第7話 黒鉄鉱山への道、三人の連携
翌朝。王都の城壁を背に、俺たちは南方へと歩き出した。
目指すは黒鉄鉱山。魔王軍の残党が潜み、奇怪な魔物が出没するという危険地帯だ。
アリシアは背筋を伸ばし、軽装の鎧に身を包んでいる。リリアはローブを翻しながら歩き、手元の魔導書に視線を落としていた。
そして俺は、二人の少し後ろから足並みを揃える。
「ふむ……補助術を使う際、魔力の流れが周囲に波及しているのですね」
歩きながらリリアが観察を口にする。
「通常の補助術は一点集中型ですが、あなたのものは“拡散・調整型”。対象の魔力循環を調律して、性能を底上げする……興味深い」
「研究対象じゃなくて仲間だって言ったでしょ」
アリシアが眉をひそめる。
「彼を実験台みたいに扱うなら、私が許さない」
リリアはさらりと肩をすくめる。
「仲間として尊重しつつ、学術的に解明する。それが私のやり方です」
そのやりとりに、俺は苦笑を漏らすしかなかった。
けれど、不思議と嫌な気持ちはしない。アリシアもリリアも、俺を必要としているからこそ真剣にぶつかっているのだ。
――それが、かつて勇者パーティでは得られなかった温かさだった。
◇
昼を過ぎた頃、山間の小道に差しかかったときだった。
不意に、黒い影が木々の間から躍り出る。牙を剥いた二体のリザードマン。鱗に覆われた体躯、槍を握りしめた獰猛な魔物だ。
「来るわよ!」
アリシアが剣を抜き、リリアが詠唱に入る。
俺は即座に手をかざした。
「〈補助術・連鎖強化〉! 〈補助術・感覚加速〉!」
光が二人を包み込み、力と敏捷、反射神経を底上げする。
アリシアは風のように駆け、リザードマンの槍を紙一重でかわして剣を振るった。鱗を裂き、鮮血が飛び散る。
一方、リリアは冷徹に呪文を放つ。
「――〈氷槍の連弾〉!」
杖の先から放たれた氷の槍が空を切り裂き、もう一体の胸を貫いた。
だが、リザードマンはしぶとい。槍を振り回し、アリシアとリリアを同時に狙う。
「二人とも、連携を!」
俺は叫びながら、新たな補助を重ねた。
「〈補助術・共鳴連結〉!」
光の糸が二人を結び、互いの動きが自然と噛み合う。
アリシアが槍を受け流し、できた隙にリリアが氷槍を叩き込む。
動きが完全にシンクロし、敵は防ぐ間もなく崩れ落ちた。
――ドサッ。
二体のリザードマンが同時に倒れ、森に静寂が戻る。
息をつく俺に、アリシアが剣を収めて笑みを向けた。
「完璧な連携だったわ。レオンのおかげね」
リリアも杖を下ろし、珍しく微笑んだ。
「なるほど……補助術で仲間同士の動きを“共鳴”させるとは。理論上すら存在しなかった概念です。実に素晴らしい」
胸が熱くなる。
俺の力は、ただの雑用じゃない。二人を繋ぎ、支えるものだ。
「ありがとう、二人とも。……俺は、やっと“仲間”になれた気がするよ」
その言葉に、アリシアは頷き、リリアは小さく笑った。
三人の歩調が、自然と揃っていた。
――これから始まるのは、黒鉄鉱山での本格的な試練。
勇者たちが捨てた俺は、最強の仲間たちと共に道を進む。