66 攻防戦・完
まもなく戦いが終わります。
色々と整理のお話です。
「右舷に回り込め!!ブレスを撃たせるな!」
「前方に注意!!いったん後退しろ!!」
「スキル、放てぇ!!」
統制されたワイバーンたちを相手に、冒険者たちは混乱するのではなく、なんとか連携しながら戦っていた。
その中心にいるのは、クリスたちのパーティだ。
クリス、モルドリー、マシェット、ロビン。
それぞれが率いる冒険者たちを上手く統率し、被害を最小限に抑えながら、ワイバーンたちと戦い続けていた。
だが、やはり統率されたワイバーンは驚異以外の何ものでもない。
1人……また1人と冒険者たちは力尽き、倒れていく者がいる中で、クリスはこの状況を何とか覆す策を模索していた。
そして、彼はすでにその答えを見つけている。
もちろん、クリス以外の3人も各々が同じ結論に達していた。
((((あの大型のワイバーンを……撃つ!!))))
すでにその認識は4人全員が持っている。
ならば、あとはどう合流し、それをどう実行するかが問題であった。
クリスは自分が率いている冒険者たちを見た。
皆、だいぶ疲労も溜まってきており、この均衡した状態も長くは持たないだろう。
できる限り早く、行動を起こさねばなるまい。
だが、今ここで自分が抜ければ、この小隊は瓦解しかねない。
クリスはもちろん、他の3人も同じくそう考えていたので、大型ワイバーンへの攻撃へと転じることができていなかった。
(この戦場全体の雰囲気を変えられる一手……きっかけになる何かが必要だが、かと言って……)
戦場において、具体的な行動とはすぐに思い浮かぶものでもない。
強力なスキルを撃つことで皆の士気を高めようとも思ったが、クリスは広範囲に及ぶようなスキルは持っていない。
モルドリーたちもクリスと同じく、そういった派手なスキルは持ち合わせていないから、あまり期待できなかった。
(こういう時、クレアがいれば……)
Aランク冒険者であるクレアは、クリスと同じく火術スキルを操る冒険者だ。
しかし、火術スキルの威力はクリスのスキルを軽く凌駕し、そのエクストラスキルである炎術スキルも多数極めている。
そして、1つ1つのスキルの威力は強大で、まさにこの戦場の雰囲気を変える一手になり得た。
彼女がいれば、この戦場の雰囲気は一変する。
……というより、そもそもこんな状況になっていないだろう。
クレアがいたら、初めから全部吹き飛ばしているはずだから。
クリスはそれを想像し、なぜかため息をついてしまった。
が、ため息をついた直後、隣を大きな影がすり抜けたことに気づく。
そして、その人物を見て驚いた。
「ガ……ガルシュの兄貴……!?」
無言で走り去るは、ギルドマスターのガルシュ。
その手には大剣を持ち、それを肩に担いで駆けていく。
しかも、まだまだ現役を感じさせるスピードでだ。
(いったい何を……。そうか……あいつを……!!)
クリスはすぐに、ガルシュが何へ向かっているのか理解した。
大型のワイバーン……ガルシュは奴へと駆けていく。
「みんな!!ギルマスを援護しろ!!」
その言葉を聞いた冒険者たちは、他のワイバーンを牽制し、ガルシュを攻撃させないように動く。
もちろん、クリスの部隊だけでなく、モルドリーたちの部隊も動く。
同じように他のワイバーンを牽制し、ガルシュを守っている。
そんな中、ガルシュは脇目も振らず、一心不乱で大型のワイバーンへと駆けていく。
完全に周りを信用した立ち回り。
だが、大型ワイバーンはすでにガルシュに気づいていた。
悠々と翼を羽ばたかせながら、ガルシュとの距離を取ろうとしている。
(くっ……一歩足りないか……)
ガルシュはそう悟ったが、ここで攻撃を止めるわけにもいかない。
そう判断し、土術スキルを使って勢いよく足場を盛り上げると、その勢いを利用して空高く飛んだ。
しかし、大型のワイバーンはすでに後退し始めており、周りで見守るクリスたちから見ても、届かないのでは?という懸念は拭えなかった。
だが、それは突然に起きた。
「ガ……ギギ……」
ワイバーンたちが一斉に苦しみ出し、悲痛の声を上げ始めたのだ。
そして、1匹……また1匹と糸が切れたように落ちていく。
もちろん、大型のワイバーンも例外ではないが、体が大きい分、その苦しみに耐える時間も長いらしい。
苦しさで動きが鈍り、滞空しつつも瞳をギョロギョロと動かしている。
(何だかわからんが……!!)
すでにワイバーンへ届く距離にガルシュはいた。
それを認識した瞬間、担いでいた大剣を大きく振り上げる。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
最大限の雄叫びを上げ、練り上げたスキルを解放する。
すると、ガルシュの大剣の周りには岩が生成されていく。
ガルシュの体よりもさらに大きく、まるで小さな山のように生成されたそれは、自重によってワイバーンへと落ちていく。
その運動エネルギーを利用して、ガルシュは大剣をワイバーンの頭目掛けて振り下ろした。
「ビックバンインパクト(土塊破壊撃)!!!」
一気に振り抜かれたその斬撃……いや強烈な打撃は、ワイバーンの頭を捉えると、そのまま地面へと叩きつけられた。
まるで、大型のドラゴンが地面を踏み抜いたような衝撃波が辺りを襲う。
ガルシュを中心に地面には亀裂が走り、隆起と沈降を繰り返した。
「……はは!まだまだ健在じゃねぇか……轟音さまはよぉ……。」
砂埃が舞う中でゆっくりと立ち上がるその背中を見て、クリスは笑った。
気づけば、最後の1匹が力尽き、地面へと落ちていく。
冒険者たちは何が起きたのか理解できず、数秒ほど唖然としていたが、最後の1匹が落ちた音で皆我に返った。
そして、徐々に状況が理解でき始めると、大きな歓声が湧き上がった。
中には、抱き合って喜ぶ者や、ヘタヘタと座り込む者もいる。
だが、全員の気持ちはひとつだろう。
ーーーなんとか生き延びた……。
立っている者たちは、皆そう感じていた。
「ガルシュの兄貴……現役でもいけるんじゃねぇか?」
ガルシュに駆け寄ったクリスは、笑いながら肩を貸す。
「よせや……今のだけで精一杯だ……。」
クリスに肩を借りて立ち上がったガルシュは、頭を小さく横に振り、苦笑いを浮かべた。
斯くして、ワイバーンとのトゥウラン攻防戦は幕を閉じたのであった。
◆
あの大事件から数日が経った。
ガルシュは自分の執務室で、リプリーがまとめてくれた報告書と睨めっこしていたが、やがて大きなため息をついた。
まず、称賛すべき冒険者たちへの報酬。
彼らの活躍によって、ここトゥウランの街はワイバーンの魔の手から守ることができたわけだし、臨時の報酬は出してやらねばならないだろう。
報酬あってこその冒険者だ。
お疲れ様でした!……だけでは済むまい。
(どこかで酒でも奢ってやってもいいが……)
確かに、祝賀会の開催の提案は出ているから、街の総出を上げて祝うのも有りかもしれない。
冒険者たちを労うことも、ギルマスとしての重要な役割である。
ガルシュがそんなことを考えていると、リプリーが部屋を覗き、中へと入ってきた。
「失礼します。パルトさんたちを連れてきました。」
リプリーに続いて入ってくるパルトとアナスタシアを見て、ガルシュは別のため息をついた。
今回の件、この2人とは色々と話したいことがある。
なぜワイバーンたちが群れを成し、街を襲ったのか。
そして、この2人が交戦した謎の敵の存在。
最後に子爵家の……ワメキヤ夫人の謀略。
内容が山ほどあって、ガルシュは再び大きなため息をついた。
「すまねぇな。疲れてるところ……」
ガルシュがそう言ってソファへ座るよう促すが、パルトは少しムスっとした顔を浮かべて座った。
「そのとおり……わたしたちも暇じゃない。」
「まぁ……そう言うなよ。今回の件、報告書は読ませてもらったんだが、やっぱり直接話が聞きたくてな。」
「パルト……仕方ないよ。」
腕を組み、不貞腐れるパルトをアナスタシアが諭すように笑う。
「そう怒るなよ。今回の件、お前たちには臨時報酬を出す予定だ。頑張ってくれたからな。」
「……報酬?」
その言葉を聞いた瞬間、パルトの耳だけがガルシュを向いた。
「あぁ……あとでリプリーから受け取ってくれ。」
その言葉を聞き、パルトとアナスタシアがリプリーの方を向くと、リプリーは優しく微笑んだ。
「まぁ……そう言うことなら……」
パルトは満更でもなさそうに咳払いし、ガルシュへと向き直り、それを見てアナスタシアは笑った。
ガルシュも内心で笑いつつ、本題に入る。
「なら、本題だ。まず、お前たちが戦った奴らだが、少しだけこちらでもわかったことがある。」
ガルシュはそう告げると、リプリーを見た。
「最初に2人が遭遇した後、各ギルド支部から情報を集めてみました。」
リプリーは手元から書類を選び出し、2人の前に置く。
それをアナスタシアが手に取り、てパルトにもわかるように要点をまとめていく。
「帝国だけじゃなくて、王国側でも同じように黒ずくめの者が目撃されてるんだ……。」
「そうだ。こいつらは各地で暗躍しているようだな。今のところ目的はわからんが、何にせよ警戒しないとならん。」
ガルシュは腕を組み、悩ましげに眉を顰めた。
「なら、あの宝玉については……?」
パルトの問いに答えたのはリプリーだ。
彼女は別の資料を取り出すと、パルトの前に置く。
「古い文献をいくつか調べてみましたが、その青い宝玉について、わかったことはありません。」
「そう……」
パルトは残念そうに視線を落とし、アナスタシアも少し残念そうにしている。
だが、リプリーは続ける。
「ですが……王国にある伝承の中に"5つの宝玉"という言葉があることはわかりました。これが今回の青い宝玉と関係するかは不明ですが……グランゼリア王国に行けば、何かわかるかもしれません。」
王国側のギルドの知り合いに聞いたと、リプリーは最後に付け加えた。
「王国かぁ……」
パルトはそう溢し、アナスタシアは無言。
2人とも何かを思い出して、思いに暮れている様子だった。
ガルシュはそれに気づいたが、何も言わずに次の話に移る。
「あとはホウレン家の件だ。ワメキヤに聞いたところ、全てを吐いたぞ。」
その言葉に合わせて、リプリーが別の資料を机に置いた。
その内容とゴズルの説明からすれば、ほとんどエルバの言っていたとおりだった。
夫が殺したのはホーネスト伯爵で、ワメキヤはその復讐のために今回の計画を企てた。
黒ずくめたちに用意させたワイバーンの群れ。
それらから街を守れなかったのは、ホーネストからの日頃の支援が足りていないから。
だから、伯爵の爵位を剥奪しろ。
そう証言するつもりだったらしい。
ガルシュは、よくもまぁそんな浅はかな計画を立てたものだと、終始呆れ顔であった。
「彼女は爵位を剥奪され、辺境で余生を暮らすことになった。」
「それは……残念というか……」
ワメキヤの処遇に対して、パルトはどう答えていいかわからないようだ。
歯切れ悪く言葉を濁す。
執務室内に変な空気が流れ始めたので、ガルシュは話を切り替えることにした。
「そういえば、Aランク冒険者が1人帰ってきてるな。」
「Aランク……!?」
パルトもそれには興味があるようだ。
耳を立ててガルシュを見る目には、好奇心が映っている。
「たぶん、ギルドにいると思うから、あとで紹介してや……」
ガルシュがそこまで言いかけた瞬間、部屋のドアが勢いよく開かれ、見知らぬ赤い髪の女性が飛び込んできた。
「ギルマス……!この娘ですか!?謎の黒ずくめと戦ったのは……!!」
その勢いはまさに燃え盛る炎のようで、さすがのガルシュも唖然としていた。
飛び込んできたクレア!
何が起きるのか必見ですね!
今回もご愛読いただき、ありがとうございました!




