第1話 雑用係、クビになる
「レオン。お前は今日限りでパーティを追放だ」
その一言は、あまりにも唐突で、そして残酷だった。
勇者パーティの一員として、俺は二年もの間、仲間たちのために身を粉にして働いてきた。戦闘では剣を振るえず、魔法も扱えない。だが、代わりに食料の管理、装備の修繕、ダンジョンの地図作成、怪我人の看護と……いわば“雑用”をすべて引き受けてきたのだ。
勇者アランは冷たい瞳をこちらに向けた。
「正直、お前のスキルなんて役に立たない。剣も振れず、魔法も撃てず、ただチマチマと小細工をするだけ。そんな無能を背負って、俺たちが魔王を倒せると思うか?」
仲間たちの笑い声が耳に刺さる。剣士のバルトは鼻で笑い、僧侶のマリナは露骨にあくびをした。
胸が締め付けられる。だが、俺には言い返す言葉がなかった。
――万能補助スキル。
それが俺の唯一の能力。
仲間の力を底上げするスキルだが、発動条件が複雑で、数値としてわかりにくい。彼らから見れば、“何もしていない”ようにしか見えなかったのだろう。
「おい、さっさと荷物をまとめろ。次の街までの馬車に乗せてやる」
冷たく突き放され、俺はパーティから追い出された。
夕暮れの街道。背に背負った鞄は軽いのに、心は鉛のように重かった。
二年間の努力が、たった一言で否定されたのだ。
足取りは重く、視界は滲む。
――これから、俺はどうすればいい?
そんな絶望に沈んでいた、その時。
「……あなたが、レオン?」
不意に、澄んだ声が耳に届いた。
顔を上げると、そこには月光を背にした一人の女性が立っていた。
銀の髪が風に揺れ、鋭い剣を腰に下げている。その姿はただ者ではない。
彼女は一歩近づき、真っ直ぐに俺を見つめて言った。
「私はアリシア。王国第一王女にして、王家の剣を継ぐ者。あなたの〈万能補助スキル〉を探していました」
心臓が跳ねる。なぜ、この人が俺のスキルを知っている?
「勇者たちは愚かね。自分たちを影で支えていた存在を見抜けなかったなんて。……レオン。私の剣は強い。けれど、それだけでは足りない。あなたが必要なの」
アリシア王女の瞳は真剣だった。
俺をただの“雑用係”と笑った彼らとは違う。
俺という存在を必要としてくれる、その視線。
胸の奥で、長くくすぶっていた炎が再び灯るのを感じた。
そうだ。俺の力は無駄じゃない。
誰かを支えるために、俺は生きている。
「……俺なんかで、本当にいいんですか」
「ええ。私が保証する。あなたは、最強の補助者だわ」
王女の手が差し伸べられる。
その手を取った瞬間、俺の運命は音を立てて変わり始めた。
勇者たちに捨てられた“雑用係”は、王女に求められた。
ここから始まるのは、俺自身の逆転劇だ。