ずっと前から気づいてた【御堂零side】
う、そ……。
目の前にいたということは元々呼んでいたということ。
気づいていたのか。
全部が向こうの方が上手だった。
終わった……御堂家が終わった……。
「……ぁ、あ」
『違うんだよ、キミと澪は……双子だ、顔がそっくりだと言うが……品性からにじみ出ているものが全く違うんだ。キミにはなんの魅力も感じない。キミと澪を間違えることは今後一生ない』
私の方が、私の方が全て優れていたはずだ。
美貌も知性も品性も、全て私の方が優れているってみんなも言ってくれていた。
ねぇ、そうでしょう?
アイツがおかしいのよ。
私じゃない……。
『もしはじめて会ったのがキミだったら俺は御堂家に縁談の話を持っていくことはなかっただろう』
そんなはずないわ。
きっと私の虜になっているはずよ。
倒れたまま立ち上がれずにいると、通行人が私を見て毒を吐く。
「お前、邪魔なんだよ!気持ちわりぃな」
目の前の男に大きな声を出される。
気持ち、悪い……?
はぁ?誰に向かって言ってるのよ。
私は御堂家の長女、零様よ?
気持ち悪いわけが……。
すると、道端のショーウィンドウに目が行く。
映り込んだ自分の姿に、私は息を呑んだ。
「……これ、私……?」
目の前に映っていたのは、髪は乱れ、化粧は崩れ目元はきつく吊り上がった顔の女だった。
化粧が落ちていたのか、ボロボロで澪が持つ、丸くてぱっちりとした目とは全然違かった……。
私……こんな顔、してたっけ……?
「違う……こんなの、私じゃない……」
私は、思わずガラスに手を伸ばした。
いつからだろう。
こんな顔になっていたのは。
昔はそっくりだって言われたんだ。
どっちがどっちか分からないって。
その時、一真さんの言葉がフラッシュバックする。
『澪である必要があって、キミである必要がないと言っているんだ』
「いや……いやだ……」
知ってたから、分かっていたから、私は澪を蹴落とし続けたんだ。
澪の方が私よりも優秀であると。
全てが私よりも上であると、とっくの昔から気づいていたんだ──。
私と澪は、同じ日に生まれた。
同じ顔、同じ声、まるで鏡に映したような双子だと周りからは言われていた。
だけど、物心ついた頃から、私は気づいていた。
澪は、私よりもずっと優れているということに。
お絵描きでも、歌でも、振舞いも性格も澪はいつだって褒められていた。
「澪ちゃんは本当にお利口さんね」
「すごいわ、こんなに上手に描けるなんて!」
「澪ちゃんの方がすきー!だって優しいんだもん!」
大人たちは、澪の頭を撫でて、優しく笑った。
でも私にかける言葉は決まって「もう少し頑張ってみようか」だった。
友達もみんな私より澪の方を選んだ。
澪の方が優しい、意地悪しない。
そんなことを口をそろえて言う。
なんで……?
私も、頑張っているのに。
どうして澪だけが褒められるの?
同じ顔をして同じ日に生まれてきたのに納得がいかない。
苛立った私は澪にあたることにした。
自分ではしゃいで転んで怪我したことを澪のせいにしてみた。
「澪が……っ、澪が突き飛ばしたの」
涙をこぼして幼稚園の先生に訴えかければ、先生はそれを信じてくれた。
「澪ちゃん、どうしてそんなことをするの!」
「違……っ」
澪が怒られている姿を見るのは気分が良かった。
ああ、そうだ。これだ。
これが正解だ。
「零ちゃんが可哀想でしょう!」
分かった。
澪を下げれば、私が上がれるんだ。
澪を陥れれば私が澪の上に立てる。
「ねえ、お母様……私、見ちゃったんだけど澪の筆箱の中にこんなものが入っていたの」
そう言って、私が入れたカンニングペーパーを取り出した。
そう。澪が頭がいいのは、勉強していたからじゃなくカンニングしていたからだと思わせればいい。
そうすれば、私は……澪の上に立つことができるのよ。
「どうしてそんなことをしたの!」
いいざま。
「……わ、わたし、そんなことしてません……ちゃんと勉強して」
「嘘つくんじゃない!」
母に怒鳴られ、澪の目に涙が滲む。
こういうことを何度も何度も繰り返し続けた結果、澪の信用は完全になくなっていった。
そうよ、これが正しいの。
こうであるべきよ。
御堂家は私が上に立たなきゃいけない。
全く顔の似ている人間はいらない。
私だけでいい。
それからは、自分の失敗も全部澪のせいにし続けた。
お父様のパソコンを勝手にイジって発注数を変えてやった時もあった。
その時は、御堂家の事業が大きく傾く事態になったけど、それも全部澪になすりつけた。
悪いことは全部が澪のせい。
いいことは私が横取りする。
澪は涙を流しながら、どうしてそんなことをするの?と尋ねてきたけれど、決してお父様とお母様に告げ口することもなかった。
まぁ、告げ口したところで澪には信用はないのだけど。
こうして完成された私の地位。
「澪は本当にどうしようもないわね……」
「お前は家で留守番してろ」
ふたりがそう言うたびに私の優越感は上がっていった。
そうよ、澪は劣等品。
いつも叱られ、隅っこで泣いているだけ。
いなくてもいい存在。
そうよ、これでいいの。
私が主役で、澪はただの脇役。
いつしか、私にとってそれが当たり前になっていた。
澪が泣くたびに、 澪が叱られるたびに、私は安心した。
私は、正しい。私は、特別。
私だけがすごいと褒めたたえられればいいの。
だから、人生だって上手くいくはずだったのに……。
『なぜキミは自分が選ばれると思っているんだ?最愛の人に危害を加える人間を好きになるわけがない。澪である必要があって、キミである必要がないと言っているんだ、いい加減分かってくれないか?』
澪の方が見染められたら……、私はどうなってしまうの?
あの時、譲らなければ良かった。
変なウワサを信じて、縁談から逃げなければ良かった。
後悔ばかりが私を支配する。
あの日の選択さえ間違えなければ……。
「澪よ……澪が悪い。全部澪が悪いの……っ」
御堂家に戻って来い!
そしたらもう一度、あなたをズタボロにしてあげるから。
ボロボロになって私が澪を踏みつけ、上に立つ。
そうよね。それが正しいわよね?
そうじゃなければ……。
あなたの上に立てないのなら私は……っ。
『澪の方が地頭がいい気がするんだ……本当に零を目にかけていて正しかったのか』
『あなた、零に聞かれたらなんて言われるか……あの子、怒り出すと手が付けられないのよ。私だって気づいてはいたけど、零の機嫌を取るしかないじゃない……』
誰にも認めてもらえないじゃない……っ。




