第27話 逆転の兆し
広場の空気が張り詰めた。
数千の視線が、俺とアランを見守っている。
誰もが息を呑み、英雄と勇者の決着を待っていた。
「行くぞ、レオン!」
アランが咆哮と共に大地を蹴る。
漆黒の大剣が唸りを上げ、真っ直ぐ俺の頭上へ振り下ろされた。
「くっ――!」
光の結界を展開するが、衝撃は想像を超えていた。
地面が割れ、俺の膝が沈む。
防いでいるのに、押し潰されるような重圧。
「はははっ! その程度か! “英雄”の正体なんて、この程度だ!」
アランの笑い声が広場に響き渡る。
群衆のざわめきが広がる。
「やはり勇者様の方が……」
「英雄なんて偽物だったのか……?」
胸の奥に焦りが広がる。
――このままでは、俺だけじゃなく仲間も、民衆の信頼も失う。
「レオン!」
アリシアが駆け込んできて、俺の背中に剣を預けた。
「まだ立てるでしょう! あなたはそんなもんじゃない!」
リリアも杖を掲げ、魔法陣を俺の足元に展開する。
「解析完了。アランの瘴気は“結界の内部共鳴”で崩せる! あなたの補助術なら可能よ!」
ソフィアも涙を浮かべ、祈りの声を上げた。
「どうか……彼を救えるのは、あなたしかいません!」
仲間の声が、胸を震わせた。
――そうだ。俺は一人じゃない。
俺は深く息を吸い込み、詠唱を紡ぐ。
「〈補助術・心魂共鳴〉!」
光が迸り、仲間たちと俺を一本の線で結んだ。
アリシアの剣が淡い光を帯び、リリアの魔法陣が強烈に輝き、ソフィアの祈りが浄化の光となって広がる。
観客の間からどよめきが起こった。
「な、なんだ……光が重なり合って……!」
「勇者様の闇を押し返している……?」
「馬鹿な!」
アランが吠え、大剣を振るう。
だが黒い瘴気の刃は、俺たちの光に触れた瞬間、音を立てて砕け散った。
「なっ……ぐぅぅぅ……!」
アランの身体を覆う闇が一瞬だけ薄れる。
「今だ!」
アリシアが光を帯びた剣を突き出し、リリアの雷撃が重なり、ソフィアの祈りが傷を浄化する。
俺は声を張り上げた。
「アラン! お前を救うのは、俺と――仲間だ!」
光の奔流がアランを包み、広場を白く照らした。
◇
光が収まると、アランは膝をつき、荒い息を吐いていた。
だが、まだ倒れてはいない。
赤い瞳がぎらりと輝き、低く呟く。
「……レオン……次こそ……」
黒い瘴気が再び彼を覆い、立ち上がらせる。
――決着は、まだ先だ。
だが広場の人々の目は、先ほどまでとは違っていた。
「レオン様が勇者の一撃を防いだ……!」
「いや、それだけじゃない! 仲間の力を束ねて、あの闇を押し返した!」
熱を帯びた歓声が広がり始める。
英雄は虚像ではない、と民衆が信じ始めていた。
俺は剣を握り直し、アランを見据えた。
「次こそ決着をつける……!」
闇と光の戦いは、ついに最高潮へ向かおうとしていた。




