第6話 選択と、新たな旅路
夜の森に、二人の視線がぶつかり合った。
アリシアは鋭く、リリアは静かに。
その間に立たされた俺は、言葉を失っていた。
「リリア。あなたがどれだけ優秀な魔導師でも、彼を研究対象のように扱うのは許さない」
アリシアの声には怒気が混じっていた。
「彼は仲間よ。戦場で共に立ち、剣と命を預け合う存在なの」
リリアは一歩も退かない。
「仲間としての絆を否定するつもりはありません。ですが、彼のスキルは未解明のままでは危険です。あの力は制御を誤れば、むしろ仲間を傷つけるかもしれない。だからこそ、学術的に解明すべきなのです」
どちらの言い分も理解できた。
アリシアは俺を“仲間”として見ている。
リリアは俺を“才能”として認めている。
かつて無能と切り捨てられた俺にとって、どちらの視線も眩しかった。
――でも、俺自身はどうしたい?
問いが胸の奥で渦を巻く。
勇者パーティにいた頃、俺は何一つ自分の意思を口にできなかった。
ただ黙って、命令に従い、雑用を引き受けるだけ。
だからこそ、今度こそ答えなければならない。
俺は深呼吸し、二人を見渡した。
「……俺は、戦いたい。そして、支えたい。アリシア様の剣が届くように、仲間の力を最大限に引き出したい。それが俺の意思です」
アリシアの目が大きく見開かれ、やがて安堵の笑みが浮かんだ。
「……ありがとう、レオン。そう言ってくれると思っていたわ」
だが、リリアもすぐに食い下がる。
「戦場に立ちながらでも研究は可能です。いえ、むしろ実地でこそデータは集まります。だから――私もあなたと共に行く」
「えっ?」
「決まりです」
リリアは揺るぎない笑顔で言い切った。
アリシアが額に手を当ててため息をつく。
「はあ……勝手な人ね。けれど、止めても無駄なのでしょう?」
「もちろんです。私は私の方法で、彼の力を証明します」
二人のやり取りに、苦笑が漏れた。
かつて勇者たちに捨てられ、孤独に歩いた俺が――今は二人の才媛に求められている。
その事実が、信じられないほど心を温めた。
リリアが杖を軽く地面に突く。
「ところで、次に向かうべき場所を提案します。南方の“黒鉄鉱山”です。魔王軍の残党が潜伏しているとの報告があり、同時に珍しい魔力鉱石が採掘されている。あなたのスキルを試すには最適でしょう」
アリシアも頷く。
「確かに、鉱山は王国でも問題視されている地域ね。……レオン、どうかしら?」
俺は迷わず答えた。
「行きましょう。ここで立ち止まるわけにはいかない。俺の力を証明するためにも」
二人が同時に頷き、そしてちらりと互いを睨み合う。
王女と宮廷魔導師――互いに一歩も引かない。
だが、そんな二人が同じ方向を向くことで、パーティは確実に強くなっていくはずだ。
――勇者たちが捨てた“雑用係”は、いま最強の仲間たちと共に歩き始める。
胸の奥で燃える炎は、もはや消えることはなかった。