表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/30

第21話 王都動揺、闇に堕ちた勇者

 南部の村を守った俺たちは、急ぎ王都へ戻った。

 その道中、アランの姿が何度も脳裏に浮かんだ。

 ――闇に呑まれた瞳。

 かつて共に戦った仲間が、あんな化け物のようになってしまうなんて。


「……レオン」

 隣を歩くアリシアが声をかけてくる。

「あなたは彼を責めてはいないのね」


「責める気には……なれない。俺を追放したことは、今でも許せない。でも、あんな姿になるほど追い詰められていたのなら……」

 言葉を切ると、リリアが冷ややかに口を挟んだ。

「同情は禁物です。闇堕ちは不可逆。理性は失われ、己の欲望しか残らない。今のアランは“勇者”ではなく、“魔族の尖兵”です」


 ソフィアは俯き、祈るように呟いた。

「それでも……最後の一欠片に、彼本来の心が残っているかもしれません」


 俺は答えられず、拳を握りしめた。


 ◇


 王都に到着すると、すぐに王城へ呼ばれた。

 玉座の間には国王、議会の議員たち、そして宮廷の重鎮たちが揃っていた。

 緊張感の中、俺は一歩前に進み出て、告げた。


「――勇者アランは、闇堕ちしました」


 広間がざわめきに包まれる。

「なんということだ……!」

「神に選ばれし勇者が……魔王軍に……」


 国王は重々しく目を閉じ、低く呟いた。

「……この事実、王国の根幹を揺るがすぞ」


 ある議員が立ち上がり、俺を指差した。

「しかし、その報せをもたらしたのはレオン殿のみ! 本当に真実なのか!? 民を惑わす虚言ではないのか!?」


 反論が上がり、空気が張り詰める。

 その時、アリシアが前に出て声を張り上げた。

「私も見ました。アランは黒い瘴気を纏い、理性を失っていました」


 リリアも続く。

「彼は魔結晶を受け入れ、人間を超える力を得ていた。学者としても断言します。――勇者アランは、もう人間ではありません」


 そしてソフィアが祈るように告げた。

「私は聖女として誓います。レオン殿の言葉は真実。神は彼を選び、導いています」


 その三重の証言に、議場のざわめきは沈んでいった。


 国王は深く頷き、俺を見据えた。

「レオン。もはやそなたは勇者の従者ではなく、王国を支える柱の一人だ。よって、そなたを“王国騎士補佐長”に任じる」


 広間に驚きの声が走る。

 俺は思わず息を呑んだ。

「お、王国……騎士補佐長……?」


 王は厳かに続けた。

「勇者が闇に堕ちた今、民はそなたを英雄と仰いでいる。その信頼を裏切ることなく、王国を導いてほしい」


 膝が震えそうになる。

 だが、もう迷うわけにはいかない。

 俺は深く頭を下げ、力強く答えた。

「……はっ! 全力を尽くして、この国と仲間を守ります!」


 民衆の前で雑用係と呼ばれていた俺が、今は王国の柱の一人に任じられた。


 だがその影で、議場の隅に座る貴族派閥の者たちが、憎悪の瞳でこちらを睨んでいた。

 ――アランの闇堕ち、そして俺の台頭。

 王国は、新たな嵐の中に踏み込んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ