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第23話 王都総力戦の幕開け

 夜明けと同時に、王都の東門に不穏な轟音が響き渡った。

 地面が揺れ、兵士たちの悲鳴が広がる。

 見張り台に駆け上がった俺の目に飛び込んできたのは、闇に染まった軍勢の大波だった。


 魔物の群れが黒い霧を纏いながら地平線まで続き、その先頭に立つのは、漆黒のオーラを纏った勇者アラン。

 その瞳は赤く輝き、もはや人の理性の欠片すら残っていない。


「……来たな」

 俺は拳を握りしめた。

 アリシアが剣を抜き、横で声を張り上げる。

「全軍、戦闘準備! 民を守れ!」


 リリアが高台に立ち、杖を掲げる。

「〈魔力探査〉……数は三千以上。……本格的な戦だわ」


 ソフィアは祈りを捧げ、兵士たちの間を歩きながら声を届ける。

「恐れることはありません。神は皆さんと共にあります!」


 兵士たちの震える膝が少しずつ踏みとどまり、士気が上がる。

 だがその視線は、俺にも向けられていた。

「レオン様がいる! 英雄が共に戦ってくださる!」

「なら負けるものか!」


 ……逃げ道は、もうどこにもない。

 俺は深く息を吸い、仲間の背に声を投げた。

「行くぞ! 俺が全員を支える!」


「〈補助術・広域強化結界〉!」


 眩い光が王都の兵士たちを包み込み、身体が軽くなった兵士たちが驚きの声を上げる。

「すごい……体が動く!」

「これなら戦える!」


 アリシアが先頭に立ち、剣を振るう。

「王都を守れ!」


 戦端が開かれた。


 ◇


 魔物の群れが押し寄せ、兵士たちが応戦する。

 アリシアは最前線で剣を振るい、次々と敵を斬り伏せる。

 リリアの魔法陣から雷撃が放たれ、黒い軍勢を一網打尽にする。

 ソフィアの癒しの光が後方の兵を支え、戦線は辛うじて維持されていた。


 だが、アランが動いた瞬間、その均衡は崩れた。

 漆黒の大剣が振り下ろされると、数十人の兵士がまとめて吹き飛ばされる。

 結界を張っていた俺の身体にも衝撃が走り、喉を焼くような痛みを覚えた。


「ぐっ……これが、アランの力……!」


「レオン!」

 アリシアが駆け寄る。

 だが俺は歯を食いしばり、光を広げた。

「まだ大丈夫だ! 守るって決めたんだ!」


 再び結界を張り直し、兵士たちを立ち上がらせる。

 その姿を見た民衆が、城壁の上から叫んだ。

「レオン様! 英雄レオン様!」

「我らを導いてくれ!」


 その声が胸を突き動かす。


「アラン!」

 俺は前に出て叫んだ。

「お前がどんなに闇に堕ちても、俺はお前を止める!」


 アランの赤い瞳がぎらりと光り、低い声が響いた。

「止められるものか……英雄の座は、この俺のものだ!」


 彼が大地を蹴った瞬間、漆黒の閃光が俺を狙って突き刺さる。

 俺も両手を広げ、光を解き放った。

「〈補助術・相互共鳴〉!」


 アリシアの剣とリリアの雷撃、ソフィアの聖光が俺の術で一つに結びつき、巨大な光の奔流となってアランを迎え撃った。


 轟音が響き、夜明けの空が白く輝く。


 城壁の上から民衆が歓声を上げ、兵士たちの士気がさらに高まる。

 だが、アランは膝をつきながらもなお笑っていた。


「……面白い。だが、次こそ貴様を殺す」


 そう吐き捨てると、闇の軍勢を連れて後退していく。

 戦いは終わっていない。

 だが――この日、俺たちは確かに王都を守り抜いた。


 ◇


 戦の後、瓦礫の中で人々が俺を囲む。

「レオン様がいたから生き延びられた!」

「英雄だ! 本物の英雄だ!」


 その声は大地を揺らすほど大きく、否応なく胸に響いた。

 だが同時に、心の奥で重さも増していく。

 ――この期待を裏切ることはできない。

 英雄として、支え続けるしかないのだ。


 俺は静かに仲間たちを見回した。

 アリシアが剣を収めて微笑み、リリアが冷静に頷き、ソフィアが涙を浮かべて祈っている。


 ――この仲間と共に。

 どんな闇が来ようとも、俺は守り抜く。

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