第11話 王都の喝采と、勇者の影
黒鉄鉱山からの帰還は、想像以上に早く王都に広まっていた。
俺たちが南門をくぐると同時に、兵士や町人たちの視線が一斉に集まる。ざわめきが起こり、やがて歓声となって広がった。
「王女殿下だ!」
「宮廷魔導師リリア様まで……! 無事だったのか!」
「いや、それだけじゃない。あの青年……あれが鉱山の幹部を討伐した補助術師だ!」
自分に向けられた歓声に、思わず足が止まった。
かつては雑用係と笑われ、居場所すらなかった俺が――今は英雄のように人々に迎えられている。
「……レオン」
アリシアが隣で小さく微笑んだ。
「誇っていいのよ。あなたの力で、王国は救われたのだから」
リリアも頷き、冷静な声で付け加える。
「事実として、幹部級の撃破は歴史に残る成果です。あなたはそれに不可欠だった。記録にも名が刻まれるでしょう」
胸の奥が熱くなる。
俺は、確かに認められている。
◇
だが、宮殿に呼ばれた時、空気は一変した。
玉座の間で待ち構えていたのは、王と、その隣に立つ勇者アランたちだった。
「王女よ、よくぞ戻った」
国王の声は威厳に満ちていた。
「そして……聞いているぞ。鉱山に潜む魔王軍の幹部を討伐したそうだな」
アリシアが一歩進み出て、恭しく頭を下げる。
「はい。レオンの補助があったからこそ、勝利を得られました」
その名が出た瞬間、勇者アランの顔がわずかに歪んだ。
彼はかつて俺を追放した張本人だ。
「……王よ。確かに鉱山の件は称賛に値しますが、これは殿下の剣と宮廷魔導師の魔法があってこそ。補助術師など、おまけにすぎません」
バルトがあざ笑うように続ける。
「そうだぜ。俺たちが育てたからこそ、多少は戦えるようになったんだ」
その言葉に、胸がかっと熱くなる。だが、言い返すより早くアリシアが声を張り上げた。
「違う! 彼がいなければ、私たちはあの幹部に殺されていた。雑用係と呼んだのはお前たちの目が曇っていただけだ!」
玉座の間に緊張が走る。
リリアも冷たい声で言葉を重ねた。
「王よ、私は学者として断言します。彼の補助術は未知の領域に達している。従来の枠組みで“無能”と片付けることは、国にとって大きな損失です」
国王は顎に手を当て、しばし沈黙した。
やがて低く言い放つ。
「……レオンよ。そなたを“特別補助官”に任じる。王国直属の役職だ。これからはアリシアと共に働き、国を支えよ」
ざわめきが広がる。
勇者たちの顔は蒼白になり、視線が俺に突き刺さった。
俺は深く息を吸い込み、頭を下げる。
「……ありがたき幸せに存じます。ですが、俺はただ仲間を支えたいだけです。これからも、王女殿下とリリアと共に戦います」
堂々とした言葉に、玉座の間の空気が震えた。
俺はもう、かつてのように黙って耐えるだけの雑用係じゃない。
アランが歯ぎしりをする。
「……クソッ……」
その声は小さかったが、確かに聞こえた。
――勇者の矜持を踏みにじる新たな火種が、ここに生まれた。