第13話 議会の裁き、英雄の座を巡る声
王城の奥、王国議会の大広間。
高い天井には王家の紋章が掲げられ、円卓の周りに議員たちがずらりと並んでいた。
その中央に立たされた俺は、まるで晒し者のように無数の視線を浴びていた。
「本日の議題は――黒鉄鉱山での戦果に関して、特別補助官レオンの功績をどう評価するか」
司会役の老議員が厳かに告げる。
すぐに立ち上がったのは、勇者アランだった。
「陛下、諸卿。まず申し上げたい。レオンはあくまで“雑用係”にすぎません。鉱山での勝利は王女殿下と宮廷魔導師リリアの力によるものであり、彼はただ運良く居合わせただけ」
その声に数人の議員が頷く。
バルトが机を叩き、さらに続ける。
「民衆が囃し立てているのは一時の熱狂にすぎません! こんな男を持ち上げれば、王国の威信を損なう!」
エリスが冷ややかに言葉を重ねる。
「王国を導くべきは勇者パーティ。従者を英雄扱いするなど、滑稽なことですわ」
マリナもため息をつき、芝居がかった声で言った。
「議会での無駄話より、彼を再び雑務に戻すべきでしょう」
嘲笑混じりの声が広がる。
胸の奥がざわつくが、以前のように震えることはなかった。
――今の俺には、信じてくれる仲間がいる。
「黙りなさい!」
鋭い声が議場を切り裂いた。
アリシアが立ち上がり、堂々と宣言する。
「鉱山の幹部を斃したのは事実。レオンの補助術があったからこそ、私は剣を振るえた。彼を無能と罵るのは、王国の勝利を否定するのと同じよ!」
リリアも続ける。
「学者として断言します。レオンの補助術は既存の体系を超越している。強化、加速、共鳴、防御――すでに複数の新術式を確立しつつある。無知を理由に軽視するのは、愚か以外の何物でもありません」
議場にどよめきが走る。
だが、勇者たちは食い下がらない。
「証拠があるのか!」
アランが吠える。
「口先だけで英雄を気取るな! 俺たち勇者パーティこそ、幾多の戦場で戦ってきたんだ!」
その瞬間、議場の扉が開いた。
入ってきたのは、市場の商人や兵士、そして鉱山から救出された村人たちだった。
「証拠ならここにあります!」
一人の兵士が声を張り上げた。
「幹部の大剣を防ぎきったのはレオン殿の結界でした! あの瞬間、我々は命を救われたのです!」
村人たちも口々に叫ぶ。
「王女殿下が戦えたのは、彼の補助のおかげだ!」
「我らの英雄は、勇者ではなくレオン殿だ!」
その声に、議場が揺れた。
アランの顔が青ざめ、バルトの額に汗がにじむ。
王はゆっくりと立ち上がり、厳かに告げた。
「……民の声を無視することはできぬ。特別補助官レオン、その功績は王国の未来を導くものである。よって、改めてその地位を正式に認める」
堂々たる宣言に、議場の多くが拍手で応えた。
アリシアが満足げに微笑み、リリアは静かに頷く。
俺は深く頭を下げ、震える声で答えた。
「……ありがとうございます。俺は、これからも仲間を支え、この国を守るために力を尽くします」
――第二のざまぁは、こうして果たされた。
勇者たちの顔に浮かぶ屈辱の色を見ながら、俺は心に誓う。
もう二度と、誰にも無能とは言わせない。
だがその一方で、議場の隅で密かに交わされる視線があった。
陰に潜む一部の貴族たちが、何事かを囁き合っている。
その瞳には、俺への警戒と敵意が宿っていた。
――雑用係と呼ばれた俺の逆転劇。
次なる試練は、敵が魔王軍だけでなく、人間の中にも潜んでいるという現実だった。