第24話 戦後の光と、忍び寄る闇
王都を襲った総力戦から一夜。
街にはまだ煙の匂いが残り、瓦礫と血の跡がそこかしこに広がっていた。
それでも人々の表情には絶望ではなく、生への安堵と希望が宿っていた。
「英雄様が守ってくれた!」
「レオン様に感謝を!」
「この国の希望だ!」
瓦礫の片付けを手伝う俺に、村人や兵士たちが次々と声をかけてくる。
その声は温かく、心を震わせた。
――だが同時に、胸の奥に冷たい重石のような責任感も膨らんでいた。
◇
その日の午後、俺たちは再び王城に呼ばれた。
玉座の間には国王と議会の重鎮たちが集まり、空気は重く張り詰めていた。
「よくぞ王都を守った」
国王の声は重く、だが確かな誇りを帯びていた。
「勇者が闇に堕ちた今、王国を支えるのはそなたたち三人……いや、四人だ。レオン、アリシア、リリア、ソフィア」
その名を並べて呼ばれた瞬間、胸が熱くなった。
俺はただの雑用係として扱われていたはずだ。それが今は、王国の柱の一人として認められている。
「……ゆえに」
王は続ける。
「レオンよ、そなたに“王国戦略顧問”の役職を与える。軍政・外交の場にも出席し、国の進路を導け」
ざわめきが広がった。
議員の中には明らかに不満そうな顔をする者もいる。
だが王は意に介さず、玉座から俺をまっすぐに見据えていた。
「……俺が、国の進路を……」
その責任の重さに足が震えそうになった。
だが隣でアリシアが力強く頷き、リリアが冷静に微笑む。ソフィアも祈りのような眼差しを向けていた。
――支えてくれる仲間がいる。
俺は深く息を吸い込み、答えた。
「……謹んで拝命いたします。俺は必ず、この国と人々を守り抜きます」
玉座の間に拍手が広がり、兵士たちが「英雄!」と声を上げた。
◇
その夜。
広場では臨時の祭りが開かれ、人々は歌い踊り、疲弊した心を慰めていた。
子どもたちは俺の名を叫び、大人たちも杯を掲げて「レオンに栄光を!」と唱和する。
胸が熱くなりながらも、心の奥にはわずかな違和感が残っていた。
――この喝采は、果たしてどこまで続くのだろうか。
アリシアが隣で囁く。
「民はあなたを信じているわ。けれど、信頼は試されるもの。……次の戦で、また証明しなければならない」
リリアも冷静に告げる。
「そして、その裏では必ず陰謀が動いている。英雄を祭り上げるほど、敵は牙を研ぐ」
その言葉通り、王都の片隅。
薄暗い館の中で、貴族派閥の者たちが集まっていた。
「民衆は完全に奴に靡いた」
「このままでは王国は“補助術師のもの”になる」
「ならば……崩すしかない。英雄の仮面を剥ぎ取るのだ」
彼らの前に、漆黒のオーラを纏った影が現れる。
――勇者アラン。
赤い瞳を燃やし、狂気の笑みを浮かべていた。
「レオン……次は王都を血で染め、お前を絶望の底に叩き落としてやる」
その声が夜闇に溶け、冷たい風が王都を撫でていった。