足止め
強い光に包み込まれる。
目を閉じていても、視界が真っ赤に染まり、眩んでしまいそうだ。それ程強い光を浴びたクレアとチェルシーは、一溜りもないだろう。少なくとも、数秒は何も見えないはずだ。ましてや、この暗い穴倉だ。視力が戻るまでは、相当に時間が掛かるはずなのだ。
光が消えた頃、僕は目を開け、すぐさま行動に移る。地面を蹴り上げ、上半身を丸める二人へと、距離を詰め、彼女達を拘束しようと、腕を伸ばす。
その時だった。
クレアの腕に、僕が持つ拘束具が触れた瞬間、すぐさま腕を返し、僕の腕を掴む。握る力はすさまじく、身体を引いても腕を引き剥がせない。その次の瞬間、僕の視界がぐるりと回り、地面を叩きつけられた。否、彼女は視力を失っているにも関わらず、僕の存在を察知するや否や、地面に叩きつけたのだ。
背中に伝わる衝撃が心臓に響き、横隔膜がせり上がり、肺を潰す。それが息を出来なくさせた。
僕は地面に這いつくばり、呼吸をしようとするばかりで、目の前に迫る刃を眺めてはいても、反応をする事が出来ず、切っ先が顔に掠めようとする、その時、進行方向が僅かに逸れ、僕の顔のすぐ横に刺さる。
顔を上げると、クレアはうめき声をあげ、顔を掻き毟っていた。
「早く立て! 折角のチャンスを無駄にする気か!?」
エリエルの声だ。恐らく、彼女が事前に準備していた物の一つである、カプサイシンの入った催涙スプレーを吹きかけたのだろう。
僕は、まだバクバクと爆音を奏でている胸に手を遣り、心を必死に落ち着ける。
「エリエル! 助かった。」と、僕は返事をする。それを受け、エリエルは早口でまくし立てた。
「先に行け。閃光弾で潰した視力も、チェルシーの方は回復するはずよ。私が食い止めるから、ユウキは先に行って、ゴブリンを殺して。」
そう言い、エリエルは足を止め、身構えた。
「……いや、エリエルが先に行ってくれ。」
「は!? ユウキはさっき死にかけたの忘れたの? 時間稼ぎも出来ないでしょ?」
「もう大丈夫だ、次はしくじらない。魔法が使える僕の方が、エリエルよりも、時間が稼げるはずだ。」
そう言い、僕は彼女の横に立ち、チェルシーとクレアを前に、身構えた。
だが、エリエルは僕の肩を掴み、制止する。
「ダメよ。土壇場で作戦外の事をするなんて。計画じゃあ、ユウキが行くことになっていたじゃない。それに私の方が戦闘に慣れている。あなたじゃ殺されて、しまいよ。それに、ゴブリンの目的は、女の洗脳。だから、クレア達に捕まっても、殺されはしないわ。」
黙りつつも、何か言いたげな僕に、エリエルはさらに続けた。
「あのね、問題は、足を付けずに広場をどう超えるかなのよ。もし、ユウキが失敗しても、私だったら一人で戦線離脱できるわ。」
「おい、見捨てるのかよ。」
「仕方ないでしょ。手立てが無くなるのだから。」
何て、清々しい割り切りだろうか。このスタンスには、僕も見習わなきゃいけない部分があるのかもしれない。
「だから、絶対にしくじらないでね。私を裏切者にさせないで。」と、エリエルは言った。
その言葉の覚悟は、彼女が固く握りしめる拳と、真剣で、潤んだ眼差しから感じさせた。
「……わかった。」と、頷き、彼女を背に、広場へと走り出した。
その時、チェルシーが動いた。
「どこに行くの? ユウキは広場にはいかなくていいんだよ。死んでくれるだけでいいんだよ。」
そう、話しかけると同時に、鞭がしなり、僕目掛けて飛んでくる。
——まずい。このまま直撃をすれば、広場へ落ち、計画が台無しになってしまう。
そう、予見した時だった。
鞭と僕の間にエリエルが割って入り、肩を当てる事で、鞭の軌道を逸らした。肩は服が剥がれ、肉が剥き出しになり、血が腕を伝い、手まで赤く染め上げていた。
エリエルは、「早く行け!」と叫び声の様な声で怒鳴る。その顔は痛みで歪めるも、視線はクレアとチェルシーを睨みつけている。
僕は、彼女を背に振り返る事なく、身に着けていたジェットスーツを起動し、広場を越える。その間も、何度もチェルシーとクレアが邪魔しようとするが、エリエルは、閃光弾や煙幕、催涙スプレーなどを駆使するも、身を削りながらも僕を守り、クレア達を足止めした。いや、僕は直接見たわけではないが、うめき声や、爆発音などの音から、そういった状況だった事は、想像に難くない。
僕が広場を超える数秒を、彼女は守り抜いた。
「すぐ戻るから、それまで耐えろよ!」
「いいから、早く行って!」
エリエルの返事を聞き、僕は更に奥へと進むのだった。
「全く、世話が焼けるわね。」
エリエルはポツリと呟く。
「それで、エリエル? あなたは無事でいられると思うわけ?」
クレアの冷たい問いかけに、チェルシーが同調する。
「あなたをすぐに洗脳して、ユウキの後を追うから。ゴブリン様には、触れさせないわよ。」
腕を庇い、血が滴り、ボロボロのエリエルは不敵に笑う。
「そんな事、出来ると思う? この天才の私を相手に。」
少しの沈黙の後、衝撃音が響き渡る。




