第4話 勇者との衝突、明かされる力の差
炎猪を倒した余韻がまだ残っている森の中。
勇者アランは顔を強張らせながらも、必死に虚勢を張っていた。
「ふ、ふん……一匹の魔獣を倒した程度で調子に乗るな。俺たち勇者パーティなら、もっと簡単にやれる」
バルトが大声で笑い、エリスは鼻を鳴らす。
「王女殿下も困ったものですね。よりによって、こんな無能を拾うなんて。名門王家の名折れですわ」
マリナも同調する。
「殿下、レオンなんかに頼るより、どうぞ私たちにお任せください。彼なんて足を引っ張るだけです」
――まだ、そんなことを言うのか。
胸の奥に熱がこみ上げてくる。悔しさでも、悲しさでもない。もっと鋭く、真っ直ぐな感情。
その時、さらに森の奥から気配が迫った。
複数の魔物が一斉に姿を現す。牙を剥いた狼型の魔獣が五匹、周囲を囲むようにして吠え立てた。
勇者アランは剣を構え、鼻で笑った。
「ふん、いい機会だ。俺たちが本物の戦いを見せてやる。お前は後ろで震えてろ、レオン」
だが、その言葉に先んじて、アリシアが声を上げた。
「待って。ここは私とレオンでやる」
「な、何ですって!?」
エリスが目を剥く。
「王女殿下、正気ですか? あんな雑用係を相手に――」
「雑用係ではない!」
アリシアの一喝が森に響き渡る。
「彼の補助がなければ、私は今の戦果を得られなかった。あなたたちが見下すその力こそ、真に必要なものなのよ」
その言葉に、勇者たちは口を噤んだ。
俺は一歩前に出て、深呼吸をする。
「……見せてやる。俺の補助が、どれほどのものか」
両手をかざし、呪文を重ねる。
「〈補助術・連鎖強化〉! 〈補助術・感覚加速〉!」
光が幾重にも広がり、アリシアの身体を包み込む。
力だけでなく、視覚や聴覚、反射神経までもが強化される。彼女はまさに“戦場の女神”へと変貌していった。
次の瞬間、五匹の魔獣が一斉に飛びかかる。
だがアリシアは、まるで舞うように剣を振るった。
一撃ごとに狼が倒れ、咆哮が悲鳴に変わる。目にも止まらぬ剣閃が走り、数十秒も経たないうちに、全ての魔獣が地に沈んでいた。
あまりの光景に、勇者パーティは唖然とした。
剣を握る手を震わせたアランが、搾り出すように言った。
「な、なんだ……これは……。王女の剣は、ここまでのものでは……」
俺は静かに告げる。
「違う。これは俺の補助と、彼女の力が重なった結果だ。俺を無能と切り捨てたお前たちには、二度と手にできないものだ」
エリスの顔が青ざめ、マリナは悔しげに唇を噛んだ。
バルトがなおも虚勢を張ろうとしたが、アリシアの鋭い視線に射抜かれて黙り込む。
王女は剣を収め、俺の隣に立った。
「聞きなさい。レオンは私の仲間であり、補助者であり――最も信頼できる存在よ。あなたたちがどう嘲笑しようと、彼を“無能”と呼ぶことは許さない」
勇者たちは何も言えなかった。
その姿は、完全に敗北を突きつけられた者たちのものだった。
胸の奥で、くすぶり続けていた炎が燃え広がる。
――これが、最初のざまぁだ。
勇者パーティよ、見ていろ。
お前たちが切り捨てた俺は、もう二度とお前たちの下には戻らない。
俺は、自分を信じてくれる仲間と共に進む。