はじめての対面
「あまり乗り気じゃなかったから不安に思っていたが、思った通りか……」
「どうしましょうあなた…… 凰条様に直前で行けませんなんて言えっこないわ……」
重苦しい沈黙がただよう。
約束の日の今日、数時間前に行けないなどと伝えたら、相手は気を悪くするだろう。
お父様はそれをなんとしてでも避けたいと思っている。
「もう仕方ない……」
お父様はそうつぶやくと私の方を見た。
「澪、代わりにお前が行きなさい」
「えっ、でも……」
私は愕然と父を見上げた。
「凰条家の縁談を断るなんて豪語道断だ。幸いお前たちは双子だ。お前は出来損ないだが、顔は零にそっくりなのだから、バレることはないだろう。零のフリをして縁談に参加しなさい」
「そ、そんな……」
「いいから準備をするんだ!」
「待ってください……っ、騙して縁談をするなんて」
「めぐみさん、澪に着物を着せてちょうだい」
私の返事を聞くことなく、お母様はめぐみさんに言う。
私の意見は誰にも聞かれず、零お姉様用に用意された派手な赤い着物を着せられることになった。
どうしてこんなことに……。
零のフリをして縁談をしないといけないなんて、相手にも失礼なこと。
そんなことをバレずにやり遂げろなんて……。
車の準備が出来たとめぐさんから言われ、家を出ようとした時、私のスマホが鳴った。
それはお姉様からだった。
「もしも……」
そこまで言った時、零お姉様はバカにした口調で言った。
「良かったじゃない、久しぶりに家を出られて」
「お姉様……みんなが探しています……今すぐに戻れば縁談にも間に合うかもしれません」
「行くわけないでしょ?権力があってもブ男なんてごめんよ。私にはもっといい旦那様がいるの。だからブ男はあなたに譲ってあげる」
「譲るって……そんなこと許されません。凰条様は零お姉様を所望していたのに……」
「澪にお似合いじゃない?金に汚くて冷徹なブ男なら、出来損ないのあなたも愛してもらえるかもよ?」
──ズキン。
零お姉様の言葉はいつも私の心をえぐる。
お姉様は私にそれだけを残すと、電話を切ってしまった。
それから車に乗せられ私は縁談へと連れていかれた。
「いい、澪。出来るだけ気に入られるように努めなさい」
「はい……」
「変な行動はとるんじゃないぞ!」
「分かりました」
車の中では、くれぐれも変な真似をしないようにと念をおされた。
そして車が待ち合わせの場所につく。
お店の中に入ると、奥の部屋の個室の襖が静かに開いた。
私は着物の裾を軽く押さえながら、一歩足を踏み入れた。
そこは、格式ある日本料亭の個室だった。
柔らかな間接照明が和紙の灯りを透かし、静謐な空気が漂っている。
手入れの行き届いた庭園が見える大きな窓があり、そこからひんやりとした夜風がそっと流れ込んでいた。
そして、その中央。
背筋を伸ばし、穏やかに座していた男性が、私に目を向けた。
──ドキン。
思わず、息を呑む。
この人が、凰条一真さん……?