第30話 決着と未来
広場に響く歓声の中で、俺はただ立ち尽くしていた。
闇に堕ちた勇者アランを打ち破り、その中にかすかに残っていた人の心を見た。
――彼は最後の瞬間、確かに俺の名を呼び、謝ろうとしていた。
だが、アランの行方は依然として掴めない。
爆発的な瘴気と共に姿を消した彼が、この世から消えたのか、それとも……。
「レオン」
隣でアリシアが声をかけてきた。剣を下ろし、瞳はまっすぐ俺を見つめている。
「勝ったのよ。あなたが英雄だって、誰もが認めた」
リリアが腕を組み、冷静に言葉を続ける。
「とはいえ、陰謀はまだ残っているわ。貴族派閥も、きっと諦めない」
ソフィアは両手を胸の前で組み、涙をこぼしながら祈るように囁いた。
「でも……今日、あなたが示した光は消えません。神が証明してくださいました。あなたが、本物だと」
俺は深く頷き、拳を握った。
「……ありがとう。三人がいたから、俺はここまで来られた」
◇
数日後。
王都の大広間には、王と議会、そして各地から集まった代表たちが揃っていた。
国王が立ち上がり、朗々と声を響かせる。
「ここに宣言する。補助術師レオンは、我が王国の英雄にして“王国戦略顧問長”である! 今後の戦も、民の未来も、彼と共に歩む!」
轟音のような歓声が広がる。
兵士も民も、誰もが拳を掲げて「レオン!」と叫んでいた。
かつて雑用係と嘲られた俺が、今や国の未来を託される立場になったのだ。
――不思議と、恐怖はなかった。
仲間がいて、民がいて、守るべきものがある。
それが俺の力になっていた。
◇
広間を出た後、三人と共に静かな廊下を歩いた。
アリシアが肩で笑い、俺の背中を軽く叩く。
「随分と偉くなったじゃない。英雄様」
「いや……俺は英雄なんて柄じゃない」
そう言うと、リリアが呆れたように眼鏡を押し上げる。
「その謙虚さがあなたの強みよ。……でも、責任からは逃げないで」
ソフィアは柔らかく微笑み、静かに囁いた。
「あなたが選ぶ道が、この国の道になる。……私はどこまでもついていきます」
その言葉に、胸の奥が温かく満ちていった。
◇
その夜。
王都の空には満天の星が輝いていた。
瓦礫は片付き、民の笑い声が遠くから聞こえる。
俺は城壁の上に立ち、夜空を見上げた。
――アラン。
お前がどこにいるとしても、俺は歩みを止めない。
もし再び相まみえる時が来たら、その時こそ、必ずお前を救ってみせる。
アリシアが隣に立ち、星空を見上げる。
「ねぇ、レオン。これからどうするの?」
俺は少し考え、ゆっくりと答えた。
「英雄として国を導く……でも、それだけじゃない。俺は、俺の仲間と共に生きる。戦いのない日々を、必ず掴む」
リリアが口元をわずかに緩める。
「なら、私たちの知識と剣を貸すわ」
ソフィアが祈るように両手を重ね、微笑んだ。
「どんな未来でも……私はあなたと共に歩きます」
夜風が心地よく吹き抜け、遠くで鐘の音が響いた。
英雄と呼ばれた雑用係の物語は、ここで一つの区切りを迎えた。
だが――。
俺の旅も、仲間との未来も、まだ始まったばかりだ。




