第25話 英雄を貶める罠
王都の祭りの余韻が消えた翌日。
俺たちに届いたのは、一通の急報だった。
「西方の街道で、補給隊が襲われました!」
報告に駆け込んできた兵士の顔は蒼白だった。
「現場には……レオン様の紋章が刻まれた結界の痕跡が!」
「……なに?」
思わず声が漏れる。
アリシアが眉をひそめ、剣に手を添えた。
「そんなはずないわ。あなたがそんなことをするわけない」
リリアは冷静に分析を始める。
「恐らく、模倣……もしくは偽造。ですが、この報告が広がれば民衆の信頼が揺らぎます」
ソフィアが祈りのように呟いた。
「これは、レオン殿を貶める罠です……」
胸の奥に冷たい怒りが灯った。
――敵は俺の名を使い、国を混乱させようとしている。
◇
その日の午後。
議会では早速、俺に対する疑念が飛び交っていた。
「見ろ! 補助官の術が補給隊を襲った証拠だ!」
「英雄など虚像にすぎん! 国を混乱させる元凶だ!」
怒号が飛び交い、俺に向けられる視線は鋭い。
アランの影が背後で笑っているかのようだった。
アリシアが剣を叩きつけるように机を叩き、声を張り上げる。
「レオンを疑うなんて愚かだ! 彼は王都を救った英雄よ!」
リリアも冷徹に反論する。
「証拠が偽造された可能性を考慮しない議会など、学者としては失笑ものです」
ソフィアは毅然と立ち、祈るように言葉を投げた。
「私は神に誓います。レオン殿は清らかで正しい。……彼を疑うことは、神をも冒涜する行為です」
議場に沈黙が走る。
だが貴族派閥は一歩も引かず、冷笑を浮かべた。
「ならばいずれ真実が証明されよう。我らは民衆に訴えるだけだ」
◇
その夜。
俺たちのもとに再び不気味な封書が届いた。
黒い蝋が塗られた封を開くと、中には短い文。
――“次は民の前で、お前の手で血を流させる”
背筋に冷たいものが走った。
これは単なる中傷ではない。次は俺を直接陥れる舞台を用意している。
「……狙いは、王都の民の前で俺を失脚させることだ」
俺は拳を握りしめ、仲間を見回した。
アリシアが真剣な瞳で頷く。
「なら、逆に利用してやりましょう。奴らが仕掛けてくる舞台で、あなたが本物だと証明するの」
リリアが眼鏡を押し上げ、静かに告げる。
「そのためには、敵の手口を見極める必要があります。恐らく……勇者アランが前面に出てくるでしょう」
ソフィアは祈りを込めるように俺の手を握った。
「どうか……あなたが負けないように。神も、私も、ずっとあなたを見ています」
その温もりが、胸に力を与えてくれる。
――英雄と呼ばれることに値するかどうか、試される時が来る。
陰謀と闇が迫る中で、俺は改めて誓った。
「必ず守る。どんな罠でも、仲間と共に打ち破ってみせる」
夜空の彼方、闇堕ちした勇者アランが赤い瞳で王都を見下ろしていた。
「待っていろ、レオン……お前を民の前で叩き潰し、英雄の座を奪い返す」
――王都を揺るがす第二の大戦が、静かに幕を開けようとしていた。




