第20話 激突、闇堕ち勇者
闇夜の村外れ。
黒い瘴気を纏ったアランが剣を振り下ろした瞬間、大地が裂けるような衝撃が走った。
その力は、以前の彼の比ではない。
「くっ……! あれが、魔結晶の力……!」
アリシアが受け止めるが、腕に痺れが走り、膝が沈む。
リリアが歯を食いしばりながら呪文を紡ぐ。
「〈雷鎖連撃〉!」
雷の鎖がアランの体を絡め取る。だが、黒い瘴気が瞬時にそれをかき消した。
「無駄だ……!」
アランの赤い瞳がぎらつく。
「俺はもう、かつての勇者ではない。闇の力を得た、真の英雄だ!」
その言葉に、村人たちが悲鳴を上げて後退する。
ソフィアが必死に祈りを捧げ、村人を守る結界を張る。
「……どうか、これ以上彼を苦しませないで……!」
だが俺は知っていた。
今のアランを止めなければ、村も人もすべて滅ぶ。
「〈補助術・防御共鳴結界〉!」
俺は叫び、アリシアとリリアを光で包む。
だがアランの一撃は結界すらきしませる。
「ぐっ……! このままじゃ押し切られる……!」
胸の奥が焦げるように熱くなった。
――守りだけじゃ足りない。
仲間を活かすためには、もっと踏み込まなければ。
俺は新たな詠唱を紡いだ。
「〈補助術・力動共鳴〉!」
光の波がアリシアとリリアを結び、互いの力を循環させていく。
アリシアの剣筋が鋭さを増し、リリアの魔法がさらに爆ぜる。
二人の力が掛け算のように重なり、闇に立ち向かう一撃となった。
「はあああっ!」
アリシアの剣閃と、リリアの雷撃が同時にアランを襲う。
爆発的な衝撃が夜空を裂き、黒い瘴気が霧散した。
「……っ、ぐぅ……!」
アランが膝をつき、血を吐く。
「やった……?」
村人の間から安堵の声が漏れた。
だが次の瞬間、アランは笑った。
「フフ……ハハハ……これで終わると思うな」
彼の身体を黒い瘴気が再び覆い、傷を塞いでいく。
「この力さえあれば、俺は無限に立ち上がれる! レオン、お前を必ず叩き潰す!」
その瞳には憎悪だけが燃えていた。
やがてアランは魔物の群れを呼び寄せると、退却の合図を送る。
「待て、アラン!」
俺が叫んだが、黒い霧が一帯を覆い、姿は闇に溶けて消えていった。
静寂が戻り、村人たちのすすり泣きが響く。
アリシアが剣を納め、俺の肩に手を置いた。
「……彼はもう、勇者じゃない。完全に闇に呑まれている」
リリアが険しい顔で言った。
「次に現れたときは、今以上の脅威になっているでしょう」
ソフィアは涙をこぼし、祈るように呟いた。
「アラン……あなたは本当は、優しい人だったのに……」
俺は拳を握りしめ、心に誓った。
「必ず止める。彼がどんなに闇に堕ちても……俺が、終わらせる」
――英雄と呼ばれた雑用係と、闇に堕ちた勇者。
二人の道は、もう避けられぬ決戦へと進んでいた。