第21話 王都動揺、闇に堕ちた勇者
南部の村を守った俺たちは、急ぎ王都へ戻った。
その道中、アランの姿が何度も脳裏に浮かんだ。
――闇に呑まれた瞳。
かつて共に戦った仲間が、あんな化け物のようになってしまうなんて。
「……レオン」
隣を歩くアリシアが声をかけてくる。
「あなたは彼を責めてはいないのね」
「責める気には……なれない。俺を追放したことは、今でも許せない。でも、あんな姿になるほど追い詰められていたのなら……」
言葉を切ると、リリアが冷ややかに口を挟んだ。
「同情は禁物です。闇堕ちは不可逆。理性は失われ、己の欲望しか残らない。今のアランは“勇者”ではなく、“魔族の尖兵”です」
ソフィアは俯き、祈るように呟いた。
「それでも……最後の一欠片に、彼本来の心が残っているかもしれません」
俺は答えられず、拳を握りしめた。
◇
王都に到着すると、すぐに王城へ呼ばれた。
玉座の間には国王、議会の議員たち、そして宮廷の重鎮たちが揃っていた。
緊張感の中、俺は一歩前に進み出て、告げた。
「――勇者アランは、闇堕ちしました」
広間がざわめきに包まれる。
「なんということだ……!」
「神に選ばれし勇者が……魔王軍に……」
国王は重々しく目を閉じ、低く呟いた。
「……この事実、王国の根幹を揺るがすぞ」
ある議員が立ち上がり、俺を指差した。
「しかし、その報せをもたらしたのはレオン殿のみ! 本当に真実なのか!? 民を惑わす虚言ではないのか!?」
反論が上がり、空気が張り詰める。
その時、アリシアが前に出て声を張り上げた。
「私も見ました。アランは黒い瘴気を纏い、理性を失っていました」
リリアも続く。
「彼は魔結晶を受け入れ、人間を超える力を得ていた。学者としても断言します。――勇者アランは、もう人間ではありません」
そしてソフィアが祈るように告げた。
「私は聖女として誓います。レオン殿の言葉は真実。神は彼を選び、導いています」
その三重の証言に、議場のざわめきは沈んでいった。
国王は深く頷き、俺を見据えた。
「レオン。もはやそなたは勇者の従者ではなく、王国を支える柱の一人だ。よって、そなたを“王国騎士補佐長”に任じる」
広間に驚きの声が走る。
俺は思わず息を呑んだ。
「お、王国……騎士補佐長……?」
王は厳かに続けた。
「勇者が闇に堕ちた今、民はそなたを英雄と仰いでいる。その信頼を裏切ることなく、王国を導いてほしい」
膝が震えそうになる。
だが、もう迷うわけにはいかない。
俺は深く頭を下げ、力強く答えた。
「……はっ! 全力を尽くして、この国と仲間を守ります!」
民衆の前で雑用係と呼ばれていた俺が、今は王国の柱の一人に任じられた。
だがその影で、議場の隅に座る貴族派閥の者たちが、憎悪の瞳でこちらを睨んでいた。
――アランの闇堕ち、そして俺の台頭。
王国は、新たな嵐の中に踏み込んでいく。