表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/27

第17話 聖女の祈り、揺れる光

 王都を発って二日。

 俺たちは南部の村へとたどり着いた。だが、目に映ったのは穏やかな農村の姿ではなく、荒れ果てた家々と怯えた人々の群れだった。


「……魔物の襲撃があったのね」

 アリシアが剣の柄に手を置き、村人たちに駆け寄る。

「大丈夫ですか?」


 ひとりの老女が震える声で答えた。

「はい……ですが、村はもう……。魔王軍の影が夜ごとに現れ、私たちは逃げ惑うしか……」


 俺が結界を展開すると、村人たちが目を見開いた。

「……あの方だ。王都を救った英雄様だ!」

「レオン様が来てくださった!」


 その声が広がり、怯えていた人々の顔に光が戻っていく。

 胸の奥が熱くなった。俺が、希望を与えられている。


 ◇


 その時だった。

 教会の鐘が鳴り、白い衣を纏った女性が現れた。

 金糸のような髪、慈愛に満ちた微笑み。

 彼女こそ、王国において「聖女」と呼ばれる存在――ソフィアだった。


「……レオン殿ですね」

 柔らかな声が、まっすぐに俺を射抜く。

「王都を救い、民を守ったと聞きました。神はあなたを導いています」


 アリシアが驚きの声を漏らす。

「ソフィア……なぜここに?」


「村人の救済を命じられて来ました。そして同時に――」

 彼女は祈りの手を胸に重ね、俺に微笑んだ。

「あなたと出会うために」


 心臓が大きく跳ねた。

 その言葉は甘く、だが真剣で、俺の存在を確かに肯定していた。


「私は聖なる癒しを授かる身。けれど戦場では、私一人の力では足りません。……だから、あなたに支えてほしいのです」


 まっすぐに差し伸べられたその手を見つめ、言葉を失った。

 アリシアが一歩踏み出し、声を強める。

「待って。レオンは私の仲間よ。あなたに渡すわけには――」


 リリアも冷ややかに告げる。

「聖女様。彼は研究対象としても重要な存在です。軽々しく“支えてほしい”などと言うのは聞き捨てなりません」


 ――まただ。

 王女、魔導師、そして聖女。三人の才媛が、俺を中心に睨み合う。

 胸がざわめき、息が詰まる。


「……俺は」

 言いかけたその時、遠くで轟音が響いた。

 村の外れ、森の方角から黒煙が上がる。


「魔物だ!」

 村人の悲鳴が走る。


 俺たちはすぐさま武器を構え、駆け出した。

 森の中から現れたのは、黒い紋章を刻まれた魔族兵たち。だがその装備には、人間の鍛冶師の技術が使われていた。


「……やはり、貴族派閥が絡んでいる」

 リリアの声が冷たくなる。


 アリシアが剣を構え、俺に視線を送った。

「レオン、支えて!」

「任せろ!」


「〈補助術・連鎖強化〉! 〈補助術・共鳴連結〉!」


 アリシアが斬り込み、リリアが雷を放ち、そして――。

「〈聖なる祝福〉!」

 ソフィアの光が俺たちを包み、傷を瞬時に癒す。


 三人の力が交わり、敵は次々と崩れ落ちていった。


 ◇


 戦いが終わると、村人たちが歓声を上げた。

「聖女様と英雄様が共に戦ってくださった!」

「これで村は救われる!」


 ソフィアが俺に歩み寄り、真剣な瞳で告げる。

「レオン殿。私は確信しました。あなたこそ、この国を導く光です。……どうか、私と共に歩んでください」


 その言葉に、アリシアとリリアが同時に息を呑む。

 三人の視線が交錯し、空気が張り詰めた。


 だが、その緊張を嘲笑うかのように、遠くから角笛の音が響いた。

 村の西側から現れたのは、勇者アランとその一行。そして背後には、あの貴族派閥の紋章を掲げた兵士たちだった。


「……やっと見つけたぞ、レオン」

 アランの瞳に宿るのは、憤怒と嫉妬。

「ここでお前を、英雄から引きずり下ろしてやる」


 ――陰謀は、ついに表舞台に姿を現した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ