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押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました  作者: cheeery


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お気に入りのBAR【御堂零side】



それからやってきたのは凰条一真が気に入っているというBARであった。


お母様にもお父様にも言われた。

あまり我を出し過ぎないように、澪の姿を真似るようにと。


今までこんな屈辱はない。


この男さえ、手に入ればこんなことしないで済んだのに。

でも、手に入れば澪の絶望した顔を見ることが出来るだろう。


大事なものは全て私に取られる運命なのだ。


自分に幸せが待っていることはないと受け入れることだろう。


待ってなさい、澪。

今からあなたの大事な人を奪ってあげるから。


BARの中はこじゃれていた雰囲気で静かなジャズが流れていた。


カウンター席だけではなく、店の中央には、ふたり向かい合って座れる小さなテーブルがいくつか並んでいる。


昼はカフェでもやってそうな割とカジュアルな場所なのか……。


澪と飲むことを考慮してここに連れてきたのだろう。


周りにはあまり人もおらず、静かに飲めそうだった。


数々の男に色んなところへ連れていってもらったけれど、こんな落ち着いた場所ははじめてだった。


これなら計画もやりやすそうね。


ほのかに漂うカクテルの甘い香りが、心地よい夜の雰囲気を作り出す。


私は、澪のフリを完璧に演じながら、凰条一真の向かいのふかふかのイスに腰を下ろした。


「澪、お酒は何をのみたい?」


凰条一真が、優しく問いかける。

私は一瞬だけ迷う素振りを見せて、「一真さんのおススメを」と頼んだ。


「無理はしないようにな」

「ええ」


澪ならどう答えるかを計算しながら、慎重に言葉を選ぶ。


凰条一真が怪しまないように、でも凰条一真には強い酒を飲んでもらう必要がある。


「あの……」

「どうした?」


「一真さんが強いお酒を飲んでいるところがみたいです」


「強いお酒?」


凰条一真は僅かに眉を寄せた。


マズいかな。

澪はこんなこと言わないだろうか。


あんな女のことをずっと見ていたわけじゃないから分からない。


私はフォローするように言う。


「えっと、私はあまり飲めないから……でも一真さんが飲んでいる姿が好きで……」


すると凰条一真は納得したように頷いた。


「そうか、澪が言うなら今日は少し強めのものを飲もうかな」


良かった……。


私はほっとため息をつく。


それにしてもこの男……相手が澪だとやけに優しい顔をする。


しかも、澪が言ったことならなんでも聞くわけ?


……不快だ。


「マスターこの酒を頼む。彼女には飲みやすいカクテルを」

「かしこまりました」


凰条一真は正面で見れば見るほどカッコイイ顔立ちをしている。


端正な眉、切れ長の深い瞳。まっすにこちらを見られるたび、思わず目を逸らしてしまうくらいの見た目だ。


それでいて、金を持った御曹司。

こんな男を逃してしまったのが惜しい……。


あの時、変なウワサさえ信じなければ……。

でもメディアには出ないと言っていたから自信がないのだろう。


そんな男は嫌だわ。

どこか悪いところはないかと粗探しをする。


澪を選ぶレベルなのだから、どこかしら決まらないところがあるはずだ。


「あの、一真さんはメディアに出ることを拒んでいるんですよね?」


「メディア?」


「ええ、あの……メディアには出ないって聞いていたので、あまりいいウワサを聞かなかったもので……」


「……ああ、なるほど。メディアには元々興味がなかったから断っていただけだ。今後仕事をしていく上で必要となっていくなら出るつもりだ」


なんだ……出るつもりはあったのかよ。


「にしてもそんな悪いウワサが出回っていたのか」


「言いにくいのですが、醜い男で金に汚いとか……」


そこまで告げると、凰条一真は急に笑い出した。


「……なるほどな、そんなウワサがあったわけか」


「気を悪くさせてしまったら申し訳ありません」


「いいや、周りには好きに言わせておけばいいさ」


普通の自分の周りからの評価くらい気にするでしょ。


私たちには好きに言わせとけってこと?


すると、バーテンダーが無駄のない動きでグラスを手に取り、静かに歩み寄ってきた。


「お待たせしました」


低く落ち着いた声とともに、グラスがそっとテーブルに置かれる。


私の方は可愛らしいオレンジの色のカクテルだった。


これから凰条一真を飲ませることに専念しないと……。


私はゆっくりとグラスを持ち上げ、艶やかな笑みを浮かべた。


「では乾杯」


「ああ」


キンっとグラスを合わせる。


飲んでいい雰囲気にさせてからそのままホテルに向かう。


私なら絶対に出来るはずよ。


それからしばらく話をしてから飲んでみたいお酒をリクエストしたり、その上で口に合わないと告げて飲んでもらったり、強いお酒を飲んだ時に「すごい」などと言って盛り上げたりを繰り返していた。


かなり飲ませたからけっこう酔いが回っているはずだ。


顔色をうかがうけれど、あまり表情は変わっていない。


これは顔に出ないタイプか、それともかなりお酒に強い?


そんなことを考えていた時、凰条一真は切り出した。


「キミの父や母……それからお姉様のことを聞かせてくれないか?」

「えっ」


なんで家族の話しになるのよ。


せっかくいい感じで酒を飲んでいるというのに……。


「そんな話いいじゃないですか!」


「婚約者の家族の話だ。聞いておきたいだろう?」


ぐっと唇を噛みしめる。


ここを伝えないと不自然になる……?


今は計画が上手くいっている。


酒が入って知りたくなったかもしれないし……。


「気難しいところもあるんですけど、父も母もお姉様もいい人ですよ。私が上手く物事を伝えられないだけで尊敬しています」


「……そうか」


ボソっとつぶやく凰条一真。



「幼い頃からキミは優秀だったのだろうな」


「そりゃあもちろんです。学力も知識も武道も芸術も全て網羅して来ましたわ」


いけない。

今は澪を演じているんだった。


でもあの凰条一真と釣り合うのなら、これくらいの自信はなくちゃね。


こんな話をしている場合じゃない。


早く誘惑して、ホテルに連れて行かなければ……。


もうかなり飲んでいたし、いい頃だろう……。


「あの、一真さん……」


私は恥ずかしそうに顔を赤らめながら凰条一真の手を握った。


「一真さんも飲み過ぎてしまったのではないですか?私も……少し酔ってしまったようで……今日は家に帰らずホテルに泊まりませんか?」


「ホテルに?」


「ええ、ふたりきりになりたくて……」


目を潤め上目遣い気味に凰条一真を見つめる。


これで落ちるはず……。


今まで私のテクニックで落ちなかった男はいないのだから。


そう思い、期待して返事を待っていると彼は言った。



「それは無理だな」



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