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対峙

 全身に着けた物の重みが足跡を残させる。懐かしさを感じる、僕が生成したそれらは、歩く度に軽い金属音の様な音を鳴らした。


 「ユウキ、これどうにかならなかったの? これじゃあ、居場所が丸わかりじゃない。」


 エリエルは、首を回しながら言った。


 「仕方ないだろう。こんなに沢山の物を装備したら、雑音の一つや二つは出るもんんだ。」


 エリエルが要求した物の量が多く、どんなに気を付けていても、歩く度にぶつかり合う。数分の間、様々な工夫を凝らしてみたが、どうしても消音には至らなかったのだ。


 「…それにしても、重いわね。」


 「文句ばかり言うなよ。どうせすぐに軽くなるんだから、我慢しろ。」


 口を尖らせるエリエルをたしなめる。そもそも、この作戦はエリエル発案なのである。僕が咎められるいわれはない。


 「それにしても、こんなに音が鳴っているのに、追って来ないな。こちらとしては、来てくれた方が助かるんだが。」


 そう僕が言うと、エリエルは僕の方を見ずに、冷たく言った。


 「だから来ないのよ。向こうは広場で迎え撃った方が、明らかに有利。沢山の罠を張って、出迎えてくれるわよ。」


 意地悪く笑うエリエルに、僕はため息をついた。


 「本当に大丈夫なのだろうか。」


 「大丈夫よ。私を疑うの? キングゴブリンに勝てたのは、私のおかげなのよ。大船に乗った気でいなさい。」


得意げに人差し指を左右に振り、鼻を鳴らした。


 その様子を、僕は訝しげに見る。


 「何よ、その目は。」


 「いや、エリエルはきっと、幸せに生きていたんだろうなと思ってね。」


 適当に言う僕に、エリエルは僕のお尻を蹴り飛ばし、こう言った。


 「何よそれ、当たり前でしょ。私程の才能に恵まれた人間が、不幸な人生を歩むわけがないわ。私なら、どんな窮地でも乗り越えられるのだから。」


 「なるほど、そりゃ自信にも溺れるはずだ。僕は今にも不安に呑まれそうだって言うのに。」


 そう僕が言い終わる前に、すかさず僕の口調を真似て、僕の肩に手を乗せた。


 「なるほど。ユウキはさぞかし、不幸な人生だった様ね。私と違ってさ。可哀想に。」


 しかし、その様な皮肉に怯む僕では無かった。


 「そうだなぁ、僕は幸福である時間の方が少ないよ。今の状況が、正に僕の人生の様だよ。」


 そう言うと、さすがに面くらった顔をエリエルはした。少し酷かったかと、僕はエリエルから逃げるように視線を外し、先を急いだ。


 少しの間が空き、エリエルは僕のすぐ後ろを歩きながら、ボソッと言う。


 「つまり、ユウキの人生は、私と共に過ごす程の幸福は取るに足らないと。さすがの私も舌を巻くよ。美少女と一緒にいるだけでは、不幸の範疇だなんて。訂正しよう、私の人生も不幸の連続だったと。」


 何と傲慢な事だろう。


 「いやいや、そういうつもりで言ったんじゃねーよ。」


 「じゃあ、何が不幸なの。最大の窮地に立った今、私達は運命共同体。いつ蜜月な関係になっても、おかしくはないわよ。美少女で天才な、私を抱ける可能性があるだけで、幸福でしょうに。」


 そう言い、エリエルは僕の頭をバシバシと叩く。


 「いや、それ本当の姿じゃないでしょ。もしかしたら男かもしれないのに、それはないわ。想像しただけで寒気がする。」


 「はぁ!? 本当の姿を晒すとか、裸になるのと同じよ! それを想像するなんてセクハラだから!」


 エリエルは顔を真っ赤にし、唾をまき散らす勢いで、怒鳴る。


 「だったら、常に姿を晒している人たちはどうなんだよ?」


 「そりゃ、変態よ、ユウキも含めてね。」


 「なんだそりゃ。」


 こんな、くだらない掛け合いをしていたら、広場が微かに見えて来た。


 僕達は誰が言うでもなく、左右にある岩陰に隠れ、広場の様子を伺う。しかし、その視線の先にあったのは、空の広場だった。


 予想外の事態に、思考が身体を固めた。それがいけなかった。


 愚策も愚策。想定から外れたのならば、直ぐに次善策を実行に移すべき。


 先手を既に打たれていた事に、僕達は気が付いていなかった。僕の頬に鞭の先が掠め、熱い液体が頬から漏れるまで。


 正確には頬を手で触れ、赤く染まった指を見るまで、僕は気が付かなかった。


 チェルシーとクレアは天井に張り付き、僕達を待ち構えていた事に。


 「残念、失敗ね。あー外しちゃった。」


 僕の真上からチェルシーの声が聞こえる。それと共に、目の前にあった岩が砕かれ、破片が顔を叩き、 思わず声を上げ、目を閉じてしまった。


 エリエルの「ユウキ!」という叫び声と同時に、グジャリとした振動が、地面から二つ伝わる。


 次々と、五感から伝えられる、情報を処理するよりも早く、息苦しさに意識を奪われる。首には何やら巻き付くような感触。それが首を捥がんとする程の力で締め付けてくる。


 僕は首に巻き付くものを、反射的に両の手で掻き毟り、首には血管を浮きだたせ、口から垂れる涎が泡になっていくのを、舌と内頬で感じる。


 目を開け、チェルシーが鞭で首を絞める姿を視認したのは、僕の意識が消える寸前の事だった。


 その時、目の前で大きな爆発音が鳴る。その瞬間に僕の首元は、束縛から解放された。


 僕はせき込みながらも、首に巻き付いた残骸を、無我夢中で剥いだ。


 涎だらけの口元を拭うのも忘れ、飢えた様に息を吸い込み、頭に血が行き、じんわりと熱い。


 「早く前を向きなさい。来るよ!」


 エリエルの声がする。その瞬間、僕は彼女らを見るよりも早く、「エリエル、目を閉じろ!」と叫び、腰に付けていた閃光弾の線を引き、前方の地面に投げつけた。

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