表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/30

第8話 黒鉄鉱山の闇、魔王軍との遭遇

 黒鉄鉱山は、噂以上に不気味な場所だった。

 山の斜面には黒ずんだ岩肌がむき出しになり、坑道の入口からは冷たい風が吹き出している。まるで鉱山そのものが巨大な獣の口で、侵入者を飲み込もうと待ち構えているかのようだ。


「ここが……黒鉄鉱山」

 アリシアが剣に手をかけ、周囲を警戒する。

「魔王軍の残党が潜伏しているという報告は確かだったのね。気配がするわ」


 リリアは杖を構え、呟いた。

「魔力濃度が異常に高い……鉱石に魔力が溜まっているせいでしょう。戦闘になれば、周囲の環境も利用されるはず。注意してください」


 俺は深呼吸して、二人の背に目を向ける。

 ――俺の補助がなければ、どんな強さも半減する。だからこそ、絶対に支えるんだ。


 そう決意した矢先、坑道の奥から複数の足音が響いてきた。

 やがて現れたのは、人間に似た体躯を持つ魔物たち――漆黒の鎧に身を包んだゴブリンソルジャー。目は赤く光り、手には黒鉄鉱で鍛えられた粗野な剣を握っている。


「グギャアアッ!」

 甲高い叫びと共に、十体以上が一斉に突進してきた。


「来る!」

 アリシアが剣を抜き、リリアが詠唱に入る。

 俺は両手を広げ、声を張り上げた。


「〈補助術・連鎖強化〉! 〈補助術・感覚加速〉! さらに――〈補助術・魔力増幅〉!」


 光が二人を包み込む。今度の補助は、肉体と感覚だけでなく魔力の流れそのものを活性化させるものだ。


 アリシアは目を細め、剣を振りかざした。

「――行くわ!」


 彼女の剣が稲妻のように閃き、突進してきたゴブリンを一瞬で斬り裂く。

 速い。俺自身が強化の威力を感じ取れるほどに。


 一方のリリアは杖を掲げ、高らかに呪文を紡いだ。

「〈火炎連弾〉!」


 放たれた火球が通常の数倍の輝きを放ち、爆音と共に敵を吹き飛ばす。坑道の壁に叩きつけられたゴブリンたちは、悲鳴を上げる間もなく焼き尽くされた。


「……これほどの威力になるなんて」

 リリア自身が驚きの声を漏らす。

「あなたの補助、ただの底上げではない。魔力の巡りを理想的に循環させ、詠唱の効率まで改善している……!」


「分析は後! まだ来るわよ!」

 アリシアが叫ぶ。


 坑道の奥から、更に大柄な影が姿を現した。

 漆黒の鎧に身を固めたゴブリンナイト。手には大剣、背には禍々しい紋章の旗を背負っている。

 その威圧感に、背筋が粟立つ。


「……幹部級だな」

 アリシアが低く呟く。

「こいつを倒せば、残党の士気は落ちるはず。――レオン、力を貸して」


「もちろん!」


 俺はさらに深く息を吸い込み、叫んだ。

「〈補助術・共鳴連結〉!」


 光の糸がアリシアとリリアを結び、二人の動きが自然に噛み合う。

 アリシアが突進を受け止め、リリアが横合いから魔法を叩き込む。攻撃と防御、剣と魔法が完全に連動し、ゴブリンナイトを圧倒していく。


 大剣が振り下ろされる。

 だが、アリシアは紙一重でかわし、リリアが炎を浴びせる。

 その隙に――。


「今だ、アリシア!」

「――はああああっ!」


 渾身の斬撃が鎧を真っ二つに裂き、ゴブリンナイトの巨体が地響きを立てて倒れ込む。


 静寂。

 坑道に残るのは、息を整える俺たち三人だけだった。


「……やったな」

 思わず漏らした声に、アリシアが笑みを浮かべる。

「ええ。レオン、あなたのおかげよ」


 リリアも眼鏡の奥で瞳を輝かせていた。

「素晴らしい……! 補助術がここまでの効果を発揮するなんて。やはり、あなたは稀代の存在です」


 胸が熱くなる。

 勇者たちに切り捨てられた俺が、今はこうして最強の仲間たちと共に勝利を掴んでいる。


 ――これが、俺の冒険の始まりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ