第15話 王都急襲、守るべきもの
夜空を焦がす炎が、王都の街並みを朱に染めていた。
鐘の音が鳴り響き、民の悲鳴が重なる。窓の外には、黒い影が次々と飛び込んでくる。
「魔王軍……!? なぜ王都にまで!」
アリシアが剣を抜き、リリアはすぐさま呪文を唱え始める。
俺もすぐに外へ飛び出した。通りには既に混乱が広がり、炎に照らされた街道を、漆黒の鎧を纏った魔物たちが蹂躙していた。
だが、その鎧に刻まれた紋章を見て、俺は息を呑んだ。
「……あの紋章……」
つい数日前、暗殺者の袖で見たものと同じ。
――これは単なる魔王軍の襲撃じゃない。王都の内部、貴族派閥が関与している。
「レオン!」
悲鳴が聞こえた。倒れた市民の上に、魔物の槍が振り下ろされる。
反射的に叫ぶ。
「〈補助術・防御共鳴結界〉!」
光の壁が瞬時に展開され、槍を弾き返す。市民が目を見開き、震える声で言った。
「……助かった……レオン様が……!」
胸に熱が灯る。俺は剣を振れない。だが、支えることならできる。守ることならできる。
「アリシア! 右から三体!」
「任せて!」
補助術で身体強化したアリシアが疾風のように駆け、魔物たちを斬り伏せていく。
リリアの呪文が完成し、炎の鳥が夜空を舞って群れを焼き払った。
「市民を守るのが最優先です! レオン、範囲結界を!」
「わかった!」
「〈補助術・広域防御結界〉!」
街区一帯を包み込む光の壁が展開され、避難する人々を守る。
母親に抱かれた子どもが涙を拭いながら、俺を見上げて言った。
「ありがとう、レオンさま!」
――俺はもう、“無能な雑用係”じゃない。
◇
戦闘の最中、敵の指揮官らしき魔族が姿を現した。
だがその隣に立っていたのは、人間の兵士だった。
見覚えのある紋章――やはり議会で俺を敵視していた貴族派閥のものだ。
「なぜ人間が……!」
アリシアが怒りの声を上げる。
「裏切ったのね……!」
リリアの目が冷たく光る。
「魔王軍に手を貸し、王都を混乱させて自分たちの権力を守ろうとしている……愚か者たちです」
俺は奥歯を噛み締めた。
敵は魔王軍だけじゃない。人間の中にも、俺を、いやこの国を脅かす者がいる。
「……俺が守る。誰であろうと」
再び補助術を紡ぐ。
「〈補助術・連鎖強化〉! 〈補助術・感覚加速〉!」
アリシアとリリアが同時に動き出し、魔族と裏切り者の兵士たちを圧倒していく。
俺は結界を広げ、市民の避難を守り続けた。
◇
夜が明ける頃、炎は鎮火し、襲撃者たちは退けられていた。
街は傷ついたが、多くの民が無事に生き延びた。
「レオン様のおかげで助かった!」
「英雄だ! 本物の英雄だ!」
民衆の歓声が響き渡り、俺は言葉を失った。
アリシアが隣で微笑み、リリアも小さく頷く。
二人の存在があったからこそ、俺は立てた。
だが同時に、胸に冷たいものが残っていた。
――王国の中に、敵がいる。
民の喝采が高まるほど、裏切り者たちの憎悪は深まる。
英雄として祭り上げられる影で、俺に向けられる刃はさらに鋭さを増していた。