかのような目で見ている。


それが気持ち悪かったが、まだカネガに会えていないのだから、ここで冷静さを失っては元も子もない。



「左様で……お1人ですか?」


「いえ……仲間がいます。」



後ろのクレアを指差してそう答える。



「2人と……ちなみに冒険者登録は……?」


「……してます。」


「では、ランクは?」


「Eランクです。」



そう答えた瞬間、男の顔に訝しさが浮かんだ。


そして、仰々しくも大きな声でわたしを否定しにかかった。



「Eランクですと!?失礼ながら、あなたは街のチラシをご確認されましたかな?」


「いえ……見てません。」


「見てないのですか!!まったく、これだから冒険者は……今回のダンジョンの挑戦資格はCランクから!Dランクは実力を考慮!そう記していたはずですが!?」



そう言われても、見てないものは見ていないから仕方がない。


それよりも何よりも、ランクがランクがと言われると本当にムカつくので、わたしは男を鋭く睨みつけて言い返してやった。



「ランクはそうですが、やってみます?ここで暴れてもいいですが……あなた相手に……」


「んな……!」



そう言って睨むわたしに対し、執事の男は少々たじろいでいる。


しかし、彼だって譲るわけにもいかないのだろう。


わたしからの威圧をなんとか押し除けて、彼は大きく息をついた。



「お……脅してもだめですよ!これは旦那さまの決定ですから!Eランクは帰りなさい!」



強がって見せてはいるが、冷や汗のようなものが彼の額にびっしりと浮かんでいるので、相当な緊張を感じていることがわかる。



あと一押ししたらいけるかな。



そう思ったが、ガイドさんに効率的な進め方について、助言をされてしまった。



『クレアのランクを伝えてみては?』



その通りだった。


わたしのランクなんかより、クレアのランクを伝えた方が絶対にいいに決まっている。


何でそんなことに気づかなかったのか……。


というか、クレアも言ってくれればいいのに……。



そう思ってクレアを見たら、別の方を見てブツブツ何かを言っている。


それをよく聞くと、「あいつ強そう。」とか、「あれはダメ。見た目だけだ。」とか、他の冒険者を品定めしていたのである。



この戦闘狂め!!



そう心の中で叫びつつ、冷静さを失わないように小さく息をつくと、わたしはクレアを指して男に告げる。



「こっちの仲間はAランクだけど……」


「Aランク……?それは本当ですか?」


「本当です。クレア、ギルドカード。」


「ほい。」



こっちも向かずにクレアが出したカードを受け取り、執事の男にクレアがAランクであることを証明する。


だが……



「……ふ〜む。これは本物ですか?もしかしたら偽物ではないですか?ギルドカードなんざ、いくらでも偽造可能ですしね!」


「いや……これは紛れもない本物で……」


「ならば、その証拠を見せていただきましょうか!」



こいつっ……!



男のその発言を聞いて、わたしの中の堪忍袋の尾は切れかかっていた。



さっきからランクがどうだとか、ギルドカードが偽物だとか、いちゃもんばっかりつけやがって……。


そのアホ面に一撃見舞ってやろうか……。



すると、殺気を感じ取ったクレアが、今度はわたしを諌めるように肩を叩く。


立場逆転……だが、わたしにも我慢の限界というものがあるのだ。


入口では10,000フィル取られているし、ここで受付できないとなれば、もう絶対にこの場で暴れてやる。


ガルシュさん、リプリーさんごめんなさい。


わたしはゼルケイの子爵家をぶっ飛ばします。



そう覚悟を決めて拳を握り締めたところで、別の男の声が建物の方から聞こえてきた。



「カズーロ!何をしておる。」


「旦那さま!」



執事の男が向いた方へわたしたちも視線を向けると、そこには数々の装飾品を纏った男がいた。


よく言えば煌びやかな……いや、正直良く言う必要もないだろう。


ただの金ピカ男だ……あれは。


小柄なデブの金ピカ男。


そして、たぶんこいつがカネガ=サンタクに違いない。


わたしがそんな評価を下していると、執事の男はすぐに金ピカ男カネガに駆け寄ると、膝をついて頭を下げた。



「実はあの者たちが……」



執事の男は、こちらをチラチラと見ながらカネガに耳打ちしている。


大方、Eランク冒険者がAランクと偽ってダンジョンに挑戦したいと言っている……とか説明してるんだろう。


執事が知らないくらいだから、カネガの奴もクレアのことを知らない可能性があるんじゃないかな。


なら、この後の展開はだいたい想像がつくな。


貴族を騙そうとする奴は不敬なり。


打首にしてやる!


……かな。



『その確率は60%でしょうか。』



ガイドさんの予想は意外だったが、とりあえず、わたしは相手の出方を待つことにした。


だが、金ピカ男カネガの反応は、確かに想像とは違っていた。



「カズーロ!!お前は何を見とるんだ!あの方は帝国が誇るAランク冒険者クレア=デストロイ殿ではないか!!」


「そのとおりだ!えっへん!」


「な……!!なんと……!!申し訳ございません!!」



意外にも、カネガはクレアのことを知っていたのである。


まぁ、そもそも街を管理する貴族であれば、Aランク冒険者に助けを求めることもあるわけで、知っていてもおかしくはないのか。


ガイドさんはそれを見越していたんだなと気づいて、わたしはさすがだなと思った。



しかし、この時間はいつまで続くんだろう。


金ピカ男が執事の誤りを罵り、褒められたと感じたクレアが腕を組んで鼻を伸ばすという謎の時間。


状況が整理できてホッとする反面、眉を顰めてため息をついた。




「これはこれはクレア殿。執事が大変失礼を致しました。」



手をこねくり回してクレアに近づいてくるカネガ。


その後ろにはニヤニヤと笑う執事もいる。



「ん……まぁいいよ。わかってるなら。」



クレアは興味を失ったように返事をするだけだが、カネガはヘコヘコと頭を下げている。


取り入ろうとしているのが見え見えだ。



「Aランクのクレア殿なら、審査など必要ございませんな!即刻、ダンジョンへの入場証をお出しします!」


「ありがとう……枚数はこれね。」



クレアはカネガと顔を合わすことなく、2本の指だけを立ててカネガたちに示した。


それはわたしの分もということだ。


困惑するカネガたちをよそに、クレアはわたしを見てこっそりとウィンクしてくれた。



こうして、わたしとクレアはゼルケイの街に発生したダンジョンへの挑戦資格を手に入れたのである。



しかし、わたしたちに聞こえないように風術スキル【遮音】を使って、カネガは執事にこう伝えていた。



「あのクレアとかいう女……奴はAランク冒険者で間違いない。ならば、かなり奥まで行ける実力だぞ。ダンジョンは奥に行けば行くほど、レアな宝が……くくく。」



今のわたしたちは、そんな会話がされていたことを知る由もない。

何やら企むカネガたち。

ですが、とりあえずはダンジョンに入ることはできそうです。


今回もご愛読いただき、ありがとうございました!

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