第18話 三度目のざまぁ、崩れる勇者の威光
夕暮れの村の広場に、勇者アラン一行と貴族派閥の兵がずらりと並んだ。
村人たちは怯え、俺たちを守るように後ろに集まる。
アランはゆっくりと歩み出て、声を張り上げた。
「村人たちよ、聞け! この男――レオンは、己の功績を誇張し、王都で英雄を気取っている詐欺師だ!」
ざわめきが広がる。
バルトが続ける。
「王女殿下や宮廷魔導師、そして聖女までをたぶらかして、自分を英雄に仕立て上げたのさ!」
エリスが冷笑を浮かべる。
「補助術など、誰でもできる。彼にしかできないことなど何一つないわ」
マリナは芝居がかった声で告げる。
「この男が王国を混乱させている。今ここで裁かねばならない!」
村人たちが息を呑む。
だがその視線は俺を疑うものではなく、逆に不安げに勇者たちを見つめていた。
――俺が王都で何をしたか、彼らは知っている。
「ふざけないで!」
アリシアが一歩踏み出し、剣を突きつけた。
「彼がいなければ王都は滅んでいた! それを見ぬふりして罵るなんて、勇者の名が泣くわ!」
リリアも冷徹な声を重ねる。
「事実を歪めるのはやめなさい。彼が生み出した結界術は、前例のない新術式。無知を恥じるべきはあなたたちです」
ソフィアもまた、静かに祈りの言葉を紡ぐ。
「私は神に誓います。レオン殿は真の英雄。彼を貶めることは、神をも欺く罪です」
村人たちがざわめき、やがて声を上げた。
「俺たちは見たぞ! レオン様が魔物から守ってくれた!」
「英雄は勇者じゃない、レオン様だ!」
その声は雪崩のように広がり、勇者たちの非難をかき消していった。
アランの顔が怒りで歪む。
「黙れ……黙れぇっ!」
彼が剣を抜き、俺に向かって突き出した瞬間――。
「〈補助術・防御共鳴結界〉!」
俺は反射的に術を展開した。
光の壁が現れ、アランの剣を弾き返す。衝撃で彼は後ろに倒れ込み、土埃を上げた。
「なっ……!」
村人たちが息を呑む。だがすぐに、歓声に変わった。
「見たか! 勇者の攻撃すら通じない!」
「やはりレオン様が本物だ!」
アランの顔が真っ赤になり、歯ぎしりの音が聞こえる。
バルトたちも口ごもり、貴族派閥の兵は後ずさった。
俺はゆっくりと立ち上がり、村人たちに聞こえるように声を張り上げた。
「俺は英雄になりたくて戦っているんじゃない。ただ仲間を、そして民を守るために立っているだけだ!」
沈黙の後、広場は割れんばかりの歓声に包まれた。
アリシアが誇らしげに微笑み、リリアも静かに頷く。ソフィアは祈るように目を閉じ、俺に優しい笑みを向けた。
――三度目のざまぁは、こうして果たされた。
勇者たちは人々の前で完全に権威を失い、貴族派閥の影響力も崩れ始めていた。
だが、俺の胸には不安が残る。
敵はここで終わらない。陰謀はさらに深く、闇の中で蠢いている。
そしてその夜。
森の奥で倒れ込むアランの前に、黒衣の影が現れた。
「力が欲しいか?」
低い声が囁く。
「英雄の座を奪い返したくば、我らに従え」
アランの瞳に、狂気の炎が宿る。
――新たな災厄が、静かに目を覚まそうとしていた。