第3話 勇者たちの嘲笑と、最初のざまぁ
松明の光に照らされた勇者パーティの顔ぶれは、二年前と何ひとつ変わっていなかった。
勇者アランは相変わらず自信に満ちた笑みを浮かべ、剣士バルトは腕を組み、魔導師エリスは鼻で笑っている。僧侶マリナに至っては、あからさまに俺を侮蔑する視線を投げてきた。
「レオン。まさかこんな所で再会するとはな」
アランが口を開いた。声にはあからさまな嘲りが混じっている。
「俺たちが追い出してやったのに、まだ生きていたとは驚きだ。どうせ行き倒れてると思っていたんだが」
バルトが口を挟む。
「雑用係にしてはしぶといじゃねえか。おい、あの魔獣をお前が倒したのか? ははっ、冗談だろ」
胸の奥がざらつく。だが、今までと違って怯えはなかった。
俺の隣にはアリシアがいる。彼女は堂々とした態度で一歩前へ進み出た。
「この者を侮るな。彼は私に力を与えてくれた。あなたたちが見限った“雑用係”こそ、真に必要な者なのよ」
王女の言葉に、勇者たちの表情が一瞬固まった。だが次の瞬間、エリスが皮肉混じりに笑い出す。
「王女殿下ともあろうお方が、そんなはぐれ者にすがるとは。よほど人材不足なのですね」
マリナも肩をすくめた。
「雑用係を連れて歩くなんて、殿下の評判を落とすだけですわ」
好き勝手に言いやがって。だが、今は言い返す言葉がある。
「俺は雑用係じゃない。〈万能補助スキル〉の使い手だ」
そう口にした瞬間、バルトが吹き出した。
「ははっ! 万能だって? なら見せてみろよ。どうせ大したことはできないんだろ」
その挑発に応えるように、森の奥から別の気配が現れた。
――ゴオオオッ!
炎をまとった巨大な猪型の魔獣が突進してきたのだ。
勇者たちも一瞬たじろぐほどの迫力。しかしアリシアは剣を抜き、俺に目で合図を送った。
「レオン、お願い」
「ああ……!」
俺は両手をかざし、詠唱を始める。
「〈補助術・連鎖強化〉――対象:アリシア!」
淡い光が迸り、アリシアの身体能力が一気に跳ね上がる。筋力、敏捷、反射、すべてが数段階ブーストされる特殊強化だ。
次の瞬間、彼女は風のように駆け、炎猪の突進を真正面から受け止めた。剣と獣の牙が火花を散らし、衝撃波が地面を揺らす。
しかし押し負けない。むしろ押し返している――!
「はああああっ!」
剣が閃き、炎猪の巨体が宙を舞った。悲鳴を上げながら地に叩きつけられ、動かなくなる。
一瞬、場が静まり返った。
やがてアリシアが剣を収め、俺の方へ微笑んだ。
「これが、あなたの力ね」
その言葉に、勇者パーティの面々は絶句していた。
アランの表情には明らかな動揺が浮かんでいる。
「……ば、馬鹿な。あの魔獣を、一撃で……?」
俺ははっきりと言った。
「俺は役立たずじゃない。誰かを支えることで、真の力を発揮する。お前たちが捨てた力を、アリシア様は理解してくれた」
バルトの顔が引きつる。
「ちっ……偶然だろ。そんなの長くは続かねえ」
だが、内心の焦りは隠せていなかった。
彼らの前で、俺の存在価値を示すことができたのだ。
胸の奥で、長年押し殺してきた声が響く。
――見たか。これが俺だ。
雑用係と笑った勇者たちよ。
ここから始まるのは、お前たちへの“ざまぁ”だ。